第1話 僕が爆死する話(物理)- 6 -
ぴ、ぴ、とカウントダウンは続いている。
残り時間はもう、四捨五入すれば十二分しかない。
心臓が伸び上がるような感覚。足の感覚がなくなって、地面に穴が開いて、どこかに落ちていくような感じがする。
いや、まさかあ。
そんなことない。あるわけない。
だって、だって爆弾って。
そんなことが、あるわけない。
「おい、アンタ……」
警官さんが、そんな風に声をかけてくる。でもそこに、後のセリフが続かない。何も言ってくれない。こんなにタフそうな人なのに。
『えー、警視庁の発表によりますと』と、ニュース速報は続く。
『ただいま動画配信サイト、ビリビリ動画およびユーチューブにて、【腹が立ったから東京都爆破してみた】といったタイトルの動画が生放送されており、実際に爆弾を使用したと思われる殺人の様子が中継されました。動画配信者と思われる赤いドレスの少女はその後、犯行声明と思わしき内容を語り――』
内容に耳を疑った。
赤い、ドレスの、少女?
似ている、昨日の子と。
バーで会った子と、同じ格好だ。
「と、取って! 早く取ってください、これ!」
いつのまにか、叫んでいた。
警官さんがびくりと飛び上がり、慌てた様子で僕の右手を押さえつける。周囲を慌ただしく探し、引き出しを開け、取り出したのはボールペンだ。その尖った部分を手錠の鍵穴に差し込む。左右にがちゃがちゃ動かす。ピッキングでもしようというのか。当たり前だが開かない。
「だあくそ!」と警官さんも叫ぶ。ペンを投げ捨て、今度は自分の手錠の鍵を差し込む。入らない。これも当たり前。無理に回そうとして、鍵を取り落とす。
「っきしょッ」
次は警棒を取り出して、手錠の鎖の部分を叩き始めた。がん、がん、がん、いくら叩いても鎖は変わらない。誤って手錠のわっかの部分を叩かれ、金具が少しひしゃげた。思わず手を引っ込めそうになるが、がっしり掴まれていてできない。痛い、痛い、痛いだけ。鎖は切れない。びくともしない。
警官さんは、呆然としてこちらを見た。
その目が、『どうしよう』と言っていた。
「――――っ!」
息が上がる。呼吸ができない。全然吸ったり吐いたりできない。それでもなんとか、考える。いや、考えろ。考えろ僕。
「ばっ、ば、ば、爆弾処理! 爆弾処理班をよ、呼んでください!」
「お、おう! そうか、ちょっと待て!」
警官さんが無線で呼び出しをかけ始める。
ばーばーという電子的な声と警官さんの応答。その間にもカウントダウンはどんどん進んでいく。残り十一分。
「ちきしょう!」と警官さんが叫んだ。
「あっちもこっちも似たような要請ばっかりで、人手が足りねえ! 上も混乱してる! ここに処理班が来るまで何分かかるかわかったもんじゃない!」
そんな!? 視界がぐにゃりと歪む。処理班が来られない? 他にも爆弾が? 僕のところには来られないということなのだろうか? そんな、そんな……。変な汗が出てくる。手のひらが汗でぺたぺたになる。考えろ、考えろ、どうしよう、どうしよう。
あちらこちらに視線をやって、僕は警官さんの腰のホルスターに目を止めた。
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