第2話 自己紹介
<大広間>
テツたちに声をかけてきた男に聞く者がいる。
「どうだったかね、監察官」
「はい、間違いなく良い素材かと思われます」
「なるほど。 成功したわけだ。 これで召喚士も満足したことだろう。 少々気の毒なことをしたかな?」
「王様、彼らはそれが仕事です」
監察官はそう答えると、テツたちが転移してきたときに運ばれていたミイラのような男の方へ歩いて行く。
「召喚士よ、ご苦労だったな」
召喚士からの返事はない。
身体からすべての生気が抜けたような感じになっていた。
首には首輪がつけられている。
隷属の首輪という。
装着した者しか外すことができない呪われた首輪。
装着者の命令に従い、その従うことで多幸感を得ることができる魔装具。
召喚士は己の命を犠牲にして召喚を行ったのだろう。
だがその顔は満足そうな顔つきをしていた。
監察官はつぶやく。
「この召喚士はすぐに運んだから、勇者たちには見られてはいまい。 さて、これから教育をしていく必要があるようだな。 せいぜい我が国のための
そう言葉を残すと王様のところへ戻る。
「王様、召喚士は任務を全うしたようです」
「うむ」
王はうなずく。
「しばらくして準備が整いましたら、勇者どもの教育を開始いたします。 当分は我が国の北山の奥、やはり魔族のところに力を注ぎたいと思います。 諸外国との戦争はしばらく控えた方がよいかと思われます」
「監察官よ、そちに任せる」
「ハッ!」
王は面倒くさそうに片手を挙げて監察官を下がらせる。
監察官は王に挨拶すると、大広間を出て行った。
さて、まずはこの世界のルールを知ってもらわねばな。
教育係には騎士団よりも行政官がよかろう。
監察官はそうつぶやくと、長い廊下を歩いて行く。
◇
<テツたちが案内された部屋>
学生の男女、40歳くらいの男女、そして俺。
学生の男の子が口を開く。
「おじさんたち、大丈夫ですか?」
!
お、おじさん?
俺はやや前のめりになりながら学生の男の子を見る。
俺よりも先輩が口を開く。
「あぁ、ありがとう。 大丈夫だよ。 まさか異世界に飛ばされるなんて夢じゃないだろうね。 信じられないよ」
その言葉に女の先輩もうなずく。
「私もそう思います。 でも、ケンがしっかりしてるから助かったわ」
学生の男の子の横で女の子が言う。
「俺はケンっていいます。 そんでもってこいつがリカ」
「ちょっとケン、こいつってないでしょ。 うちら付き合ってるわけじゃないし」
「あぁ、ごめんリカ」
学生たちが自己紹介をしてくれた。
すると先輩たちも自己紹介を始める。
「俺はユウジ、
「私はケイコよ」
全員が俺の方を見る。
「あ、俺はテツっていいます。
俺の言葉が終わると、学生が話始める。
「皆さんはどう思いますか? あの召喚した人は信用できますかね?」
ケンが真剣な顔をして聞いてくる。
「ケン君だったね。 俺はまだ現実を受け入れることができないが、あの人の言っていることは大体本当のことだと思うよ。 だが、信用しろと言われると怖いね」
「ですよね。 ボクもそう思うんです。 実際、勇者なんて呼ばれるものは、パターンとして強い兵器くらいのものですよ。 使い捨てです」
ケンの言葉にみんなうなずいている。
「ケン君は何か案がありそうだね」
ユウジが言う。
「えぇ、僕も異世界召喚なんて信じれませんが、今起こっていることを現実として見ると、確かにステータス画面が現れて自分の状態が見れました。 次はこの世界で生き残ることです。 先ほどの話では帰る道もあるようでしたから」
ケンの言葉にケイコが口を開く。
「ケン君は凄いわね。 あっさりと受け入れているんだもの。 私なんて聞いているだけしかできないわよ。 テツさんでしたっけ? どう思う?」
「え、えぇ、俺も現状把握で精いっぱいですね。 ただ、本当に元の世界に帰れるのなら帰りたいものです」
俺も取りあえず答える。
実際はどうでもいい。
この世界で死ななければいい。
「ケン君は、ラノベや漫画に詳しいのかな?」
ユウジが聞く。
「はい、そこら辺の学生レベルですけど、好きな方ですよ」
「そうか・・俺も嫌いじゃないし、たまに読んでいたしな」
「ユウジ、ほんと?」
ケイコが少し驚いていたようだ。
「あぁ、ケイコには内緒にしていたからな。 知られて引かれても困るしな」
ユウジが笑いながら言う。
「あの・・お二人は恋人同士なんですか?」
リカが聞く。
ユウジがリカの方を向いて答える。
「う~ん・・友達以上、恋人未満かな?」
「え、そうだったの?」
「いや、ケイコ・・そうじゃないんだ」
「じゃぁ、どういうわけよ」
ケイコが詰め寄ろうとすると、部屋の扉をノックする音が聞こえる。
コンコン・・。
「失礼します」
その声と共に扉が開かれて、人が入ってきた。
先程大広間で話していた人だ。
「勇者殿、今日はまずは休まれてください。 それぞれのお部屋をご用意しております。 いろいろとご不便があるかと思いますが、お許しくださいませ」
男が首を軽く動かすと、案内係だろうか、大きくお辞儀をして俺たちの前に現れた。
「この者どもが勇者様方をお部屋までご案内いたします。 それではまた明日、よろしくお願いします。 お食事なども一緒に運ばせますので、お食べください」
俺たちは案内係に連れられて、それぞれの部屋に移動した。
◇
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