「それってつい最近の話よね……まだ知り合って日が浅いんでしょ? 彼って身元確かなの?」

「……なんでそんなこと聞くんですか?」

 眉をひそめて、不機嫌に問い返す彼女。


「彼、結構地味な感じだったけど、そのわりにずいぶん口が上手いと思って」

「それって酷くないですか!? 彼は大人しそうに見えるけど、営業の仕事してるから話上手なんです」

「へえ?」

「今日だってセールスの合間にわざわざ時間つくってくれたんです」

「仕事中に? それって良くないんじゃないの」

「そこは、営業していたことにすればいいから……高価なものを扱っているから、実際に売れるより、説明だけの人の方が多いから……って」

「へえ。宝石とか布団とか?」

「ええ。あと和服も扱うみたいです」


 ……ビンゴじゃない。思いっきりデート商法の手口でしょ?


「悪いこと言わないから、もうちょっと冷静に、彼を見た方がいいわよ」


 もし、彼女が私の言葉を聞き入れたなら、助けてあげられた。

 でも。


「あなたに何の権利があって、そんなこと言うんですか!」

「少なくとも、あなたよりは世間を知ってるつもり。あの人は、信用できない」


 多分、私は無意識に、彼女の神経を逆撫でする言葉を選んでいた。


「ほっといて下さい! あなたにそんなこと言われる筋合いはありません」

「あなたの為を思って言ってるのよ」

「大きなお世話です!」


 怒りのこもった眼差しを私に向けてくる彼女。


「じゃあ、最後の親切で教えてあげる」

「?」

「彼、今頃、他の女と食事してるわよ。私見たもの」

「……何を……?」


「今日行ったカフェのそばの、○○ホテル。展望レストランでディナーって言ってたから、まだゆっくりしてるかもね」

「嘘……」

「自分で確かめたら? 私にはどうでもいいことだし」


 無言で俯く彼女をドアの外に追いやって、私も無言でドアを閉めた。


 後は、何がどうなろうと、私は、知らない。

 知らない……。

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