第40話 プレッシャー


ミシチェンコは思う。

プッツン大統領は普通の人間のはずだ。

なのにどうして私がこうも委縮するのだろうか。

小さな子供が先生の前に立って緊張するような感覚だ。

身体が自然に反応する。

強さなどではない。

人として何か違う。

ミシチェンコはそこまで考えると頭を振る。

「邪推だな・・」

ミシチェンコもサウナの部屋を出て冷水を浴びに行った。



<アレクセイ(♂)とナターシャ(♀)>


彼らも帰還者だった。

レベルはそれぞれ27。

ミシチェンコの近くの村の出身のようだ。

ブレイザブリクの国では英雄として過ごす。

相手のもてなしを堪能し、プチ王様気分を満喫していたのだろう。

それで十分だった。

アレクセイとナターシャは気が合った。

お互いに贅を尽くし異世界を楽しんでいた。

基本レベルが高く彼らに強く言うものはいない。

戦闘もレベルに任せたものだ。

だが、敵対できる人間はいない。

そんな生活を送っていた。

するとある日突然、現代社会の現実に引き戻された。

だが、こちらの世界でも魔法やレベルが使えるようだ。

アレクセイとナターシャは好き勝手な生活をしていた。


そのうちプッツン大統領と出会う。

ミシチェンコが既にプッツンの右腕として働いていた。

最初、アレクセイとナターシャは傲慢な態度で接してきていたが、ミシチェンコの実力を知るとおとなしくなった。

同じ異世界帰りで相手がレベルが上。

レベル差は嫌というほど知っていた。

アレクセイとナターシャも素直にプッツン大統領に従うようになる。


とある街の郊外の家の中。

「ナターシャ、ここも飽きてきたよな」

「えぇ、もういいんじゃない?」

「そうだよなぁ。 こんな金集めてもあまり意味ないしな・・そうだ! 他の国に行ってみないか?」

「アレクセイ・・私もそう思うけど・・ミシチェンコが怖いわ」

ナターシャが微笑みながら答える。

「確かにな・・だが、俺たち2人で逃げることはできるだろう」

「逃げる・・ね」

ナターシャの歯切れが悪い。

「ナターシャ、他国の魔法使いの扱いはVIPらしいぜ」

「アレクセイ、今の私たちの扱いも同じようなものじゃない?」

「ハッ、何言ってんだよ。 俺たちに自由なんてない。 あの大統領の手の平の上だよ。 あのおっさん、何者なんだろうな? 普通の人間のはずだが、雰囲気が違うんだよ」

アレクセイが吐き出すように言う。

「そうね、何か違うわね。 そんな人間から逃げようというのよ、大丈夫かしら?」

「俺たちが怖いのはミシチェンコだけだ。 もし行き詰まったらあのおっさんをればいいんだよ」

アレクセイは乱暴な発言をする。

ナターシャには笑えなかった。

普通の人間など、軽く触れるだけで死ぬ。

プッツン大統領にしてもそうだろう。

だが、何か普通とは違うものを感じさせる人間だ。

ナターシャはそこまで考えると口ずさむ。

「・・他国かぁ・・私たちの新しい生活も考えてもいいかもね」

「だろ? それに・・」

!!

アレクセイがそこまで言った時だ。

扉の向こうに気配を感じた。


ナターシャとアレクセイは無言で顔を向き合わせ、うなずく。

アレクセイがゆっくりとドアに近づいて行く。

俺たちにこんなに近くまで気配を感じさせない人間がいる。

おそらく帰還者だろう。

まだ居たのか。

そう思いつつドアノブに手をかけようとした。

コンコン。

ドアがノックされる。

ナターシャとアレクセイはまた顔を見合わせた。

ナターシャが声を出す。

「どちら様?」

「ミシチェンコだ」

すぐに返答があった。

!!

ナターシャとアレクセイは驚いた。

同時に妙に少し安心もした。

ミシチェンコなら気配を感じなくても不思議ではない。


アレクセイがゆっくりとドアを開ける。

ミシチェンコがいた。

「や、やぁ、ミシチェンコじゃねぇかよ。 いったいどうしたんだ?」

アレクセイが言う。

「中に入らせてもらうぞ」

ミシチェンコが部屋に入ってきた瞬間にナターシャとアレクセイは理解した。

!!

俺たちを殺す気だ。

アレクセイは心臓がドクンと大きく拍動するのを感じる。

ミシチェンコが部屋の中に入り、ゆっくりと息を吐く。

「ふぅ・・お前たち、自分たちが何をしているのかわかっているのか?」

アレクセイとナターシャの背中に冷たい汗が流れる。

「ミ、ミシチェンコさんよ、俺たちも少しやり過ぎたんじゃないかと思っていたところだ」

アレクセイは少し震えているようだ。

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