第10話 魔王の奥義・キメ技、使います
まあ、5歳児でしかないとはいえ。
相手の【地縛霊A】が、何らかの方法で【強化】されているとはいえ。
世界を恐怖のドン底に落とし、世界征服を企てていた魔王ハデスにとって、LV5のモンスターなどザコ中のザコだ。ゴミ程度の存在だ。
【触手 LV5】を発動し、長いキモい触手を伸ばして攻撃してきても、葉手州くんは余裕でそれを避けていく。
『葉手州くんが、スキル【魔王の爪 LV3】を発動』
【プロビデンスの目】が戦況を伝え、魔鳥カイムがそれを口にして報告する。
「その『葉手州くん』って……今、オレは魔王ハデスのつもりで戦ってんだが……」
「【プロビデンスの目】は真実でございます。そのまま、お伝えしております。ご了承願います」
「何か……イヤだなぁ」
葉手州くんの白いぷにぷにの腕の先。
ニンゲンの指の先に、黒い鋭い爪がニョキッと生える。
左右の指先に黒爪をはやした葉手州くんは、【地縛霊】の身体を爪で引き裂いていく。
ザシュウウゥゥッ!!
すでに崩れかけていた体が、【魔王の爪 LV3】によって切断される。
腐敗した左右に腕が、ボロンと床に落ちた。
「弱えぇぇ――――! LV3の【魔王の爪】、弱えぇぇ!!」
いつもなら、魔王討伐にきた勇者どもの鎧なんかをバラバラにするのに。
鍛え上げられた鋼の剣すらも、この【魔王の爪】で砕け散らせることができるのに。
「こんな、小さく、ザシュッ!ってくらいなんて……弱すぎる……。……くそっ、幼稚園児め……!」
「まぁ、ハデス様はもともと……魔術などで、遠くからドカーン!とやる派手なのがお好きでしたから……。『あっちの世界』でも苦手なほうでしたよね、【魔王の爪】」
「う……ぐぅ……たしかに」
さすがに長年側近を務め、最後は一緒に勇者に倒された盟友・魔鳥カイムなだけあって。
魔王ハデスが苦手なモノまで、良く知っている。
実は嫌いな食べ物があることまで、知っているのだろう。
苦々しい表情をしたまま、葉手州くんは地上にストンと降り立った。
そして、両腕が【魔王の爪】によって切り落とされ……バランス悪くフラフラと歩いてくる【地縛霊】に向けて、尖った八重歯を見せながら腕を突き出し、構える。
「じゃあ……その、ドカーン!とやる派手なので、トドメを刺してやろう。5歳児の体だから、威力はいつもの10分の1程度だろうが、まぁ、お前みたいなザコを倒すのには十分だ! ンガハハハハッ!」
葉手州くんが、意識を右腕の先に集中させる。
【魔王の爪】はすでに消えていて、代わりに手のひらの先に黒い渦のようなものが膨らみ、広がってきている。
『葉手州くんが、スキル【魔王爆裂掌(まおうばくれつしょう) LV5】を発動』
小さな邪悪な宇宙のような黒渦は。
葉手州くんの白い小さな掌の先に、浮き上がり。ゴゴゴゴッと地響きのような振動を周囲に響かせている。
その掌の渦に溜められたエネルギーを、相手へと放出することで……ブラックホール級の超重力の衝撃で攻撃する攻撃スキルだ。
鎧や盾を装備している勇者や戦士にも有効で、鎧などの下の肉体を内側から破壊し、死に至らしめる特殊スキルである。
「(まわりには友莉愛ちゃんや、芽愛がいるからな……。外側に向けての爆発だと、2人を傷つけてしまう。内側に向けての爆発にするなら、このスキルが最適だろう)」
横たわっている姫崎芽愛。
その妹の身体の下に隠れている、姉の姫崎友莉愛。
2人の安全を守りながら戦うことの難しさを感じながら、葉手州くんは【魔王爆裂掌】で【地縛霊A】にトドメを刺していく。
「これで終わりだ……【魔王爆裂掌】!」
鋭い八重歯を見せながら、ニヤリとし。
葉手州くんが掌を相手へと突き出した。
地響きをたてている黒渦からフレアのような高エネルギーが噴出し、黒い槍のようになって敵を貫く。
……はずだった。
しかし。
黒い槍がニョキッと伸びて【地縛霊A】へと凄まじい勢いで伸びていこうとした、瞬間に。
「ん……うぅん……?」
可愛らしい声を上げて、華奢な色白の体がゆっくりと起き上がる。
姫崎芽愛が、目を覚ました!
その途端に。
葉手州くんのぷにぷにの腕の先に浮かんでいた【魔王爆裂掌】の黒渦は消え去り、あと少しで【地縛霊A】の体を貫こうとしていた黒い槍も、煙のように消え去った。
葉手州くんの5歳児の体をつつんでいた魔王のオーラは消え失せて、ツンツンに逆立っていた黒髪も、キバのように鋭い八重歯も、いつもよりも赤く目立っていたアイシャドウのような痣も……いつもの姿へと、戻ってしまう。
「え、え、え……? ……どういうコト……だ? これ……」
今まさに。
魔王ハデスとしてのキメ技を発動し、目の前の……美人退魔士姉妹が倒すことのできなかった地縛霊を、華麗な大技でいとも簡単に倒してみせようと、していたところなのに。
技も、自分自身を包んでいたオーラも一瞬に消えてなくなった。
葉手州くんは、顔を引きつらせながら……肩に乗っているスズメに救いを求めるように、目を大きく見開いていた。
「……んんっ……。……あ……葉手州くんっ。大丈夫? ケガしてない?!」
目を覚ました姫崎芽愛が、茫然として立っている葉手州くんへと駆け寄った。
少し離れたところには、両腕のない【地縛霊】がフラフラとしている。
「だ、だ……大丈夫なような……。……大丈夫じゃないような……感じ」
「とりあえず、ケガはしてないみたいね。良かった。ごめんね、私、気を失っていたみたい」
「う、うん……知ってる」
「あ、お姉ちゃん。大丈夫?」
芽愛が起き上がった下にいた、姉の友莉愛。
先ほど殴られたお腹を押さえながらも、なんとか起き上がってきた。
「うん……まだ、お腹痛いけど……。……でも、アイツ、倒さなきゃ……」
「……そうだね……。【破魔】の札だけじゃ、キツいけどね」
退魔士の姉妹は、小さな5歳児の葉手州くんをかばうように、前に出る。
そのスラリと長い色白の素足の隙間から、葉手州くんは【地縛霊A】を【プロビデンスの目】で分析しようとする。
けれど、【プロビデンスの目】のスキルも使えなくなっていた。
「(あーもー! どうして急に、何もできなくなったんだよ! カイム、カイム! どうしてかわかるか?)」
肩にのっている小さなスズメ――――相棒の魔鳥カイムに、こっそりと話しかける。
しかし、その魔鳥カイムもまた……先ほどと違って言葉を話すことができなくなっていた。
チュン! チュン、チュン――――!
鳴くことしかできなくなった魔鳥カイムが、羽根を器用に頭に当てて頭を振りまくっている。「何が何だかわかりません! どうしましょう!」という言葉を、動きで表現している。
その間にも、【地縛霊A】は3人+1羽のほうへと歩み寄ってくる。
◇ ◇ ◇
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます