四ノ三十 死闘
「いくぞ、小娘ッ!」
アサシノの怒声が月夜にとどろきわたり、十八本の触手がいっせいにヴァイアンにむけて襲いかかる。
サクミは次々とむかってくる不気味な触手を飛翔してかわす。彼女の体はコクピットに浮かんでおり、思考と動きとをヴァイアンの人工知能が読みとって飛行できているようだ。
夜空を飛翔するたびにコウメイの翼からオーロラのような光が流れ、その粒子がぱっぱっと夜空にまき散らされ、星屑のように夜空に輝く。
やがて、触手だけではなく、左右に浮遊する水晶玉から光線が放たれはじめた。
その光線の連射を、サクミはかわし、左腕の魔導盾ではじいた。
「おのれ、ちょこまかとっ。この銀バエが!」
夜空を、縦横無尽に飛びまわる白銀の機体に翻弄され、いらだたしさのなかでアサシノはののしった。
「そうそうよけきれるものかよっ」
触手をかわし、降りしきるレーザービームをさけ続けるが、しだいにその無尽蔵の攻撃がヴァイアンの動きを凌駕していく。
幾本かの触手が矢のように走り、先端の爪がヴァイアンの装甲をかすめ、いくつもの傷をつける。
「くっそうっ」
くやしさのまま叫んで、サクミは刀をめったやたらに振りまわした。触手の先端を何本か斬り落としたが、すぐに別の触手が襲ってくるし、その間に、斬った触手は短時間で再生して、切断面から爪が伸びでてくるのだった。
「これじゃあ、きりがないっ」
細長い触手と光線が空中でいくつも交差する。
しかも、それらの攻撃の合間に、ふいに巨大な尻尾がうちふるわれる。
直撃を受けたヴァイアンは、大きく宙空にはじき飛ばされた。
「ははは、脅威であろうっ」
跳ね飛んだヴァイアンに、水晶玉の魔導光線が数発命中した。
触手の一本が脛に巻きつき、ヴァイアンを引きずりおろすようにして、馬場に叩きつけた。
「このまま地の底にしずめてくれる」
とどめとばかりに、アサシノはミズチの尻尾を振り下ろした。
「負けるもんか!」
サクミは気合いをのせて、飛びあがり、豪然とせまりくる巨大な鞭のような尻尾に向かって突撃した。
白月を薙いで、尻尾に斬りかかった。
刃と分厚い装甲が甲高い音をたてて打ち合う。
尻尾の驚異的な圧力で、刀身がしなる。
「こんなものお!」
まけじとサクミは柄を握る手に力をこめる。
刃は、蛇の装甲に喰い入り、ぎりぎりと切り裂いていく。
「ええいっ!」
気合い一閃、刀は尻尾をついに切断し、大蛇の五分の一くらいの後端が暗黒の大地にすいこまれるように落ちていく。
「たかが、尻尾だろうが!」
アサシノは動じず、触手と光線の攻撃を加速させた。
サクミはふたたびヴァイアンを、右に左に、夜空を駆けさせた。
尻尾は触手のように、簡単には再生しないようだ。
凄まじい破壊力の尻尾攻撃は封じたが、しかし、触手と光線は厳しさをまして襲いかかってくる。
ヴァイアンは刀を振る、薙ぐ。
触手を斬る、光線をはじく。
そしてじょじょに、わずかに、わずかに、ヴァイアンの動きがミズチの攻撃の速度をうわまわりはじめた。
上下左右に残像を描いて駆けめぐり、側転し、宙返りして攻撃をかわす。
触手の再生するよりも速く、サクミはそれらをつぎつぎに斬り落とし、魔導シールドでうけた光線は水晶玉にむけてはねかえす。
「うっ、くそ、くそっ、なぜ当たらんっ!?」
アサシノはいらいらと叫んだ。
百メートルの巨体が、その十分の一程度の小さな機体に押されはじめていた。
ヴァイアンの一閃で、同時に数本の触手が切断されて、跳ねとんでいく。
盾ではじかれた光線が、ミズチの額に命中する。
「おのれっ、ナメくさりおってっ。だったら、当たるようにしてやるよ!」
アサシノは、ミズチの頭をヴァイアンからそむけ、城下町へむけた。
「これなら、よけられまい!」
巨大な口をあけると、うわあごの鋭く尖った牙が月光を受けてきらりと光る。そして、その果てのない洞穴のような暗い喉へと光の粒子が収束していく。
「あっ、なんてことをっ」
サクミは考える暇もなく、ヴァイアンをぐわりとひらいた口の正面へむけて飛行させた。
「これで終わりだっ!」
アサシノは、城下町へむけて、ミズチの口から高出力の魔導光線を発射した。
直後に、ヴァイアンがその軌道をふさぐようにして三十メートルくらい前方に飛び込んだ。
サクミは左腕を前に、魔導力の盾ですさまじい太さと熱量をもったビームを真っ向から受けた。
「王都とともに消えてなくなれっ、ヴァイアン!」
アサシノの憎悪がビームとともにサクミを襲った。
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