第27話 偽善だと思っていた
「リカ、テツさんは家族を盾にされたら何もできなくなるって言っているんだよ。 俺たちの見えないところで動かれたら・・」
ケンが話しているとリカがふくれっ面をしてケンを見る。
「ケン・・そんなことはわかるわよ。 でも悔しいな。 こんな力があっても誰も助けることができないなんて・・」
リカが寂しそうに上を向く。
俺はリカの案を考えていた。
確かにこんな計画をした連中はとんでもない奴だろう。
だが、想像するのは自由だ。
俺だって、自分の価値観に合わない連中なんてこの世からいなくなっても問題ないと思う時がある。
だからってそんなことは実行しないし、できないからな。
それに、自分に関わる人たち以外は他人だ。
確かに亡くなったりするのを聞くと気の毒に思うことはある。
だが、所詮は三人称の人たちだ。
新聞やテレビで報道される死亡何名だろう。
みんなそうじゃないか?
だから、世界平和を叫んでいる奴なんて偽善者だと思っていた。
リカは純粋に無意味に殺されていく人たちが可哀そうだという。
「リカさん、その純粋さ・・俺にはないものだな」
俺が自嘲気味につぶやくとリカとケンが俺を見る。
「テツさん・・」
リカの口から小さな言葉が漏れる。
「俺は、人助けは偽善だと思っているんだ。 それは今も変わらない。 この結界だって人助けのためじゃない。 何となくしたものだ。 それに・・」
俺はそこで一呼吸おいて続ける。
「それに、この金持ちたちの計画・・実行するのは俺にはできないが、その考えには何と言うか、反対じゃないんだ」
リカが「え?」という感じで俺を見る。
俺は慌てて続けた。
「あ、リ、リカさん、勘違いしないでくれよ。 絶対的に許せるはずもないんだよ。 何の責任もない人たちを無差別に殺すんだからな。 だけどね、地球からすれば人なんて寄生虫なんじゃないかと思うことがあるんだ。 自分の表面を好き勝手にむさぼりつくして、同族で殺し合って、どうしようもない虫だと思うよ。 それに、隕石や大自然災害などが発生したら、やはり人は滅ぶだろう。 人の目線だけじゃなく、地球や他の生物の目線で見たら人って勝手過ぎないかなって思うこともあるんだ・・あれ? 何の話をしてたっけ?」
俺は話していてわからなくなった。
「あはは・・テツさん、新型コロナウイルスで人が亡くなるって話ですよ」
リカに指摘される。
「あぁ、そうだった。 なんていうのかな・・こんな計画を考えた奴等だけでも始末してもいいのかなって思ったよ。 俺が言うのもなんだが、始末って怖い言葉だな」
「フフ・・そうしましょうよ、テツさん。 私たちならできますよ」
リカは軽く言う。
「ふぅ・・仕方ないなリカ、俺も協力するよ」
ケンも苦笑いしながら同意した、というよりさせられたようなものだろう。
「リカさん、ケン君、もし本当に動くとしたら、絶対に顔がわかってはいけないと思うんだ」
ケンがうなずいていた。
「でも、どうやってそんな連中に近づくんですか? それに捕まえても嘘を言われたらわからないし・・」
ケンと俺は下を向いて唸っていた。
「あ、私、嘘言っている人、わかりますよ」
リカが言う。
俺とケンはバッとリカを見た。
「「何?」」
「ちょ、ちょっと、驚くじゃない。 いきなりこっちを向かないで!」
「リカ、どういうことだ?」
ケンが驚いた顔で聞く。
「あれ? 言ってなかったっけ? 私のスキルなんだけど、相手が嘘をついているとわかるのよ」
ポカッとケンがリカの頭を殴る。
「いったぁーい、何よケン!」
「リカ、初耳だぞ。 なんだそのスキル?」
「えっとね・・審判者っていうスキルみたいだよ。 それから・・」
リカがそこまで話すと、俺が手をあげて
「リカさん、そこまでだ。 自分のスキルやレベルなどは決して言わない方がいい。 どうしても言いたいのなら、ケン君だけに言った方がいいと思うよ」
俺の言葉にリカが不思議そうな顔で見る。
「どうしてですか?」
「う~ん・・ゲームの鉄則だな。 というよりも、聞けば頼りたくなるし、気になってくる。 知らなくても問題ないよ」
リカがケンの顔を見る。
ケンは微笑みながら答える。
「そうだなぁ・・テツさんの言う通りだと思うよ。 自分のステータスを言うゲーマーはめったにいないな。 俺だってリカに言ってないスキルはあるよ」
「え~ほんと? どんなスキルなの?」
「だから聞くなって言ったよな?」
「だって、気になるでしょ? 教えてよ~、私も教えるからさ」
リカがケンにまとわりつく。
俺はそれを見ながら、どうやって、こんな計画を考えた連中に近づいて行けばいいのかを考えていた。
◇◇
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