第1話 僕が爆死する話(物理)- 5 -

 中に入っていたのは、爆弾だった。


 時限爆弾……、というやつだろうか。よく見る、なんというか、ダイナマイト的な丸い筒がぎっしりと詰まっていて。その上に、どういう構造かよくわからないメカメカしい装置がついていて、その更に上にデジタル時計がついていて。ぴ、ぴ、と小さな電子音が、残り時間をカウントしていた。


「は?」という声は僕と警官さんと同時。そして続けて警官さんだけが「なんだよ、こりゃ……」と呟いた。


 しばしの沈黙。

 ぴ、ぴ、と続く電子音。


 僕と警官さんは顔を見合わせた。そしてどちらともなく、笑顔を浮かべる。


「い、いやー、よく出来てますね、これ。すごい、本物みたい」


「お、おう。そうだな。すげえ出来だ。この重量感もそうだが、この独特な甘い匂い……マジもんのC4爆薬みてえだぜ。すげえリアルだなこりゃ」


「へ、へえ、そうなんですか。よくわかりますねそういうの」


「交番勤務になる前は空港で警備員やってたからな」


「あ、そうなんですかー、すごいっすねー」


 ぴ、ぴ、カウントダウンは続く。


「うは、見てくださいよこれ。あと十五分ですって」


「おうおう、なんだよこりゃ、マジだな。十五分てお前、爆弾が本物だったら手遅れだぜこんなもん」


「あ、ちょっと、怖いこと言わないでくださいよう」


「だっはっは、すまねえすまねえ」


 そんなことを言っていたら、交番内のテレビから「リンロン」と高い音が聞こえた。目を向けてみると、慌てた様子の男性ニュースキャスターが、真剣な顔を浮かべている。


『えー、番組の途中ですが、緊急ニュース速報をお伝えします。本日先ほど午後六時四十五分ごろ、東京都庁より、十五分以内に都内各所で爆弾テロ事件が起こる危険性があると発表がありました。該当区域のみなさんは、直ちに身を守るための行動を起こして下さい。繰り返します。十五分以内に、都内各所で爆弾テロ事件が起こる危険性があります。該当区域のみなさんは、直ちに身を守るための行動を――』


 えっ、と。

 僕と警官さんは再度顔を見合わせる。


『爆発物は周囲に破片などを飛散させる可能性があります。置き捨てられたバッグや中の見えないゴミ箱など、怪しい荷物には絶対に近づかないで下さい。繰り返します。爆発物は周囲に破片などを飛散させる可能性が――』


 …………。


「なんか、あんなこと言ってますけど……」


 すると警官さんが、慌てて再度ジュラルミンケースの中身を確認し始めた。あちこちを忙しなく見聞したあと、顔をあげてこちらに目線をむける。


 豪快な物言いをする、ワイルドな人だったのに。

 顔面蒼白だった。何も言わず、口をパクパクとさせて。

 その表情で、嫌でも気づいた。


「え? これ、まさか、本物……?」

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