第39話 ミシチェンコ
ミシチェンコ。
テツよりもかなり前に異世界に転移させられていた。
柔軟に異世界に対応し、軍事部門では指揮官も任されるようになる。
レベルも32になり、主力部隊の重鎮となっていた。
魔族方面に出向くことはなく、人の領域を蹂躙していた。
相手のレベルは高くても25くらいだ。
ミシチェンコに勝てるはずもない。
ブレイザブリクと国境を接している国も勇者召喚などをしていたようだが、それほど高いレベルの勇者を召喚できるわけではないようだ。
ミシチェンコが自惚れるのも無理はないだろう。
比較できる対象がいないのだから。
だが、ミシチェンコは自重できる人間だった。
自分よりも強いものはいないのはわかっている。
だからと言ってその位置で安心するわけにはいかない。
かつてのロシア帝国はそれで滅んだのだ。
ブレイザブリクの侵攻は、慎重に戦略を組み、危なげなく戦っていく。
ミシチェンコのおかげだ。
だが、ある時突然地球に帰って来た。
自分が転移させられたその場所にだ。
時間は少し経過していたようだ。
ミシチェンコは知らないが、テツが帰還した時間を軸として転移者は戻ってきているようだった。
向こうでは何年いたのだろうか、よく覚えていない。
こちらでは半年も経過していないようだが。
こちらに帰って来ても自分のステータスは維持できている。
これは恐ろしいことだ。
同時に素晴らしいことだ。
ミシチェンコに世俗的な欲はない。
帰還者の何人かの連中が力を持ち、増長しているようだ。
まるで神になったかのような言動も耳にする。
そして誰も制御するものもいない。
私には世界征服などどうでもいい。
ただ、自分の環境を守れればそれでいい。
ミシチェンコはそう思っていた。
すると自分の所属する村が武力威圧を受け始める。
ロシア軍だ。
何でも天然資源が豊富な地域らしい。
こんな小さな村に軍が出動するのか?
ロシア内陸なので諸外国に知られることはない。
ミシチェンコは最初話し合いで応対していた。
だが軍は聞いているようで全く聞いていなかった。
ある日突然、軍は村人に向かって発砲した。
ミシチェンコは激怒する。
発砲した奴を即座に瞬殺。
驚いた兵士がミシチェンコ向けて発砲。
戦車による砲撃も開始した。
だが、ミシチェンコは無傷だった。
それどころか兵士は皆殺しにされ、戦車は火球に包まれて消滅する。
兵士たちになすすべはなかった。
襲撃された村は、村人の8割以上が死傷した。
ミシチェンコは我に返ると急いで村人に回復魔法をかける。
負傷した村人たちはすぐに元気になった。
軍は消滅したが、その状況は村人の知るところとなる。
しばらくするとミシチェンコに呼び出しが入った。
聞けばプッツン大統領だという。
最初、冗談かと思ったが事実のようだ。
後でわかったのだが、村人が情報を売ったらしい。
その村人はどこに行ったのかわからない。
ミシチェンコは要請通りに動き、プッツン大統領と面会。
大統領はミシチェンコを快く迎えてくれる。
だが、自分の村を襲撃させた軍のトップだ。
ミシチェンコはかなり警戒していた。
しかし、プッツン大統領は人としてミシチェンコと接してくれる。
そして次第にミシチェンコは心を許してゆく。
この人の為ならばと思うようになっている自分に気づく。
それが例え
そう思えるようになっていた。
◇
「ミシチェンコ君、最近モスクワ付近で能力者の制御ができないと聞いている。 対処してもらえないだろうか」
「アレクセイ(♂)とナターシャ(♀)ですね」
ミシチェンコが答える。
プッツン大統領がうなずく。
「彼らは目立ちすぎた。 君がいれば我が国は安泰だ。 だが彼らのせいで他国に情報が漏れている」
プッツン大統領はそこまで話すとミシチェンコをジッと見る。
ミシチェンコは少し寒い感じがする。
このサウナの中にいるというのにだ。
「・・閣下、わかりました」
「うむ。 よろしく頼むよ。 ミシチェンコ君、前に空から火球が我が国に落下したことがあっただろう。 あれは神の啓示だと私は思っているのだ。 そんな時に君が帰ってきた。 君は神の使わされた使者なのだと思うのだ」
プッツン大統領はそう言うと席を立ち、ミシチェンコの頬に軽くキスをした。
そのままギュッとミシチェンコを抱きしめる。
少しするとミシチェンコから離れサウナ室を出て行く。
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