第36話 どうしようもない



俺はその炎を練ってゆく。

魔力を込めて、小さいながらもかなりの規模の魔法になっているだろう。

「ふぅ・・武藤さん、この小さな炎ですが、この辺り一帯を吹き飛ばすほどの魔力が溜まっています。 えっと、常盤さん、あなたの銃をこの炎に向けて放り投げてもらえますか?」

威力の大きな魔法を小さくするのは少し疲れる。

常盤が武藤の方を見ると、武藤が顎で指示をした。

常盤が歩いて来て俺の炎に向けて銃を投げる。

!!

炎に近づくと、銃が一気に真っ赤になり、ジュンッといって蒸発した。

「「「なっ・・」」」

みんなが驚いている。

ま、そりゃそうだろう。

鉄が蒸発したんだからな。


俺は手を握りしめて炎を消す。

「ふぅ・・」

武藤たちが黙って俺を見ている。

完全に警戒しているな。

「さ、佐藤さん・・あんたの他、いや海外の魔法使いなんかも同じようなことができるのか?」

武藤がかろうじて言葉を出す感じで話してくる。

「さぁ、それはわかりません。 ただ、名古屋の学生たちは少なくとも同じようなことができます。 彼らが暴走したら止めるものがいませんよ」

俺の言葉に武藤は理解し始めたようだ。

武藤は目を閉じて下を向いている。

「・・そうか・・」

武藤が小さくつぶやき、続けて言う。

「俺たちは触れてはいけないものに触れ、そして遊び半分で相手を刺激したわけだ」

「む、武藤さん、我々は・・」

「わかっている常盤! 諸外国の魔法使いが国家レベルで関わっているのだろう。 わかっている。 だからってお前も見ただろう。 どうやって対処するというんだ? 銃弾が発射されても、その間にいろんなことができるんだぞ。 俺たちの見えない時間の中で動かれるんだ。 どうしようもないじゃないか!」

武藤が突き放すように言葉を出す。

「いや、すまない。 俺が悪かった。 佐藤さん、少し聞きたいのだが君の力・・どれくらいのものだと判断しているんだ?」

武藤が冷静な口調で聞いてくる。

「俺の力ですか?」

武藤がうなずく。

周りの人たちも真剣な顔で俺を見る。

「そうですね・・何を力と言えばよいのかわかりませんが、軍が来ても傷つくことなく勝てますね」

俺は淡々と答える。

武藤は笑っていた。

笑うしかないだろう。

武藤以外の連中はポカーンとしている。

「フッ、そうですか。 それであなたはどうしようと考えておられるのかな?」

武藤が言う。

「武藤さん、それを聞きに来たのですよ。 諸外国は既に魔法使いを国家が認識しているのでしょう? 私たちは同じ日本人です。 敵対しても利益がありません。 とにかく今は名古屋の学生たちに安全だという認識を持ってもらうのが先決ですね。 それからですよ」

俺の言葉を聞き武藤はうなずく。

一呼吸おいて周りに指示を出していた。


俺もケン君に電話を入れなきゃ。

こいつらの警戒もある。

ここで会話を聞かせるのがいいだろう。

「武藤さん、名古屋の学生に電話を掛けますよ」

「あ、あぁ、わかった」

「武藤さん、いいんですか?」

常盤が聞いていた。

武藤は常盤を見つめていると言葉を出す。

「常盤、サッサと服を着ろ」

慌てて服を着る常盤だった。


俺はケン君に電話をかけた。

『はい!』

『やぁケン君。 こっちは無事に終わったよ。 君たち家族は国が守ってくれるよ』

『ほ、ほんとですか? よかったぁ・・やっぱテツさんに相談してよかったですよ。 すぐにリカに言ってやりますね』

ケンは慌てて電話を切った。

武藤が俺のやり取りをジッと見ていた。

「武藤さん、今日はもう遅いので一度帰りますね」

武藤が立ち上がって俺の前に来た。

「佐藤さん、これからよろしくお願いしますよ」

武藤が片手を出してくる。

俺も一瞬警戒したが、しっかりと武藤の手を握る。

お互いに握手をして俺はホテルに帰って行く。



<武藤たちの事務所>


武藤は俺が出て行った扉を見つめている。

「武藤さん、良かったのですか?」

常盤が言う。

「良かったとは、どういうことだ?」

「いえ、このまま帰して良かったのかと・・」

「好きにさせるしかないだろう」

武藤は投げやりになったわけではない。

ただ、どうすることもできない。

極端な話、佐藤の気分を害せば俺たちは滅ぶということだ。

たった1人の人間に世界が左右されるというのか。

冗談ではない。

だが、そうなるのだろう。

しかも諸外国はすでに行動を起こしている。

日本が出遅れたのだ。


武藤は1人考えていた。

フト周りを見るとみんなの視線が集まっている。

「お、おっとすまない。 みんな勝手な行動は慎めよ。 俺は本部へ戻って報告と指示を仰いでくる」

時間は1時を過ぎている。

武藤は事務所を後にした。

事務所では先ほどの出来事の検証というか、話が自然と出てきていた。

武藤の机の上にはテツの置いた銃弾が一発置いてあった。



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