第38話 思惑



武藤と室長が入り口付近で立ったまま固まっていた。

「どうしたのかね。 こちらに来ればいい」

ガウンを来た男が振り向きながら言う。

「あ、はい。 夜分に失礼します、クソウ大臣」

クソウはうなずくと椅子に戻り座った。

椅子の前にはやや大きな木造りの机がある。

机越しに武藤と室長が整列する。

「で、どうだったのかね?」

クソウが尋ねる。

「はい。 魔法使いの存在は確認されました。 そのうちの1人はこの武藤が接触しております」

室長の言葉にクソウが興味深そうな目つきで見る。

「ほぅ、実在したのかね」

武藤が一歩前へ出る。

「閣下、まずはこれをご覧ください」

武藤はそう言いながらポケットからデータカードを取り出す。

武藤はクソウの机の上のPCを操作してデータを再生する。

・・・

・・

クソウが椅子に深く座り直し、何かを考えているようだった。

決して寝ているわけではないだろう。


少しして口を開く。

武藤と室長は机の前で立ったまま待っていた。

「君ねぇ・・これを信じろと言うのかね?」

武藤が再生した映像は、佐藤が拳銃で撃たれるシーンだった。

結果は、撃った本人が丸裸にされているというものだ。

「閣下、それだけではありません。 撃った弾丸をつかみ取り、私の机に上に部下の制服と共に置かれていたのです・・」

武藤が話しているとクソウが言葉を被せてくる。

「武藤君だったかね? 起こったことが事実だとしても、誰も信用しないだろうと言っているのだ」

クソウが武藤を見つめる。

武藤は妙なプレッシャーを感じた。

「武藤君、これを世間に公表したとしよう。 どうなると思うかね?」

武藤はいきなりの質問に戸惑ってしまった。

「え・・あ・・その・・おそらく映画か何かだろうと思われます」

「そうだ。 だが、よくわかったよ。 諸外国がこのような能力を既に使っているのだろう。 私も映像を見る限りは映画にしか見えんよ。 だが、実際に起きているのなら脅威だろうね。 軍事バランスが崩れる」

クソウは何か考えているようだ。

武藤と室長は立ったままだ。

時間は2時を過ぎている。


「ふむ・・この彼に会えるかね?」

突然クソウが言う。

室長と武藤は顔を見合わせてうなずく。

「はい、私が連絡を入れます」

武藤が直立不動の姿勢で答えた。

「うむ。 まだ夜中だな・・首相たちも休んでいるだろう。 そうだな・・この人物を8時にこの部屋に連れてきてもらえないか」

クソウが顎を撫でながら言う。

武藤が少し間をおいて回答。

「はい、わかりました」

武藤の言葉を聞き、室長が続けて発言する。

「では閣下、我々はこれで失礼します」

回れ右をしてクソウの部屋を出て行く。

代わってガタイの良い男が入ってきた。

SPのようだ。

「君、後で少し力を貸してもらうかもしれないが、よろしく頼むよ。 ワシは少し眠る」

SPはうなずくと部屋を出て行った。


クソウは椅子に座り直し考えていた。

まさか本当にいたとはな。

これは僥倖だ。

今までの世界地図が変わるだろう。

もっと諸外国の情報を集めねばなるまい。

弾丸を避けるどころかそれを掴む人間か。

「フフフ・・ファハハハハ・・・」

クソウは思わず声に出して笑っていた。



<ロシア>


柔道着に身を包み、1人の老人が投げられていた。

バタン。

きれいに受け身を取る。

老人といっても、見た目は50代といってもわからない。

道着を直し肩すくめる。

「ふぅ・・サウナでも行くかね」

投げられた老人が言う。

「はい閣下」

脱衣所で服を脱ぎ、サウナ室へ入って行く。

道着を脱いだその肉体は老人のそれではない。

かなり鍛えられた身体のようだ。


木製の椅子に座り、蒸し暑い部屋の中で静かに目を閉じている。

「ふぅ・・順調かね?」

老人が尋ねる。

「はい、問題ありません」

「中国にはまだ魔法使いはいないようだな」

「はい」

「アメリカやEUには存在が確認されたようだが、どんな感じかね?」

サウナの中の2人は汗を流しながら座っている。

「はい、今のところ脅威となるレベルではないようです」

その言葉に老人は目を開けて見つめる。

男は少し背筋が伸びた。

自然と怯える感じだ。


俺は異世界から帰ってきた男だ。

だが、この大統領に真剣な眼差しで見つめられると身体が委縮する。

その雰囲気が違う。

「閣下、私と同等のレベルの人間などは存在するはずもありません」

老人はジッと男を見る。

少しして言葉を出す。

「絶対という言葉はない」

男は言い過ぎたとすぐに反省した。

「は、はい。 申し訳ありません。 私としたことが言葉を間違えてしまいました。 私と同等レベルの存在は、ほぼいないと思われます」

老人:プッツン大統領はうなずく。

「ミシチェンコ君、そう緊張しなくてもいいよ。 私も君の実力は知っているつもりだ。 ネオ・コサック隊ですら話にならないのだからな。 それに物理兵器が役に立たないときている、脅威だよ」

「はい、恐れ入ります」


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