第73話 地の封印を守る村 アシム
地の封印地の管理者がいらっしゃる村、アシムは少し変わった地形にあった。レンガのように赤い岩盤が幾重にも重なった地形の、岩の上だ。しかも下手な山より高い場所。
ちなみに麓からは階段が作られていたので、それはそれで辛くはあったけれど、岩盤を自力で登るような必要は無かった。他の町との流通を考えれば当然か。しかし階段でも大変だった。階段横にスロープが設置されている部分も多かったものの全てではなく、荷車に段差を越えさせなければならない場所があったせいだ。グレンさんとジェフさんだけでも越えられる程度とは言え、それは私達の荷車があまり大きくないから出来ることで、行商人の大きな馬車なら無理だろう。
一体何故こんなところで生活を……。ひ弱な私からすれば信じられない立地だ。でもアマンダさんの故郷も私からすれば大概だったので飲み込んだ。あの村も、馬車では絶対に訪れられない。
「おお、上からの景色は圧巻だね。こりゃいい」
階段と必死に格闘していた私は風景を見る余裕も無かった。ふとアマンダさんが言ったから、ようやく振り返る。確かに、絶景だった。低い雲であれば見下ろせる。雲海から微かに見える平原や森。陽が落ちる時間はきっと岩盤だけじゃなく雲も一帯が真っ赤に染まり、幻想的な風景になるのだろう。この景色を愛したから此処に永住したと言われれば、うん、分からなくもないかもしれない。私は住まないけれど。
さておき。
村に到着した私はもう膝が笑っていた。真っ直ぐ立てない。ずっとイルゼちゃんが支えてくれている。
「一度、休息を取ってから管理者の元へ行きましょう。このような道ですから、ご理解頂けるはずです」
「すみません……」
恥ずかしい。私以外のみんなはまだ全く問題なく動けているのに。
イルゼちゃんはおんぶするって言ってくれたけど、宿までは何とか自力で……いやイルゼちゃんに支えられているので自力と言うのは過言だが、とりあえず自分の足で前には進んだ。
結局そのまま夜遅くまで私が動けなかったせいで、管理者さんからお話を伺えたのは翌朝だった。
ご挨拶の後に昨日来られなかったことを謝罪すると、管理者さんは私を優しい目で見つめ、「小さなお嬢さんには大変な道だったでしょう」と言って下さった。……つまり誰からどう見ても私が原因だったのは明白で、恥ずかしい思いは消えない。
それはそれとして、早速、魔族について伝わっていることを教えてもらった。
「地中からの攻撃か……」
「攻撃以外では、全く姿を現さないのですね?」
「はい、そのように伝わっています。また攻撃の際にも岩を纏っている為、此方の攻撃も容易には通りません。そして地中に潜っている間は完全に地と同化してしまい、探知も不可能であったと」
今回の魔族は常に地中に潜み、地面から標的を串刺しにする形で攻撃をしてくるらしい。探知も出来ないなら潜む場所を攻撃することも難しいと思われる。ただ、属性は地だけで、きちんと風属性を弱点としていた。
当時は、選ばれた一人が生贄となり、串刺しにされると同時に生贄もろとも風属性で攻撃。弱らせたところを封印したのだという。残酷すぎる……と思ってしまうけれど。他に手が無い状態で多くが犠牲になってしまった末のことで、苦肉の策だったのだと思う。当時の状況も知らず、その方法を非難する立場にはない。
だけど私達の旅の目的を思えば、その方法は絶対に選べないものだ。
「――さて。フィオナの見解は?」
宿に再び戻ったところで、アマンダさんが率直に問い掛けてくる。だからどうして私なんですか……と思いつつ、そもそも自分が始めた旅なのだから此処で文句を言う方がおかしいと思い直し、飲み込んだ。
「地属性の攻撃で、風属性を弱点としている限り、私のシールドは間違いなく有効です。ただ……」
言い淀む私に、みんなが首を傾ける。動きがシンクロしていてちょっと愛らしい。いや今はそんな場合じゃない。
「下からの攻撃なんですよね……」
「ああ、なるほど。あたし達がシールドの上にずっと乗ってなきゃ防げないな。それだと動くことも難しいか」
「えぇ~今回もまともに戦えない奴じゃん~」
イルゼちゃんが天井を仰いで顔を覆った。折角こんなに素敵な剣を新調したのに、もしかしたらまた使えないかもしれない。ちょっと子供みたいな反応で、思わず笑ってしまう。みんなも口元を緩めていた。だけど状況としては、呑気に笑えるものでもない。すぐにみんな考え込むように難しい表情に戻る。
「あたしの矢じゃ、攻撃としては心許ないな。岩の奥に潜む魔物を射抜くほどの威力となると、またあの複合弓に頼ることになる」
「……あまりいい案ではないな。アマンダはあの弓を、最大でも二度しか引けないんだろう」
「ああ、調子が良くて二度だ。三度は絶対に引けないだろうな」
何度もあの大型の弓でアマンダさんの腕も痛めてほしくないので、私も、その案は賛同できない。
「魔法も、攻撃力を高めるほど、仲間を巻き添えにする可能性があります。容易には使えません」
「そりゃそうだ」
魔物が私達に接近してきたタイミングで攻撃するのだから、あまり巨大な魔法は放てない。けれど、小さい魔法だと威力が弱まることが多く、そんな威力で魔族を滅するのは難しいだろう。
「イルゼちゃんか、ジェフさんの剣で斬りたいですよね」
「可能なら、それが一番だな」
「斬りたい」
イルゼちゃんの発言だけ普通の願望だった。今は笑かさないでほしい。私が堪えた横で、アマンダさんは躊躇いなく笑っていた。私はイルゼちゃんの可愛い発言から思考を逸らし、目を閉じる。同時にみんなの視線が私へ集まったことには、気付かなかった。
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