第40話 プレッシャー
ミシチェンコは思う。
プッツン大統領は普通の人間のはずだ。
なのにどうして私がこうも委縮するのだろうか。
小さな子供が先生の前に立って緊張するような感覚だ。
身体が自然に反応する。
強さなどではない。
人として何か違う。
ミシチェンコはそこまで考えると頭を振る。
「邪推だな・・」
ミシチェンコもサウナの部屋を出て冷水を浴びに行った。
◇
<アレクセイ(♂)とナターシャ(♀)>
彼らも帰還者だった。
レベルはそれぞれ27。
ミシチェンコの近くの村の出身のようだ。
ブレイザブリクの国では英雄として過ごす。
相手のもてなしを堪能し、プチ王様気分を満喫していたのだろう。
それで十分だった。
アレクセイとナターシャは気が合った。
お互いに贅を尽くし異世界を楽しんでいた。
基本レベルが高く彼らに強く言うものはいない。
戦闘もレベルに任せたものだ。
だが、敵対できる人間はいない。
そんな生活を送っていた。
するとある日突然、現代社会の現実に引き戻された。
だが、こちらの世界でも魔法やレベルが使えるようだ。
アレクセイとナターシャは好き勝手な生活をしていた。
そのうちプッツン大統領と出会う。
ミシチェンコが既にプッツンの右腕として働いていた。
最初、アレクセイとナターシャは傲慢な態度で接してきていたが、ミシチェンコの実力を知るとおとなしくなった。
同じ異世界帰りで相手がレベルが上。
レベル差は嫌というほど知っていた。
アレクセイとナターシャも素直にプッツン大統領に従うようになる。
とある街の郊外の家の中。
「ナターシャ、ここも飽きてきたよな」
「えぇ、もういいんじゃない?」
「そうだよなぁ。 こんな金集めてもあまり意味ないしな・・そうだ! 他の国に行ってみないか?」
「アレクセイ・・私もそう思うけど・・ミシチェンコが怖いわ」
ナターシャが微笑みながら答える。
「確かにな・・だが、俺たち2人で逃げることはできるだろう」
「逃げる・・ね」
ナターシャの歯切れが悪い。
「ナターシャ、他国の魔法使いの扱いはVIPらしいぜ」
「アレクセイ、今の私たちの扱いも同じようなものじゃない?」
「ハッ、何言ってんだよ。 俺たちに自由なんてない。 あの大統領の手の平の上だよ。 あのおっさん、何者なんだろうな? 普通の人間のはずだが、雰囲気が違うんだよ」
アレクセイが吐き出すように言う。
「そうね、何か違うわね。 そんな人間から逃げようというのよ、大丈夫かしら?」
「俺たちが怖いのはミシチェンコだけだ。 もし行き詰まったらあのおっさんを
アレクセイは乱暴な発言をする。
ナターシャには笑えなかった。
普通の人間など、軽く触れるだけで死ぬ。
プッツン大統領にしてもそうだろう。
だが、何か普通とは違うものを感じさせる人間だ。
ナターシャはそこまで考えると口ずさむ。
「・・他国かぁ・・私たちの新しい生活も考えてもいいかもね」
「だろ? それに・・」
!!
アレクセイがそこまで言った時だ。
扉の向こうに気配を感じた。
ナターシャとアレクセイは無言で顔を向き合わせ、うなずく。
アレクセイがゆっくりとドアに近づいて行く。
俺たちにこんなに近くまで気配を感じさせない人間がいる。
おそらく帰還者だろう。
まだ居たのか。
そう思いつつドアノブに手をかけようとした。
コンコン。
ドアがノックされる。
ナターシャとアレクセイはまた顔を見合わせた。
ナターシャが声を出す。
「どちら様?」
「ミシチェンコだ」
すぐに返答があった。
!!
ナターシャとアレクセイは驚いた。
同時に妙に少し安心もした。
ミシチェンコなら気配を感じなくても不思議ではない。
アレクセイがゆっくりとドアを開ける。
ミシチェンコがいた。
「や、やぁ、ミシチェンコじゃねぇかよ。 いったいどうしたんだ?」
アレクセイが言う。
「中に入らせてもらうぞ」
ミシチェンコが部屋に入ってきた瞬間にナターシャとアレクセイは理解した。
!!
俺たちを殺す気だ。
アレクセイは心臓がドクンと大きく拍動するのを感じる。
ミシチェンコが部屋の中に入り、ゆっくりと息を吐く。
「ふぅ・・お前たち、自分たちが何をしているのかわかっているのか?」
アレクセイとナターシャの背中に冷たい汗が流れる。
「ミ、ミシチェンコさんよ、俺たちも少しやり過ぎたんじゃないかと思っていたところだ」
アレクセイは少し震えているようだ。
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