第1話 僕が爆死する話(物理)- 2 -
「バクショウには三種類あるんだよ?」と昨日会った女の子は言っていた。
「爆笑、じゃないよ? 爆発の、傷で、爆傷。一次爆傷は衝撃波。強い音の波が全身に叩きつけられるの。阿川さんはライブに行ったことある? おっきな音って、お腹に響くでしょ? あれのもっと強いのを想像してもらえたら、わかりやすいかな」
僕はライブに行ったことは無かったけれど、とにかく話を合わせた方がいいと思って、うんうんうん、と何度も頷いた。先輩に無理やり誘われた飲み会で、無理やりついて行かされた三軒目のバーで、酔いつぶれてちょっとうつらうつらした隙に置いて行かれた。それでカウンターで愕然としていたら、知らない女の子が隣に座って、声をかけてきたのだ。
女の子はとってもかわいくて優しくて、日本語がうまかった。おそらくアジア系の、切れ長の目をした外国の子で、暗い赤色のドレスを着ている。幼い印象の顔立ちをしてるのにドレスが大人っぽいから、そのアンバランスさがちょっと神秘的だった。
彼女はとってもいい子だった。おすすめの美味しいカクテルも教えてくれたし、先輩に押し付けられたバーの飲み代も半分持ってくれるという。どうしてそこまでしてくれるのか聞いてみたら、あなたが昔好きだった先輩に似ていて、放っておけないのだと言われた。
僕は舞い上がった。ドラマみたいだ。本当にこんなことってあるんだろうか。こんなに感じのいい女の子と、こんなところで偶然ばったり出会えるなんて!
そして、そうしているうちに女の子は、爆弾の話を始めたのだ。僕の身体にぺたぺたとボディータッチしながら、誘惑するように。
「二次爆傷は、飛散物。爆風でたくさん飛び出すの。色んな石の破片とか、釘とか、他にもいろんなものが」
もう僕はどぎまぎしてしまって、耳元でささやかれる度に変にかしこまったりしていた。話してる内容なんて全然頭に入らない。
「三次爆傷は、転倒。たくさん飛ばされたら、倒れたときに頭をぶつけちゃうことがあるよね?」
女の子は、いっそう僕の耳に口を近づけ、ほとんど吐息のような声でこう続けた。
「だからそうならないように、ベッドを用意しておかないといけないの――」
その辺りで、僕の記憶は途切れている。
目が覚めると、朝だった。僕は同じバーの同じ場所で、カウンターにつっぷして寝ていた。顔を上げると、バーテンさんが迷惑そうな顔でコップを拭いている。
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