六
「それってつい最近の話よね……まだ知り合って日が浅いんでしょ? 彼って身元確かなの?」
「……なんでそんなこと聞くんですか?」
眉をひそめて、不機嫌に問い返す彼女。
「彼、結構地味な感じだったけど、そのわりにずいぶん口が上手いと思って」
「それって酷くないですか!? 彼は大人しそうに見えるけど、営業の仕事してるから話上手なんです」
「へえ?」
「今日だってセールスの合間にわざわざ時間つくってくれたんです」
「仕事中に? それって良くないんじゃないの」
「そこは、営業していたことにすればいいから……高価なものを扱っているから、実際に売れるより、説明だけの人の方が多いから……って」
「へえ。宝石とか布団とか?」
「ええ。あと和服も扱うみたいです」
……ビンゴじゃない。思いっきりデート商法の手口でしょ?
「悪いこと言わないから、もうちょっと冷静に、彼を見た方がいいわよ」
もし、彼女が私の言葉を聞き入れたなら、助けてあげられた。
でも。
「あなたに何の権利があって、そんなこと言うんですか!」
「少なくとも、あなたよりは世間を知ってるつもり。あの人は、信用できない」
多分、私は無意識に、彼女の神経を逆撫でする言葉を選んでいた。
「ほっといて下さい! あなたにそんなこと言われる筋合いはありません」
「あなたの為を思って言ってるのよ」
「大きなお世話です!」
怒りのこもった眼差しを私に向けてくる彼女。
「じゃあ、最後の親切で教えてあげる」
「?」
「彼、今頃、他の女と食事してるわよ。私見たもの」
「……何を……?」
「今日行ったカフェのそばの、○○ホテル。展望レストランでディナーって言ってたから、まだゆっくりしてるかもね」
「嘘……」
「自分で確かめたら? 私にはどうでもいいことだし」
無言で俯く彼女をドアの外に追いやって、私も無言でドアを閉めた。
後は、何がどうなろうと、私は、知らない。
知らない……。
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