第37話 内閣府庁舎



武藤は内閣情報調査室に向かっていた。

頭の中は信じられないことだらけだ。

銃弾を避けるどころかそれを掴み取ったようだ。

しかも時間の中を自由に動ける。

現代社会では理解できない代物だ。

報告しても信じてもらえるかどうか怪しい。

だが、撮影したデータは持っている。

見せないわけにはいかないが、信じられないだろう。

武藤は自嘲気味に笑うと内閣府庁舎に入って行った。


通路を歩いていると夜中だが人とすれ違う。

「よう武藤じゃないか。 こんな時間にどうしたんだ?」

「あぁ、竹田か。 今から報告だ」

「そうか、ご苦労さん」

武藤はすれ違いながら挨拶をして進んで行く。

武藤の直接の上官の部屋に来た。

ドアをノックして武藤が入って行く。

「武藤です、入ります」

ドアを開けると、中には人が3人いた。

武藤は軽く一礼をして、近寄って行く。

「部長、例の案件ですが、まずはこの映像を見てください」

武藤はそう言いながらデータカードを取り出し、PCを勝手に持ってきて挿入していた。

部屋の中の人達が愚痴る。

「武藤、いきなりだな」

「我々も忙しいのだ。 こんな時間まで首相の愚痴聞きだよ」

武藤は軽く微笑みながらも作業を続ける。


PCに画像が映し出された。

「これは加工映像ではありません。 ほんの1時間ほど前に起こった事実です」

武藤がそう説明し5分ほどの映像が流れた。

・・・

「武藤、これを信じろというのか」

「室長、事実です」

「・・誰も信じんよ」

「わかっています。 ですが、お見せしないわけにはいかない。 私だって未だに信じられません」

武藤は落ち着いた口調で言う。

「武藤君、我々も信じられないよ。 発砲された瞬間にこの男が裸になっている。 意味がわからんよ」

室長以外の2人が笑いながら言う。

「室長、信じる信じないは個人の自由です。 ですが、私の目の前で起きた事実です。 そして、これを事実として考えると諸外国はこういった人物を実戦投入してきているということです」

武藤のその言葉で全員の顔つきが変わる。


「武藤、我々もそれを協議していたのだよ。 魔法使いなどとおとぎ話のようなことを言う連中がいる。 諸外国では我が国のように新型コロナウイルスが無くなった地域も実在する。 それも突然にだ。 仮にこの映像のようなことができる人物が実戦にいるとすれば、どうなる?」

室長が武藤に聞いていた。

「はい、通常の兵器や人では相手にならないでしょう。 私が見た限り、彼は銃の発砲した瞬間に、これだけのことを何の苦も無くやってのけたのですから。 それにこれは魔法ではないと言っておりました」

「魔法ではない?」

「はい」

「どういうことだ・・いや、それよりも大臣に報告をする。 武藤、お前もついて来い」

室長はスッと席を立ちあがり、係を呼ぶ。

「君、大臣に至急お伝えしたいと連絡してくれ」

係の人は軽くお辞儀をするとサッと移動する。

室長は武藤を連れて部屋を出て行った。

残された2人もそれぞれの業務に戻るようだ。


室長は歩きながら武藤に聞く。

「武藤、先ほどの彼だがな・・呼び出しには応じてくれそうか」

「はい、佐藤君ですね。 彼には協力的な感じを受けました」

「そうか。 大臣に報告をした後に呼び出すことになるかもしれん」

室長は大臣たちの前で見せるのが一番早いだろうと思っていた。

映像を見せても、我々と同じ反応だろう。

それに私も見てみたい。

しかも、時間がない。

室長と武藤は早足で歩いて行く。


 

<テツ>


俺はホテルまで帰って来ていた。

時間は1時過ぎ。

さて、後はどうなるのかもうわからない。

なるようになるしかない。

俺たちの存在は、光の下にさらされるだろう。

まぁ隠そうとしても、いずれわかることになったに違いない。

諸外国は平気でアピールしている。

あの空港のアメリカ人がいい例だ。

外国人というかアメリカ人は、宝くじの高額当選でも平気で顔出しするよな。

その心境が俺にはわからない。

俺はベッドの上でいろいろ考えていると眠っていたようだ。



<武藤と室長>


ガタイの良い男に付き従って歩いている。

時間は1時30分過ぎ。

ドアをノックして入って行く。

室内にはガウンを来た老人が窓の方を向いて立っていた。

「閣下、お連れしました」

ガタイの良い男はそう告げると、ドアを閉めて外で待機する。


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