第5話 触手がぬるぬると、女子中学生へ絡まります


 ヨロヨロと起き上がった地縛霊は、真っ赤に充血した目で3人を睨んでいる。

 その目には、明らかな敵意がにじみ出ていた。


「……【唱え言葉】でも成仏しない。【破魔】の札でも、仕留められないなんて……。……今までに無いタイプだね」

「そうみたいね。……でも、私たちには【破魔】の札がまだ何枚かあるわ。芽愛、2人で一気にやっつけましょう」

「うん、お姉ちゃん」

「葉手州くんは――――パパが来るまで、少し離れて待っていなさい。ね?」

「……わかった」


 ようやく、芽愛の薄っぺらい胸から解放された葉手州くんは、珍しく素直に頷いた。

 目の前の地縛霊は、体が崩れかけてきているけれど……まだ動けている。


 もしかしたら、姉妹では除霊できないほど強いのかもしれない。


 葉手州くんも緊張した表情で、タタタッと厚い壁の陰に隠れた。

 そこから小さな顔を出して、姉妹の様子を見守る。


「……さァ……いくわよ」

「覚悟しなさい、地縛霊ッ!」


 友莉愛ちゃんが【破魔】の札構える。

 芽愛も、指先に数枚の札を挟んで――――鋭い眼差しで睨みつけた。


 その、地縛霊は。

 体をユラユラと揺すりながら歩きだしたかと思うと、姉妹のほうへと向かって進みだす。


「―――――オ……オンナ゛ァ……オ゛ンナ゛ァ……」


 不気味な、野太い声。

 崩れかかった色の悪い唇の間から絞り出される声に、葉手州くんも、姉妹も、言葉を失った。


「しゃ、しゃべった!」

「言葉を話す地縛霊なんて……そうそういるモノじゃないわ。コイツ、結構『霊力』があるのかも」

「おまけに、言う内容が、キモいッ!!」


 芽愛が先に飛び出て、白い細い腕を大きく振りかぶる。

 指の間に挟んでいた【破魔】の札を、地縛霊に向けて投げ飛ばした。


 すぐに札はスゥッと空中を飛び、吸い込まれるように地縛霊へと襲い掛かる。


「成仏しなさい、地縛霊ッ! 【破魔】の札よっ!」


 札は2枚。

 地縛霊の身体に触れたとたん、爆発を引き起こす。

 衝撃が地縛霊の腐敗した体を押し曲げ、ボロボロになっている茶色いスーツの生地を引き裂いた。


 飛び散る肉片と、黒い霧。


 ギャアアアァァァッ!!


 引き裂くような声をあげて、地縛霊が苦しそうに悶えた。


 これで倒したのか?と3人とも思った。

 でもその次の瞬間、地縛霊は開いた醜い口から……蛇のような触手をズルリズルリと吐き出すと、長いウネウネと蠢く触手を、姉妹のほうへと伸ばす。


「うわっ! キモっ!」


 妹の芽愛のほうが先に出ていたので、その色白の細い手足に触手がヌチヌチと音をたてて絡みついた。


 細い手足は、絡みついた触手によって自由が奪われてしまう。


「(おぉ―――ッ! 美少女中学生に、触手っ! これは……ッ!!)」


 目の前の後継んい。

思わず、葉手州くんは鼻息を荒くした。

 けど、どうしてこの光景で鼻息があらくなるのかはわからない。


「(なんか、調子がおかしいなぁ……オレ)」


 細い手足に絡みついた触手に、鳥肌をたてて悲鳴をあげる芽愛。

 柔らかそうな長い蛇のような触手は、絡みついて芽愛の足をすくいあげ、ドシンと床に尻もちをつかせる。

 その痛みに、芽愛が悲鳴をあげている。少し泣いているようにも見える。


「妹を離しなさいッ! ケダモノッ!!」


 姉の友莉愛ちゃんが、鋭く叫んで【破魔】の札を――――芽愛の身体に巻き付いている触手へと、貼りつける。すぐに札が爆発して、触手がブチブチとちぎれて肉片と化した。


「ありがとう、お姉ちゃぁん……」

「泣かないの、芽愛。まだヤツは生きてるんだから」

「うん。……うぇえ……ヌルヌル、取れない。キッモ……。……気色悪すぎだよ、これ」


 ヌルヌルの粘液は芽愛の手首や足首にへばりついていて、芽愛が泣きべそをかきながら粘液をぬぐっていた。


「少し下がっていなさい。芽愛。……私がやるから」

「―――うん」


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