第43話 閣下?



さて、行くか。

俺はホテルの出入口までゆっくりと移動し、スッと外へ出る。

ホテルの角を回ると集中する。

超加速で武藤の事務所まで来た。

武藤の事務所の入り口前で集中力を解く。

ドアをノックする。

時間は7時55分。

コンコン・・。

「はい」

ドアの向こうで返事がある。

すぐにドアが開き、女の人が出迎えてくれた。

女の人は俺の顔を見ると、少し驚いたような感じで後ろを向く。

「佐藤さんが来られました」

「入ってもらってくれ」

俺は女の人に案内されて事務所に入って行く。


「おはようございます」

「おはよう佐藤君。 よく来てくれたね。 早速だが出発しよう」

武藤が席を立ちながら出迎えてくれた。

「俺はこれからクソウさんのところに行って来る。 後はよろしく頼むよ」

クソウ?

俺はその言葉を反芻はんすうしながら武藤の後をついて行く。


武藤の運転で移動。

武藤の車の中ではお互いに無言。

車はどこかのゲートを通過する。

入り口では警備員が常駐しているようだ。

武藤が窓を開けて身分証明証を提示して通過。

とある建物の前に止まり、車から降りるように言われる。

俺は車から降りて見上げる。

大きいなぁ・・ここはどこだろう?

武藤が行きますよ、と言って俺を連れて行く。

建物の前で本人認証をしているようだ。

すぐに扉が開き、武藤が俺を連れて入って行く。

建物の中でも同じようなシステムが2カ所あった。

それらをすべてパスすると、やや広い通路に出た。

武藤は迷わず歩いて行く。

俺はわけもわからずついて行くだけだ。

すると、通路の行き止まりのようなところに通路全面を使ったような扉の前で止まった。


コンコン・・武藤がノックをしていた。

「閣下、入ります」

「どうぞ」

閣下?

誰だそれ?

俺は武藤の背中を見つめていた。

武藤が扉を開けて入って行く。

正面には大きな机に黒皮の椅子。

その椅子に深く座った老人がいた。

見たことあるぞ。

部屋の両側にはガタイの良い男がいる。

ボディガードのような感じかな。

俺は気にすることなく武藤の後について行く。

椅子に座った老人の前まで来ると、武藤が背筋を伸ばす。

「閣下、お連れ致しました。 彼が佐藤君です」

どうやら俺の紹介をしているらしい。

俺はこんなところは初めてだし、かなり緊張をしている。


老人が俺を見ながら話しだす。

「君が佐藤君かね、わざわざ来てもらってすまない」

全然申し訳ないと思っていない言葉だ。

俺でもわかる。

俺は一気に緊張が緩んだ。

「おはようございます、佐藤です」

俺が自分の名前を言うと老人はうなずく。

「うむ。 私はクソウだ。 早速で申し訳ないが、君は魔法使いだという報告を受けている。 本当かね?」

クソウが言う。

「はい、正確には魔法使いではありませんが、その認識で間違いありません」

「うむ。 まずは君に謝らねばならないな。 名古屋の学生の件は軽率だった。 また、君のような存在が各国で確認されているという、知り合いとかではないのかね?」

俺はクソウの言葉を聞きながら思う。

なるほど、こいつが黒幕か。

やはり言葉が軽いな。

それに諸外国のことを聞いてくる。

知るか!


「クソウさんとお呼びすればいいのでしょうか。 諸外国のことはわかりません。 まず知り合いではありません。 私の知り合いは名古屋の学生だけです。 他にはいません」

クソウは俺の言葉に興味深そうな顔で俺を見つめる。

「知り合いではないのかね? 君のような能力を使って活動しているというが・・」

クソウが変だなという感じで考えている。

「クソウさん。 私にもはっきりとはわかりませんが、突然この世界から違う世界に飛ばされたのです。 そして向こうでどれくらいの時間を過ごしたのかわかりませんが、いきなりこちらの世界に戻って来たのです。 それも飛ばされた瞬間にです。 すると、向こうで獲得した能力がそのまま使えているわけです」

・・・

・・

俺はクソウに正直に話してみた。

どうせ余計な調べを受けるに違いない。

ジワジワやられる前に、サッサと情報を提供しておく方がいいだろう。

それにリカさんやケン君たちが苦しむことになるかもしれない。

俺はそう思い、基本的な情報は提供した。


クソウは興味深そうに聞いていた。

少し考えていたかと思うと、顔を横に向ける。

ガタイの良い男が近づく。

ガタイの良い男が軽くうなずくと、クソウが話し出す。

「佐藤君、少し君の能力を見てみたいのだが、いいかね? この私のSPだが、なかなかの強者なのだよ。 この男と手合わせをしてもらっていいだろうか?」

クソウの言葉には拒否権はないようだ。

権力者の言う言葉だなと俺は思いながらも素直に従う。

相手の気持ちなど全く考えていない。

「えぇ、いいですよ。 言葉だけでは信用できませんからね」

俺は軽く笑うとSPが俺の前に立った。

SPは笑わない。

そして俺を舐めているような感じでもない。

さすがだ。

SPは上着を脱ぎ、武藤に手渡した。

「いつでもどうぞ」

俺が声を掛ける。

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