第12話 キレると怖い、許嫁の青年


 阿部清満という青年は、姫崎姉妹の白導衣の男性版のような装束を身に着けている。

 頭には古典的な烏帽子を被り。身長180cmは超えている長身のスタイル。

近くに転がっている椅子に片足を乗せて、ポーズをとっていた。


 そのキザったらしい姿に、葉手州くんは「うぇっ」と顔をしかめる。


「清満サマぁ!」


 突然現れた青年を見て、まず初めに歓声を上げたのは妹・芽愛だった。


「助けてください、清満サマぁ! お姉ちゃんも殴られたんですよっ!」

「何ッ?! 我が愛しの許嫁、友莉愛が殴られただとっ!?」


 すぐに阿部清満が友莉愛ちゃんに駆け寄って、その白い手を握り締める。

 心配そうな表情で、つま先から髪の毛の先までをチェックしていく。


「大丈夫か? 我が愛しの許嫁、友莉愛……。……かわいそうに……殴られたんだって?」

「だ、大丈夫です……清満さん……。……あの……」

「何だい? どこか痛むのかい? すぐに治療用の式神を用意してあげようか? ……それとも、古典的に救急箱とかのほうが良いかい?」

「……いえ……あの……。――――顔、近いです……!」


 手を握り合って……というか、どう見ても清満青年が友莉愛ちゃんの手を無理やり握り締めて、顔を寄せて心配している図になっている。


 その2人の様子を見て、妹の芽愛はニヤニヤが止まらずにいた。


「……やっぱり、今日もラブラブぅ♪ いいなぁ、いいなぁ、許嫁♪ 私もいたいいのになぁ、許嫁♪」

「イイナズケって?」

「キミにはまだ20年早いの。……良いなぁ、許嫁♪ い・い・な・ず・け♪」


 芽愛が色白の頬をピンク色に染めて、恥ずかしそうに両手で隠している。


 中学生にとって、将来を約束した「恋人以上」の関係らしい「許嫁」は、憧れであり刺激的なもののようだ。


 何だよ。イイナズケって。

 随分、仲良さそうじゃねーか。手まで握って。


 ツンツン頭の後ろで手を組んで、葉手州くんは不満そうに唇を尖らせている。


「さて、まずは……僕の可愛い許嫁を傷つけた……不届き者に。正義の鉄槌を喰らわしてやらねばなァ! 覚悟はいいかね?」


 清満青年はそう言って、手に数枚の白い紙人形を構えた。

 その紙人形で何をするのか、葉手州くんは最初はわからなかった。

 けれど。


「(……なんだ……? 魔力? いや違う……。……友莉愛ちゃんたちが【破魔】の札を使うときと、同じような【力】を感じるぞ、あの紙の人形)」


 清満が指で紋を描き、ブツブツと何かを唱えると……紙人形が掌の上でムクリと起き上がる。


「【地縛霊】ごときが、陰陽術の使い手・阿部清満様の――――大事な大事な許嫁を傷つけるとは……断じて、許さんっ!」


 起き上がった紙人形がスッと空中に飛び上がる。

 そして、そのまま白い霧のような体の人間へと化けていく。


「地獄に堕ちよおおぉぉぉッ! クソがああぁぁぁ!」


 ゴゴゴゴゴゴ………!!!


 清満青年の怒りが地響きを巻き起こした。

 同時に、人型になった紙人形が白い霧の【刀】を手に持って、大きく振りかぶる。


「僕の怒りは、こぉんなもんじゃあぁぁぁぁ……収まらないわああぁぁぁ!」


 【陰陽術】という術を使う清満が、手のひらにあの紙人形を次々と浮かべていく。

 2枚目、3枚目……と増えた紙人形は、そのままムクリと起き上がって空中へと飛び出し、大きな【刀】を持った人へと変化していった。


「(……へぇ~。面白い【術】を使うんだなぁ、アイツ)」


 感心している葉手州くんの前で、合計5体になった【刀を持った人】は、大きく【刀】を振りかぶって、【地縛霊】へと斬りかかっていった。


 キエエエエェェッ!!!


 【地縛霊】も負けてはいない。

 斬り落ちた腕の部分から【触手】をニョロニョロと生やしたかと思うと、その長い触手を素早く【刀を持った人】へと槍のように突き出した!


 シュンッ!!


 先端を鋭く尖らせた【触手】が、5体の【刀を持った人】へと突き刺さっていく。

 けれど、尖った先っぽが触れるよりも先に、その【触手】たちはスパッ!と軽やかな音をたてて切り落とされる。


 【刀を持った人】が腕を振り下ろし、【触手】を【刀】で切り裂いていく。


「やれやれェ――――! 清満サマ、素敵ィ♪」


 ピョンピョンと飛び跳ねながら、芽愛が歓声を上げている。


「お姉ちゃんの許嫁、素敵すぎるゥ~! 強い、強い! カッコイイっ! キャ――――――♪」

「……そ、そう……?」

「早く結婚しちゃいなよぉ、お姉ちゃん。あんな強くて素敵でカッコイイ人なら、もうしちゃってもいいじゃん」

「……いや、そんな……私まだ高校生でしょ……」

「高校卒業したら、すればいいじゃない」

「……いや。まだ早いわよ」

「もぉ。早くしないと、私が奪っちゃうよ? きひひ」


 いたずらっぽく八重歯を見せながら、ツインテールの黒髪を揺らす芽愛が微笑んでいる。


 そんな、姉妹の会話を――――葉手州くんが面白くなさそうに聞いていた。


「(……こんなヤツのどこがいいんだよ。大体―――――強いか? この【陰陽術】とかっていう変な【術】。【召喚士】とか【ネクロマンサー】みたいなもんだろ、こんなの)」


 唯一、不機嫌そうに腕組みをして眺めている、身長100cmの幼稚園児。

その目の前で、【術】で【刀を持つ人】を操る清満青年が【地縛霊】へトドメを刺していく。


「人々を苦しめたことを後悔するがいい! 成仏せよ、【急急如律令】ッ!」


 ザクッ……!


 乾いた音をたてて、5本の白い霧の【刀】が【地縛霊】の身体を貫いた。


◇ ◇ ◇


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