第6話 退魔士姉妹が負けたので、幼稚園児が戦うしかありません


 背の高い友莉愛ちゃんは、身体能力もとっても高く。

 大きな風船のような胸を、ブルンブルンと揺らしながら空中を舞い、【破魔】の札を地縛霊に浴びせていく。


 ボゥンッ!!


 札が爆発するたびに衝撃が巻き起こり、煙が舞う。

 会社のデスクが吹き飛んで、ドカン!と大きな音を立てて部屋の端まで吹き飛んでいく。


 サラサラと長い黒髪が舞うたび、花束のような華やかな香りが漂う。

 見守っている葉手州くんは、友莉愛ちゃんが飛び跳ねるたびにチラチラと見える、白のキュロットスカートから見える白いムッチリとした太ももに夢中だ。


「(ヤバいヤバい、どうしてオレ、幼稚園児のくせに――――目を奪われてんだ?)」


 ドキドキしながら戦う友莉愛ちゃんの姿に、頬を真っ赤にしている。


 チュン、チュン――――!!

 鼻の下を伸ばした、葉手州くん。

 その頭上を1匹の雀が飛び越していく。


 その間にも、友莉愛ちゃんは【破魔】の札を爆発させて、地縛霊を傷つけていく。


 腕の片方は、完全にちぎれて床に落ちている。頭の半分は吹き飛んでいて、中の頭蓋骨にドスくろい地が沼のようにたまっている。その中に浮かぶ、グロテスクな脳ミソまで見えている。

 それなのに、地縛霊は「女゛ァ…」と呟きながら、姉妹へ抱き着こうと迫ってくる。


「いくら【破魔】の札を使っても、キリが無い――――ッ!」


 高い身体能力を活かして、友莉愛ちゃんが地縛霊へととびかかる。

 長い白い脚を大きく振りかぶって、そのままハイキックで頭を潰そうとしている。


「やああああぁぁぁぁッ!!」


 ドスンッ!!


 けれど。

 鈍い音が響き、苦悶の表情を浮かべたのは――――友莉愛ちゃんのほうだった。


 空中でとびかかったしなやかな体は、下から伸びてきた触手のパンチを……細い腹部にまともにうけてしまった。

 失速してバランスを崩した友莉愛ちゃんの身体は、そのままボトリと床へと崩れ落ちてしまう。


「キャアアアッ!! お姉ちゃんッ!!!」

「友莉愛ちゃんッ!!」


 妹の芽愛が叫び、葉手州くんも我慢できずに飛び出した。


「あ゛……ッ……ぐううぅ……ッ……!!!」


 かなりの激痛のようだ。

 床に打ち付けられた友莉愛ちゃんは、苦しそうな声をあげて床の上で悶絶している。


 なんとか起き上がろうと、細い腕をブルブルと振るわせて上半身を起こす。

 けど、すぐに口を押えて床に崩れこんだ。

 全身から汗を噴き出して、口を手で押さえて嘔吐を堪えている。


「お姉ちゃんッ!! お姉ちゃんッ!! 大丈夫? ……もう動かないで! もう動かないでッ!!」


 芽愛は、涙を流しながら汗だくの姉の身体を支えている。

 駆け付ける葉手州くんも友莉愛ちゃんに寄り添おうとしたけれど、視界には……のっそりとした動作で近づいてくる、地縛霊の姿が見えた。


 崩れたまま悶絶する、友莉愛ちゃん。

 泣きじゃくりながら姉を守ろうと、覆いかぶさるようにして寄り添う、妹の芽愛。

 震える姉の身体をさすっていて、とても地縛霊の相手をしていられる状況ではない。


「(……オレが……何とかしなきゃいけないっ?!)」


 タタタッと駆け寄ってきた葉手州くんは、床に倒れている姉と、介抱している妹の前に、立った。


 ゆっくりとした動きで、歩み寄ってくる地縛霊のほうを向いて。


「―――――オレが、友莉愛ちゃんと芽愛を、守るっ!」


 奥歯をギリギリと噛みしめながら、葉手州くんは仁王立ちをした。


 チュン――――ッ!! チュン――――ッ!!!!


 どこから迷い込んだのか。

 頭上を、1匹の雀が飛び回っていた。


◇ ◇ ◇


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