第45話 思惑



<クソウの部屋>


佐藤が出て行くのを見送り、ドアが閉まる。

少ししてクソウが武藤たちの方を見る。

「武藤君、今も信じられないよ。 あれが人にせるわざなのかね。 う~む・・もし、今夢だったと言われればそう思ってしまうな」

「閣下、私もそうでした」

武藤も同意する。


クソウはすぐに顔を引き締めて武藤を見る。

「武藤君、諸外国とはすでに戦争に突入していると思っていいだろう。 戦うモノが違うだけだ。 例の高校生だが、うまくこちらの味方につけたいものだな」

クソウの頬が少し引き上げられていた。

「か、閣下、それでは佐藤との会話の整合性が・・」

「武藤君、私は今までの事案については謝罪したつもりだよ。 これからのことはまだ始まっていない。 どうなるのかは私も知らないことだ。 それよりも高校生の力を知っておく必要があるな。 彼らからも直接情報を聞く方がいいだろう」

クソウは内線電話で事務員を呼び出していた。

武藤は思う。

この人は怖いものがないようだ。

だが俺は怖い。

死ぬのが怖いと、これほど思ったことはない。

対等な条件での緊張感は何度か体験したことはある。

だが、佐藤のような次元の違う化け物は別だ。

想像できないのが怖い。

武藤はそこまで考えると、クソウの部屋を後にする。



<テツ>


俺はクソウのところを後にして、今日は会社にメールを送信。

休むことにした。

出社してもよかったし、連絡を入れてもいいが仕事が待っている。

やめだ。

さて、あんなお偉いさんと顔を合わせて話をする機会なんて想像もできなかった。

テレビで見ている人だったからな。

まぁ、これでリカさんやケン君は取りあえず大丈夫だろう。

クソウも言っていたが日本以外の連中が問題だな。

どれくらいの規模で存在するのだろうか。

俺が調べるよりも武藤やクソウのところが調べてくれるだろう。

俺は取りあえず接点を持っているだけでいいようだ。

俺はそんなことを考えながら気楽に臨時休日を楽しもうと思っていた。



<アメリカ>


サラとデイビッドは司令官室からは解放される。

デイビッドは本当に地方へ移住するつもりのようだ。

「デイビッド、本当にアラスカになんか行くの?」

サラが聞く。

「取りあえずはね。 自然の中でゆっくりと暮らすよ」

サラは微笑み答える。

「フフ・・日本に行くまでは世界を征服するような雰囲気だったのに、不思議ね」

「サラ、それは言わないでくれ。 俺は素直なんだ。 東洋の言葉にあるだろ? 君子豹変すって・・賢い人間は、良いと思ったら即座に実行するんだ。 だから朝と夕方では別人のようになっている」

サラは両肩をすくめて、やれやれというジェスチャーだ。

デイビッドが真剣な顔をしてサラを見つめる。

「サラ、前にも言ったが変な正義感で動かない方がいいぞ。 日本にはあんな化け物がいる。 あの化け物はまだマシなやつだったんだ。 もしタイプが違えば、俺たちは今ここにはいない。 それに政治家やビリオネアなんてロクなものじゃないと思うぞ。 関わらない方がいい」

デイビッドの言葉にサラは笑うだけだった。

「ありがとうデイビッド。 大丈夫よ」

二人はそれぞれ軍の監視下に置かれる。

デイビッドはアラスカまで軍が送ってくれる。

サラはハワイの軍施設の近くで暮らすことになっていた。



<名古屋>


ケンの家に黒服の男2人が尋ねてきていた。

時間は15時頃。

家族はケンが魔法使いなどということは知らない。

黒服の応対をした母は驚いていた。

玄関を開けると、誰が見ても雰囲気の違う2人組の男が立っていた。

丁寧な口調で話してくる。

ヤクザなのかと思ったが、違うようだ。

どちら様と聞くと、内閣調査室付と書かれた胸から吊り下げているネームプレートを見せてくれた。

ケンの母親はかなりの緊張と警戒から、そのネームプレートをチラっと見る程度だ。

それにそれが正しいのかどうかもわからない。

それくらいしか考えれなかった。


「ご子息のケン様ですが、まだ学校からお戻りになられておりませんか?」

2人組の男の1人が言う。

「え、えぇ、まだ帰宅しておりませんが、間もなく帰って来ると思います。 ケンに何か御用がお有りですか?」

ケンの母親はこの緊張した状態でよく応対している方だろう。

「はい、実は我々の内閣調査機関にご協力していただきたく伺った次第です」

「え? あの・・内閣ってことは、国の組織ですよね? うちの子が何かしたというか、協力などできるのですか? まだまだ学生ですが・・」

ケンの母親は普通の回答をする。

ガタイの良い男たちも即座に理解したようだ。

この母親は何も知る立場にいない。

子供も自分の能力を知らせていない。

ならば無用な案件を増やすこともないだろう。

そう思って話を始める。


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