第12話 最高の電車旅行へ
「2人とも?人間、事情の糸が絡まりすぎてしまえば、どう対処するでしょう?わかります?」
「えっと」
「ふふふ」
「そりゃあ、糸が絡まってしまえば、ほぐそうとしますが…」
「ですよね?」
「はい」
「人は、ダメだと言っても、無意識に、その糸をほぐそうとしてしまうのですね」
「…」
「たとえ、その先に、死に至る病が待っていたとしてもね…」
ミタライさんは、怖いことを言っていた。
私の混乱は、見透かされていた。
「まあ…。だからこそ、面白いんですけれど。人も、そんな事情の糸の駆け引きも」
「事情の糸の、駆け引き…」
私は、さらに、混乱していくようだった。
「おっと、言い過ぎた。あの方に、お叱りを、受ける。では、いきましょうか」
「あの方?」
「…しまった。えっと、事情をもつ社会の皆、ということですよ」
「とりあえず、わかりました」
私は、静かに、うなずいた。
「ツキノ、いくよ?」
「いま?」
「今じゃなくって、ご飯食べて、ゆっくりと、休んでから」
「わかりまちた」
私たちは、クヌギサワさんに作っていただいた朝食を、わざわざ、隣りの、私たちが住んでいた家まで、運んだ。
面倒だったけれど、何としても、そうしたかったものだ。
妹と2人きりで、朝食を済ませた。
クヌギサワさんの奥様方に、深々と頭を下げた。
持っていくべき荷物を、玄関先まで運んできた。そしてそれらを、ミタライさんの乗ってきた車のトランク後部座席へと、詰め込んだ。
「ユキノちゃん?今必要でないものは、宅配で、送るから。心配しちゃあ、ダメよ。私たちクヌギサワ家の力を、信用してね?」
奥様も、荷物を持ってくれた。
「本当に、ありがとうございます」
「ケーキ、おいしかったよー!」
「そう!良かったわ。おばさん、幸せ」
「おじさんも、楽しかったよ」
「ツキノちゃん。元気でね!」
「うん!」
「ユキノちゃんもね!」
「本当に、ありがとうございます」
ミタライさんは、引っ越し先まで、車で移動するとのこと。
私たちは、電車で、向かうことにした。
近場の駅から出発して、降りるべきは、3駅ほど離れた場所だった。
「引っ越し先が遠くなくて、良かった」
通う学校を変える必要が、なくなった。
私たちは、2人とも、それぞれの学校で、年長者。お互い進学を目前にして転校を迫られたのでは、苦労も、一入となる。けれどその苦労がない分、助かったものだ。
私たち姉妹による、最高の電車旅行が、はじまった。
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