四ノ二十九 合体クロスフォーメーション!
上空からはコウメイが、地上ではヴァイアンが奮闘しつづけたが、敵の魔導力の容量は底が知れない。
このままでは、じり貧であった。
ヴァイアンは血迅隊との戦いから稼働させっぱなしであったし、コウメイも魔導力の充填はわずかしかできていないはずで、いつエネルギー切れをおこして墜落するかわかったものではない。アスハのトーマも、巨大化するだけの魔導力は残ってはいないのだ。
うなりをあげて振り続けられる大蛇の尻尾をかわしつつ、
「もうっ、せめて空が飛べればっ」
サクミは、空をみあげた。コウメイの、八の字を描いて魔導光線をよけながら夜空を飛びまわる赤い勇姿をじっと見つめた。
その視線に気づいたシオンは、
「なにかな、サクミさん、そのもの欲しそうな目つきは……」
苦笑してつぶやくのであった。
「まえまえから、できそうな気はしてたんだけど」
しかしもうシオンの相貌には、かためた決意があらわれていた。
「コウメイっ、操縦権限を一時サクミ・サイゴウに移譲する!」
鷹型慧煌獣に命じて、自分はその背からぱっと飛び降りた。
「シオンさん、わかってくれた!」
サクミは大地を蹴って、ヴァイアンをジャンプさせる。
シオンはいれちがいに飛びあがる白銀の騎士をみつめながら大の字に手足をひらいて落下ししていく。
白馬の背で、まったく理解不能な状況を見あげるアスハの後ろに、ふわりとシオンが舞い降りた。
「ちょっと、またっ!?」
飛びおりるときにコウメイの魔導力でバリアを張っていたので、彼の体にダメージはなさそうである。
「文句でしたら、あんな突拍子もないことを思いついたサクミさんにおっしゃってください」
微笑んで言いつつ、今夜みたび、姫から手綱と鐙をうばいとった。
サクミの肩に乗った子狐姿のマコモはあきれ顔である。
「いや、ちょっと無茶じゃないかな、おねえちゃん……」
「なせばなるっ!」
大蛇の目線ほども高くジャンプしたヴァイアンに、コウメイが接近してくる。
「合体っ、クロスフォーメーションっ!」
サクミの叫びに応じて、コウメイの頭部が腹部へと折りたたまれるように格納され、ヴァイアンの背部へまわりこみ、足の指が開いて鎧の背中の突起にがっちりと喰い込んだ。
そして、ヴァイアンの左腕には、コウメイの宝具と同じ形状の扇が光とともに現れ、接続され、ぐるりと円形に広がり、そこからオーロラのような色彩の魔導力で生成されたシールドが発生した。
ヴァイアンの目が生気を得たように爛と光り、十字架のようなシルエットのオーラが放たれ、鯨のような咆哮が城郭にこだまする。
まるでふだんの彼女らしくなく、大きく口をあけてその光景をながめていたアスハは、
「どうしてああ都合よく合体できるのよ」
「白月、巴、李翁は、昔からイルマ家に伝えられてきた宝具でしたから。ヴァイアン、トーマ、コウメイが連携できるのは、当然なのかもしれませんよ」背中のシオンが答える。
「これまで、私たちはそんな機能があることに気がつかなかった。ヴァイアンが発動しなかったこともあったけど、トーマが巨大化できたのも、コウメイが合体できたのも、すべてサクミがいたからできたように思える。父が言っていたように、サクミは、ほんとうに国を、我々を、導いてくれる存在なのかもしれない」
「ねたましいですか?」
「もちろんよ。でもね、私は実力を認めた人にしか、嫉妬しないわよ」
シオンは、草むらにきれいな花を偶然みつけたような、ほほえましい気持ちで腕の中の彼女の横顔をみつめるのだった。
アサシノは、コクピットのモニターにうつる常軌を逸した光景を、顔をひきつらせて眺めていた。
「飛べたからといって!」
叫ぶと、大蛇の六本の脚の三本の指が、にゅっと伸びだした。どこにそれほど長大な部位が収納されていたのか不思議なほど、ながくのびたその十八本の指は、触手のようにうねうねと曲がりくねりながら、大蛇の左右に広がっていく。
「このミズチにたやすく勝てると思うな、サクミ・サイゴウ!」
長く巨大な蛇が、左右に衛星のような水晶玉を浮かべ、触手と化した十八本の指をうねらせ、ヴァイアンを覆いつくすように接近する。
それはまるで、国を、そこに住む人々をむしばむ悪魔のような影であった。
サクミはその敵の、おぞけのするような異様な姿を、うわめづかいににらみ、歯をかみしめた。
「この化け物だけは、絶対に倒してみせる」
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