第42話 アレクセイとナターシャ
アレクセイとナターシャはゆっくりと地上に近づいていた。
「アレクセイ、それにしても、もの凄い威力ね」
「あぁ、俺も驚いているよ。 複合魔法がこれほどの威力になるとは思ってもみなかった」
「えぇ、私もそう思うわ」
「俺たちの相性がいいんだろうな、きっと」
「ありがとう、アレクセイ」
ナターシャとアレクセイが顔を見合わせて微笑む。
!!
直後、自分たちのお腹に熱い感覚を感じる。
「な、なんだ?」
「なに?」
アレクセイとナターシャがゆっくりと自分たちのお腹を見る。
黒い棒のようなものが突き出ていた。
2人はゆっくりと落下しながら震える。
歯をガタガタと震わせながら後ろを見ようとした。
「残念だよ、アレクセイ、ナターシャ」
ミシチェンコだった。
「君たちにはどこか辺境の街で暮らしてもらいたかったのだが、そうもいかないようだ」
ミシチェンコが寂しそうな顔をして静かに言う。
実際、ミシチェンコはアレクセイとナターシャを大統領の関心のない北の村へと移動させようとしていた。
大統領も殺せとは明言していない。
言葉の解釈ではどうとでもできる範囲だった。
せっかくの帰還者仲間だ。
せめて生きて欲しいと思っていた。
だが、違ったようだ。
彼らがいるがために危険を呼び込むだろう。
どこかで鉄槌を下さなければならない。
それは早ければ早いほど良い。
仕方ない。
ミシチェンコはそう自分に言い聞かせて行動に移していた。
「アレクセイ、ナターシャ。 もう少し大人になれればよかったのだがな・・本当に残念だよ」
ミシチェンコが重ねて言う。
「ミ、ミシチェ・・」
「ウググ・・」
アレクセイとナターシャがゆっくりと瞬きをする。
ミシチェンコは2人の身体に刺さっている手を引き抜く。
直後2人の身体を青い炎が包む。
テツが出した炎のような感じだ。
「その炎は、お前たちが燃え尽きるまで消えることはない。 さらばだ」
ミシチェンコはそう告げると、一足先に地上へと到着した。
上を見上げる。
青い炎が揺らめきながら落下してくる。
しばらくすると、炎が小さくなり地上へ到着することなく消えていた。
青い炎を見つめながらミシチェンコは黙祷を捧げていたようだ。
しばらくしてミシチェンコは周りを見渡す。
辺り一面は完全な焼け野原というには生易しい。
黒くなった土の地面が広がっていた。
ミシチェンコが見る限り、草木一本すらない。
ふぅ・・とため息を出すと、ミシチェンコは来た道を戻って行く。
◇
<テツのホテル>
ブー、ブー、ブー・・・。
俺の頭の方で振動音がする。
俺は手探りで音源を探す。
携帯だった。
手に取り画面を見る。
誰だ?
画面を見ると武藤と表示されている。
ん?
武藤?
さっき会ったよな?
俺はそう考えながらも電話に出る。
『・・はい、佐藤です』
『あ、佐藤さん、おやすみのところ申し訳ない』
全くだよ。
俺は心の中で即答する。
『ふわぁ・・どうしたんですか、武藤さん』
あくびが出るのは仕方ないだろう。
『はい、実はあるお方・・政治家なのですが、佐藤さんにお会いしたいと言っております』
武藤が淡々と話す。
政治家?
なんだそれ・・どうでもいいぞ。
『え、あぁ、そうですか。 で、いつ会いたいと言っているのですか?』
『今日の8時頃ではどうですか?』
8時頃?
ちょっと待て。
えっと今何時だ?
俺は携帯を見る。
3時半。
まだ2時間くらいしか寝てないぞ。
俺って寝不足が続くと頭痛がするんだよな。
8時前だと、後3時間くらいしか寝れないが、ワンサイクルは寝られるか。
俺はそんなことを思い軽く返答をする。
『わかりました。 ではまたその時間に・・』
俺はそこまで言うと電話を切った。
即座に2度寝に入る。
・・・
・・
俺はパッと目が覚めた。
起きるなり時間を確認する。
外が明るい。
何時だ?
部屋の時計も見える。
時計の針が7時半を指していた。
し、しまった!
完全に寝過ごした。
あ!!
そうだ、確か夜中に武藤から電話があって・・なんだっけ?
確か8時に誰かと会うとかなんとか・・忘れた。
だが、8時に武藤のところに行けばいいわけだ。
時間がない。
朝食はダメだろうな。
俺は急いで顔を洗い歯磨きをする。
その間に水をポットで沸かして湯を作っておく。
コーヒーだけでも飲んで行きたい。
・・・
・・
時間は7時50分。
会社にもメールをしておかなきゃ。
今日は休みます・・と。
俺はメールを送信した。
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