モブと主人公
私はモブだ。成績は中の下、見た目も可愛くもないがブスとも言えない普通レベルだ、私は自分の立場をよく理解している。
クラスでも上位にいるわけでもないが、いじめられるほどの立場にもいない。
普通の友達と少し年季の入った学校で昨日見たドラマの話をする。あの俳優はかっこいい、あの曲のどこがが好きとか、なんとも学生らしい話ばかりだ。
そんな私にも好きな人がいる。いつもクラスの端で本をよく読んでいて、黒い髪が少し目にかかった彼のことだ。私の友達なんかは暗くて陰気で嫌だと言うけど、私はそんなところも嫌いじゃない。
人は見た目ではないし内面こそ価値がある場所だと私は思うんだ。
私は彼が人一倍優しいことを知っている。昔、私がプリントを運んでいてうっかり数枚落としたときも、道端で転んで足を擦りむいてしまったときも彼は優しく大丈夫?って手を貸してくれた。
私にはそれだけで好きになるには充分だった。
ある日、うちのクラスに転入生が来た。きれいな金髪で青色の透き通るような瞳が特徴の女の子。彼女は帰国子女みたいで昔この辺に住んでいたけれど、お父さんの仕事の関係で海外に居たみたい。そしてやっと最近になってこの街に帰ってこれた。
まるで物語の第一話みたいだ。昔、転校していったヒロインが転入してきて…主人公と久しぶりの再会を果たす。お互いにまだ相手のことを想っていて、いろいろなことがあって二人は結ばれる。
そんなこと現実ではありえない。ありえないはずなのに、彼女はその日も教室の隅で本を読んでいた彼に近づき、「久しぶり!!」と言い、抱きついている。
彼は少しだけ驚いたが彼女が誰なのかがわかると、すぐに受け入れて「久しぶりだね。元気にしていた?」と私に向けてくれていたはずの優しい目で彼女に問いかける。
そんなもの見てしまったら気づいてしまうじゃないか。その人はヒロインで、あなたは主人公なんだと。モブの手には届かない人なんだと。
そんなこと起こらないとわかっているのに
「私をヒロインにしてよ、私を見てよ」と想ってしまう私は弱いモブのままなんだ。
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