第44話 脅威だよ



明らかに声を掛ける立場が逆だろうと思える。

SPは190㎝くらいはあるだろう。

ラガーマンみたいにがっちりしている。

それでいてしなやかな感じのする動きだ。

俺は165㎝しかない。

身体も筋肉質ではない。

だが痩せてもいない。

普通のスリムな体系だ。

どう見ても次元が違う。

そんな俺が来いと声をかけたのだ。

SPが一発殴れば俺が折れそうに見える。

だが、SPは俺の言葉に気持ちが揺らぐ気配はない。

そして、見た目で相手をあなどったりもしていないようだ。


SPが軽く右足を引き、構えたかと思うといきなり右手で突いてきた。

かなり速い突きだ。

俺はまだ動かない。

俺の目の前20㎝くらいのところにSPの右拳が来たところで集中する。

超加速で移動。

さてと・・どうするか。

う~ん、まずはSPの服を脱がすか。

何か男の服ばかり脱がしている感じだな。

気持ち悪・・。

シャツだけでいいだろう。

俺はSPのシャツを脱がせると、折りたたんでクソウの机の上に置く。

クソウがニヤッとしながら俺たちを見ていた。

このじいさんが・・やってくれるよ。

俺はクソウの机の上からペンを借りて、クソウの額にヒマワリを描く。

そしてSPの腕にも落書きをした。

ペンを元の位置に返して、俺はSPの後ろに移動する。


集中力を解除。

ブン!

SPの腕が空を切る。

その瞬間に俺がSPの足を後ろから引っかける。

SPは前のめりになり、そのまま前に転倒した。

ドーン・・。

クソウはニヤッとしていたが、すぐに椅子から立ち上がり前のめりになって俺たちを見ていた。

「な・・」

SPがゆっくりと立ち上がっている。

クソウの目にはこう見えただろう。

佐藤にSPが殴りつけたと思ったら一瞬でSPの背後にいた。

武藤は1度見ているので、クソウほどは驚いていないがやはり驚いていた。

「む、武藤君・・君が言っていたのはこれかね」

「はい、閣下」

クソウはまだ動揺しているようだ。

じいさん、死ぬぞ。

いや、政治家は妖怪だから大丈夫か。

俺は心で思う。


クソウがようやく椅子に腰かける。

そして机の上を見てさらに驚いていた。

「な、なんだこれは? ん? き、君・・裸じゃないか!」

机の上のシャツとSPの上半身が裸なのを見てまた驚いていた。

たぶん寿命が縮んだな。

俺はひそかに思う。

それにしても、その落書きの顔で真剣な話されたら・・。

俺は思わず笑ってしまった。

「ププ・・アハハハ・・・」

俺の笑い声に注目を浴びる。

「あ、いえ・・アハハ・・すみません、クソウさん。 これでおわかりいただけましたか? ププ・・」

俺はそう言葉を出すも、笑いが込み上げてくる。

クソウは椅子に座り直し、大きくため息を出す。

「ふぅ・・これが魔法使いか。 それにしても完全に殴られたと思ったらSPが転がっている。 それに上半身が裸だ。 ワシの机の上にそのSPのシャツがたたまれて置かれている。 こんな能力を他の国の連中も持っているというのかね?」

クソウが独り言のように話していた。

「か、閣下・・それはわかりませんが、私も今見ても信じられません」

武藤が答える。

すぐに武藤の顔が緩くなった。

「ププ・・か、閣下・・失礼しました・・ププ・・か、閣下、お顔をご覧ください・・」

武藤は笑いをこらえるのに必死のようだ。

その必死さがむしろ失礼のような感じさえ受ける。

SPは立ち上がり、クソウの机の上に服を取りに行く。

SPが腕を伸ばして服を取ろうとすると、自分の腕に落書きされているのを確認。

落書きには、よろしくお願いします!

と、書かれていた。

SPは笑うことはない。

だが、手を伸ばしたまま一瞬固まっていた。

すぐに服を手に取り着衣。

クソウは手鏡で自分の顔をチェックしていた。

「う~む・・言葉にならんな」

手鏡を置き、クソウが俺を見る。

「佐藤君・・一言、脅威だよ」

クソウが少し考えていたかと思うと電話の受話器を取る。

ボソボソと何やら話していた。

すぐにドアが開き、事務員らしき人が入って来る。


「君、諸外国の魔法使い関連の情報を集めてくれないか。 どんな小さなことでもいい。 頼むよ」

クソウの言葉に事務員が一礼をして下がって行く。

クソウは俺の方を見て言う。

「佐藤君、君はその力をどう使おうと思っているのかね?」

「う~ん・・そうですねぇ、取りあえず自分たちの安全のためには使います」

俺はそう答え、続ける。

「それに、諸外国の連中が魔法使いを使って侵攻してきたりすれば、対応しますよ」

俺の言葉にクソウの緊張が少し緩んだような気がした。

「そうか・・わかった。 今日はすまなかったね」

クソウがそう告げると、入り口のドアが開く。

事務員らしき人が会釈して、俺を先導してくれる。

どうやら帰れということらしい。

俺は素直に従って帰路につく。


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