第3話 幼稚園児魔王は、脱走を企てています


 巫女装束かと思いきや、白を基調とした長袖の上着に、色白の長い美脚を惜しげもなく見せつけるような健康美溢れる姿の、姫崎姉妹。


 姉の友莉愛ちゃんのほうは、凹凸の激しすぎる見事な肢体を―――この神聖な白導衣に包み、長くてまっすぐな黒髪をサラサラとなびかせている大和撫子な美女姿。

 幼稚園児の葉手州くんから見ても、ドキドキがとまらない魅力にあふれている。


 妹の芽愛も、13歳らしい健康的な魅力を見せつけるように、色白の細い足をスラリとのばしている。

 長いツインテールの黒髪がよく似合う、お姉ちゃんと同じデザインの白導衣姿。

 胸の部分が、真っ平なのが少し残念ではある。

でも、可愛い。


「(すっげぇ、いいなぁ……あの白い服。いつもの2人とはまた違った、魅惑的な感じが良いなぁ。……あれ? そもそも、ミワクテキって何だ?)」


 物陰から姉妹の様子を観察している、葉手州くん。

 彼がどこにいるかというと、依頼のあった会社の敷地に停めてある車の中だ。


「葉手州くん……大人しくしてるんだよぉ? パパの今日のお仕事は、友莉愛と芽愛のジャマはしないこと。葉手州くんの面倒をちゃんとみること。……そして、葉手州くんと一緒に、車の中で待機すること、なんだからね」

「はぁーい」


 車の中には、葉手州くんの子守を担当することになった、姉妹のパパさんが乗っている。

 運転席に座ったまま、後部座席で毛布にくるまっている葉手州くんを時々ふり返って見て、逃げずに大人しくしているか確認している。


 でも、振り返って確認するのは10分に一回くらいで、他はスマホのゲームをするのに夢中になっている。


「……ねぇ、パパさん。地縛霊って、危険じゃないの? 友莉愛ちゃんと芽愛、大丈夫なの?」

「ん? あぁ、あの2人なら大丈夫だよ。友莉愛はもう18だし、祈祷するだけで大抵の地縛霊はいなくなっちゃうんだから」

「タイテイ……ってことは、祈祷してもいなくならない地縛霊もいるってこと?」

「そうだねぇ。時々いるねぇ。霊にも言うこと聞かないの、いるから。……誰かさんみたいにね」


 そう言って、パパさんはあきれた目で葉手州くんを見やる。


 つい30分前。

 除霊に出かけるという姉妹を前に、葉手州くんは姫崎の境内中に響き渡るくらいの大声で泣き叫び。

 床を転げまわり。

 涙と鼻水を垂れ流しながら、「絶対に着いていく! 連れていけ!」とダダをこねた。


 怒り狂い、葉手州くんのズボンを下ろしてお尻ペンペンをしようとする妹・芽愛と。

 困り果てた姉・友莉愛を前にして。

 送迎係のパパさんは、仕方なく幼稚園児の要求をのむことにした。


「車の中から絶対に出ない、ということにして……連れていくしかないんじゃないかなぁ」

「ホントに? 本気で? 夜の9時すぎてるんだよ。幼稚園児は、寝る時間でしょっ! こんな夜中に出かけるなんて……しかも、お買い物とか温泉いくとかじゃないのよっ。除霊よ、除霊! お仕事なの! そんな危ないところに、幼稚園児を連れていくなんて、非常識でしょっ! パパっ!」


 芽愛がキンキンとした声で怒り始めて、パパさんは顔にかけた眼鏡を落としそうになる。


「……で、でも……ほら、送迎薬のパパだって……車の中で待機なんだし……。後部座席に、毛布とか持って行ってさぁ……大人しくさせておけば、大丈夫なんじゃないかなーって……思ってね」

「ダメにきまってるでしょっ!」


 今にも、自分の父親に噛みつきそうな勢いで、芽愛が牙をむいている。


「……ま、まぁ……落ち着いて、芽愛。……車の中から出ないんだったら……私も、連れて行ってもいいかなって、思うけど……? いいかしら、芽愛?」


 落ち着いた声の友莉愛ちゃんは、少ししゃがんでそう言った。

 床の上には、ズボンを引きはがされそうになり、色白のプリンとしたお尻を出したまま芽愛に踏みつぶされている葉手州くん。その頭を優しくなでる。


「大人しくできるよね? 葉手州くん?」

「うん、もちろん!」


 芽愛のお尻に背中を押しつぶされながら、葉手州くんが元気いっぱいの声でお返事をした。

 でも、その目には怪しい輝きがともっている。


「(……コイツ、あやしぃ……)」


 姉に頭をなでられて、いい子いい子をされている葉手州くんを――――妹の芽愛は、ジト目で見降ろしていた。


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