第26話 再会



<魔法を放つ2人>


女の子が指先を空に向けて、かなりの間隔を置いて魔法の矢を放っているようだ。

指先に青い光の弾を作る。

それを矢状にして放っていた。


「ねぇケン。 相手は気づいたかな?」

リカだ。

「リカ、気を緩めるなよ。 俺たちはとても危険なことをしているんだ。 俺も注意して周りを探っているが、相手が上のレベルなら対処できないぞ」

「ちぇ、ケンは心配性だよねぇ。 大丈夫だって・・こんな暖かい結界をしている人たちだよ。 問題ないって・・」

「リカはいつもそれで失敗しているだろ」

ケンが笑いながら言う。

「あ~、またケンったらバカにして・・」

リカがそこまで言った時だ。

!!

リカとケンの近くに人影が現れた。


ケンは驚いた。

周りの索敵は怠っていなかったはずだ。

それが全く気付かずにこんな近くに人がいる。

間違いなく俺たちよりもレベルが上の人間だ。

やっぱり、こんなことするんじゃなかった。

クソ! 

リカのやつ・・いや、俺も賛成したんだ。

仕方ない。

とにかく何とかしないと。

ケンは一度にいろんなことを考えていた。


影がゆっくりと近づいてくる。

どうやら一人のようだ。

両腕をゆっくりと上げていた。

影が声を出しながら近づいてくる。

「俺に害意はない。 君たちか、俺の結界に魔法を放ったのは? それに魔法が使えるということは帰還者だな。 もう少し近づくが、攻撃はしないでくれ」

影はそう言いながらゆっくりと歩いてきた。

ケンの心臓はバクバクだ。

リカは黙って影の方を見ている。

ケンはリカの方をチラっと見て思う。

こいつ、わかっているのか?

ヤバすぎる相手だぞ。

だが、リカの一言でケンの緊張は一気にほぐれた。


「テツさん!」

!!

な、なに?

ケンは完全に呆然としていた。


<テツ目線>


俺は両手を上げて、魔法を放っている2人にゆっくりと近づいていた。

突然、女の子の声で俺を呼ぶのが聞こえる。

「テツさん!」

俺は一瞬ドキッとした。

俺を知っている帰還者。

だが、その警戒もすぐになくなった。

空から月の光が降り注ぐ。

2人顔が見えるようになった。

!!

まさか・・生きていたのか。

俺は歩くのを忘れて、その場で突っ立っていた。

身体が震える。

「・・ケン君・・リカさん・・」

俺はそうつぶやきながらゆっくりと近づいて行く。


2人の前に来ても言葉が出て来ない。

するとリカが笑顔で俺を見る。

「テツさん、お久しぶりです。 生きていたんですね」

ケンがリカの顔を見る。

「リ、リカ。 お前バカか。 一言多いんだよ」

「え~どうして?」

「お前の言い方だと、生きてちゃいけないような言い方に聞こえるだろ!」

「そんなことないよ。 私、テツさんが生きていてうれしくなったんだから」

リカとケンの会話を聞いていると、俺は可笑しくなってきた。

「アハハ・・君たちらしいや。 君たちこそ生きていたんだね。 そして、無事に戻ってこれて良かったよ」

俺は笑うのをやめて、続けて聞いてみる。

「君たちが帰って来れたということは、ユウジさんやケイコさんもどこかにいるのかな?」

俺がユウジたちの事を聞くと、ケンがうつ向いていた。


「テツさん・・ユウジさんとケイコさんは亡くなったのです・・俺の目の前で・・」

ケンはうつむいたまま話す。

それから俺たちは、あの爆発のあった後のことをいろいろと話しあった。

・・・

・・

「そうか・・君たちもあの国を離れたんだな。 それが結果的に良かったのだろう」

「えぇ、テツさんこそまさか魔族の国でいたなんて・・それにこの結界ですが、凄いレベルですよね」

ケンが笑顔で話してくれる。

「やっぱわかる? 実は地点ごとにレベル31の魔物の魔核を埋め込んでいるんだ。 ちょっとやそっとじゃ壊せないよ」

「ま、マジっすか。 そりゃ、誰も干渉できないでしょうね。 それにしてもこれを1人でやっているなんて、想像できないですよ」

ケンが興味深そうに俺を見る。

「ケン君・・これは偽善だよ」

「え?」

「この結界の中では、ウイルスなどの生物に有害なものが無効化される。 軽い呪いのたぐいも意味がない。 今なら新型コロナウイルスを排除したんじゃないかな」

俺がそこまで話すと、リカが笑顔で話してくる。

「テツさん、偽善なんかじゃないですよ。 とってもいいことをしてると思います。 それにこの結界はとても暖かい感じがします。 安心します」

「リカさん・・」

「それなのにケンったら、警戒ばかりしてるんですよ。 ようやく私が説得してこうやってテツさんと再会できたんですから、ハッピーですよ」

リカは上機嫌だ。

「リカさん、ケン君の行動は正しいと思うよ。 俺だって逆の立場なら接触しないんじゃないかな」

「えぇ~、テツさんもですか? 男の人ってみんなそんな感じなのかなぁ・・」

リカが指を顎に当てて考えていた。


「ま、とにかく俺が知っていることはそんなところだ。 さっきも言ったが、アメリカにも帰還者が居る。 それにこの結界を破壊しようとしていたようだしな。 どうもよくないことを考えている連中がいるようだ」

俺の方を向いてリカが微笑む。

「だったら私たちでそんな連中をやっつけちゃえばいいんじゃないですか?」

俺は可笑しくなった。

「フフフ・・リカさんは真っすぐだね」

「テツさん・・それって遠回しに私をバカにしてるでしょ? いくら私でもそれくらいはわかりますよ」

リカがふくれっ面をする。

「い、いや、バカにしているわけじゃない。 ただ、そんなに単純に悪いと思えるやつを排除できたら、気持ちいいだろうなって思ったんだ」

「だから言ってるじゃないですか。 しましょうよ!」

リカはどこまでも前向きのようだ。

俺はその場で少し考え込んでしまった。


だがなぁ・・そんな簡単なものだろうか。

いや待てよ。

どうせ考えたところで答えなんて出るわけがない。

案外、リカの言う通り簡単なことが真実かもしれない。

だが、俺たちがやっていることがバレては問題がある。

まず、自分たちに近い人間が人質になる。

俺たちを倒せる奴等なんて、人間ではいないだろう。

だが、自分たちに近い人間は普通の人だ。

それに家族なんかを人質にされたら動きが取れない。

「リカさんの言うことも合っているのかもしれない」

俺がそうつぶやくと、リカが笑顔で言う。

「でしょ! 私たちが正義のヒーローよ」

「けれど、俺たちの正体がわかるとダメだろうな」

俺の言葉にリカが反応する。

ケンは理解できたようだ。

「何でですか? アメリカには公認で魔法使いがいるんでしょ? だったら私たちだって大丈夫でしょう」

リカが言う。

「リカさん、家族が人質に取られたらどうする?」

ケンはリカの顔を見る。

「う~ん・・困りますよね。 家族を人質に取った奴等も始末します」

「フフ・・リカさん、俺たちは大丈夫だが、家族は普通の人間だ。 もし、家族を人質に取っている相手が軍人とか殺し屋とか、最悪俺たちのような帰還者だったらどうする?」

リカはう~ん・・と言いながら考えている。


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