第4話 テンプレ



<飯田橋の駅のホーム>


俺は自分の状態を確認した後だ。

あの魔法やレベルがある世界のままの状態。

これって最強じゃね?

こんな年齢で中二病ってわけじゃないが、チートと呼ぶよりも今や神に近い存在、いや悪魔かもしれない。

とにかく国の軍事力よりも俺一人の力が上だろう。

間違いない。

メテオやメガフレア。

一つの都市など吹き飛ぶレベルのはずだ。

それに俺の身体能力。

リアル漫画だ。

スキルの超加速。

時間を圧縮して、俺以外の時間がまるで止まっているような感じのスキル。

銃弾ですらスーパースローモーションだ。

う~ん・・これって、俺に対する地球からの使命か?

いや、考え過ぎだな。

・・・

まてよ、俺以外にも帰って来ている奴がいるかもしれない。

俺の頭の中ではいろんな妄想かつ現実が入り混じって駆け巡る。


俺の近くで電車を待っている人が通過しながら白い目で俺を見ていた。

「・・ねぇ、あの人さっきからブツブツ言ってて気持ち悪いわよ」

「シー!! 声が大きい、聞こえるわよ」

「あ、ごめん。 ゆっくりと移動して前の車両から乗りましょ」

「うん」

・・・

時間は9時40分。


駅のホームでは何度か電車が来ては出発していた。

とにかく俺は現実世界・・というと変な感じだが、元の世界に戻ってきたんだ。

・・・

あ、仕事に行かなきゃ・・って、ギリギリだな。

確か10時までに行けばよかったんだよな。

新型コロナウイルスで出勤時間が変わっていたはずだ。

俺は来た電車に乗り、次の駅「市ヶ谷」で下車。

歩いて事務所の入っているビルへ向かった。

受付嬢に挨拶をし、自分の部署へと向かう。

エレベーターに乗って4階へ。

扉が開くと作業部屋だ。

「おはようございます」

一声かけると、どこかからおはようと返事が返ってくる。

誰かが適当に挨拶を返しているようだ。


俺は自分の席に行き、机の上の書類に目を通す。

あぁ、そういえばこの案件・・確か山本さんのところだったよな。

懐かしい・・。

俺は一人そんな感慨にふけっていた。

「おはよう佐藤さん。 なに朝からボォーッとしてんのよ」

「あ、おはようございます課長」

「昨日の作業はもう終わったの?」

「え、えぇ・・おそらく・・」

課長の足が止まる。

「おそらく?」

「い、いえ、終わっています」

俺の記憶が曖昧だ。

仕事のことなんてほとんど忘れている。

「ふぅ・・佐藤さん、大丈夫?」

課長が変な目で俺を見る。

「あ、は、はい。 大丈夫です」

課長は軽く微笑むと、自分のデスクの方へ歩いて行った。


俺も机に座り、書類を眺めてみる。

・・・

なるほど、確かこの案件だったな。

うん、だんだん思い出してきた。

・・・

・・

仕事は少し手間取ったが、何とか処理することができた。


時間は18時。

そろそろ帰る時間だ。

こんなご時勢でなければ、どこかで食事でもして帰るのだが直帰しなければいけない。

「お疲れ様でした」

俺は一声かけて帰宅する。

帰る場所は水道橋のビジネスホテルだ。

会社が社員のためにいろんな場所のビジネスホテル部屋を借り上げている。

市ヶ谷から総武線に乗って移動。

電車で10分もかからない。

歩くとちょっとしんどいかな。

とはいえ、今の俺ならアメリカまでも走れるんじゃないか?

そんなことを思ってみる。

しかし、普通に行動するには何の変化もない。

本当に異世界から帰って来たのかどうかも怪しい。

やっぱ夢だったのかと思えてくる。


水道橋の駅に到着し、電車から降りる。

時間は18時30分。

ホームを歩きながら俺は頭の中でつぶやく。

ステータスオープン。

パッと俺の目の前にステータス画面が見える。


間違いない。

やはりあれは現実だったんだ。

だがこんな力、いったいこの世界でどうやって使っていけばいいのか。

俺の判断で世界が変わるかもしれない。

ただ、力のあるものは責任が伴う。

そんなことを考えていた。

ドン!

俺の肩が歩いている奴の肩に触れたようだ。

「あ、すみません」

俺は条件反射で謝る。

「んぁ、あぁ? おっさん、今なんつった?」

明らかにインネンをつけてくる若い男を見た。

首の下あたりに変なタトゥが見える。

あれ?

水道橋ってこんなガラの悪い奴はいなかったように思ったが。

俺はそんなことを思いつつも、このテンプレってなんだよと自分で突っ込んでいた。


「おっさん、何笑ってんだよ。 人に当たっておいてふざけんじゃねぇぞ!」

声を荒げながら若い男が言う。

その周りにいた仲間だろうか、その連中も一緒になって俺の方を見る。

や、やめてくれ。

そんな顔で俺を見るな。

これならまだブレイザブリクの騎士たちの方が怖かったぞ。

そんなことを思い出していたら、どうやら俺は笑っていたようだ。

「ププ・・あははは・・・」

俺の笑い声に、若い男たちが少し引く。

「おい、このおやじ、ちょっと頭おかしいんじゃねぇのか?」

「んなこたぁどうでもいいんだよ。 少しくらいは金持っているだろう」

「あぁ、そうだな」

俺を囲んで若い男たちが話をしている。


俺は笑うのをやめて周りを見た。

なるほど。

誰も見て見ぬふりだな。

当然だ。

誰も関わりたくもない。

気の利いた奴なら近くの交番にでも声をかけるだろうが、まだそんなに時間は経過していない。

警察官もまだ来ないだろう。

俺はそう思い、言葉を出す。

「いや、本当にすまない。 俺もうかつだった。 少し肩が触れたようだが、大丈夫か?」

「あぁ、大丈夫じゃねぇぞ。 ちょっとこっちへ来い」

若い連中は俺を囲むようにして移動する。

俺も素直にその連中と一緒に歩いて行く。

確かに警察官でも来たら面倒だ。

4人の若い男、20歳くらいだろうか。

全員首の辺りにタトゥが見える。

何かのグループか?

5分ほど歩いて行くと、あまり人通りのない路地に来た。


「おっさん、金出せば解放してやるぜ」

若い男が言う。

いきなりストレートだな。

「う~ん・・金出すのもったいないしな。 それに俺って普通に歩いてたし、謝ったよな?」

俺はついつい言葉に出してしまったようだ。

「はぁ? 何言ってんだおっさん。 殺すぞ!」

若い男たちはすごんでみせる。

「お前ら、それってゆすりタカリだろう。 そんなこ・・」

俺が言葉を出そうとすると、声を大きくして言葉を被せてくる。

「ごちゃごちゃうるせぇんだよ。 サッサと金を出せ、クズが!」

俺の胸倉をつかんで、若い男が言う。

「おい、さっさと始末して金を持って行こうぜ」

仲間たちが言う。

「そうだな。 おっさん動くと痛いぜ」

若い男がそう言いながらナイフを俺の腹に当てた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る