第13話 【地縛霊A】除霊完了
「この子どもは一体何なんだ……?」
阿部清満が、葉手州くんのツンツンの黒髪をワシャワシャッとしながら顔を覗き込んでいる。
その表情は明らかな疑いの目。
こんな夜中に、こんな小さな幼稚園児が除霊の現場に来ている。
しかも、【地縛霊】などという凶悪な邪霊を前にして、逃げることもなく対峙までして姫崎姉妹を守ろうとした。
普通の幼稚園児ではないなと、気づいているような感じもする。
「お前は―――――姫崎の本家に預けられている、親戚の子なんだろう? 話には聞いていたが……こんな悪霊を退治する現場に来ても、泣いて喚いたり、逃げだしたりしないで、ここにこうやって普通にしていられるなんて……正直、驚いているのだが」
問いただしてくる清満に、葉手州くんは自分の身に起きていること。
前世の記憶が蘇ってきていること。
ついさきほど、魔鳥カイムと共に「一時的」に魔力が蘇り、前世の能力が使えたこと。
そして、その「一時的」な「蘇り」が……短時間で失われてしまったこと。
本当は色々話してみたい。
けれど、それは葉手州くんの気持ちが許さない。
なぜなら。
「(……コイツが……大好きな友莉愛ちゃんのイイナズケで、何だかとってもイチャイチャするヤツだから……嫌いだ)」
そんな嫉妬心が表情に出ていて、葉手州くんはブスッとした表情だ。
「おやおや、嫌われてしまったかな? 答えてくれないなぁ」
「……あの……葉手州くんは、きっと凄い【素質】を持った子です。……私、見ました。この子、芽愛や私を守ろうとして――――何か、凄い【術】を使ったんですよ」
「……【術】だと……? こんな、チビの、ツンツン頭の、生意気そうな幼稚園児のクセに? おまけに目の周りが赤いぞ。化粧でもしているのか?」
ぐにぐに。
清満が、仏頂面の葉手州くんの白くて柔らかな頬を指で揉んだり引っ張ったりした。
白餅のように頬を伸ばされても、葉手州くんは無反応。
その代わりに、フンッと鼻息を噴き出した。
「お前の【オンミョージュツ】とかいう、変チクリンな【術】よりは、よっぽどマシな【術】が使えるぞ、オレは」
「……本当かい? 阿部一族の【天才児】と言われた僕でも、簡単な【術】を使えるようになったのは10歳くらいの頃からだ。お前みたいな、ちっこい、ぷにぷに肉の子どもに……そう簡単に使えるもんじゃあ、無いさ。アッハッハッハ!」
「そうよ。キミが【術】なんて使えるわけないじゃない。……まだ、オネショなんてしてるガキのくせに」
「う、う、うるさァい!! 使えるったら、使えるんだっ! なんでか知らないけど、今は使えなくなったけど、さっきは使えたんだっ! というか、元々オレは強いんだああぁぁ!」
「はいはい……」
あきれ顔の芽愛まで、小馬鹿にしている。
それでも「……大丈夫。私は信じてますよ」と言ってくれる友莉愛ちゃんは、葉手州くんにとってやっぱり天使のようだった。
◇ ◇ ◇
懐中電灯を手にして、パパさんが葉手州くんを迎えに来た。
3人のゴーストバスターと葉手州くん、そして肩に乗ったまま離れないスズメたちは、除霊を終えた会社の建物から外に出た。
「……お迎えに上がりました、坊ちゃま」
一台の高級車がパパさんの車の隣に停まっており、そのドアを黒スーツの秘書のよう初老の男性が開いた。
阿部清満が、その高級車へと乗り込んだ。
どうやら阿部家はお金持ちの、上流階級の退魔士一族らしい。
「それでは。おやすみなさい……我が愛しの許嫁、友莉愛……。今日も、とっても美しかったよ。……妹の芽愛ちゃんも、素敵だったよ。……では、おやすみ……マイハニー♪」
車の窓ごしに、投げキッスを許嫁に向けたりしてくる。友莉愛ちゃんは苦笑いをしながら、手を振っていた。
その足元で、葉手州くんが目を平たくして見上げている。
「いいから早く帰れ。キザ男」
「ハハハ! ……お前とはいつか、勝負をしなきゃいけないかもなァ。お手柔らかに頼むよ」
◇ ◇ ◇
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