四ノ八 爆弾をさがせ
「どう、マコモちゃん、見つかりそう?」
サクミが、前を歩いていく狐姿のマコモに問いかける。
「ううん……、微妙」
マコモはそう言いながらも、なんとなく火薬の臭いのする方向へと向かって進んでいく。
まずは手近なところから、というわけで学問所の敷地内に潜んでいるかもしれない爆弾ネズミをさがしていた。
今日は休校日ということもあって、校内の人影はほとんどない。人の発する体臭で鼻が混乱するということもなさそうだが、
「いや、やっぱりいなさそうだなあ」
地面や風の臭いを嗅ぎながら、マコモが確信なさげに言った。
「学問所……、テロを起こすなら、こういう目立つ場所が最適だと思うんだけどなあ」
サクミも確信なさげである。
アスハ姫率いる、自称自警団「白銀の炎」のチームメンバーは、三手にわかれて爆弾の捜索にあたっていた。
爆弾をしかけるなら国家機関や目立つ場所(この点ではアサシノの思惑を完全に読んでいた)ということで、顔のきくアスハがユウリンを率いて官公庁の探索に、シオンがライマルを連れたヒヨリとともに町なか、特に国に経済的な打撃となりそうな大商人の屋敷をあたり、サクミとマコモは、
――どこか適当に目立つところをさがしなさい!
というアスハの投げやりな命令にしたがって、まず学問所を捜索していたのだった。
ちなみにアスハは、莞公の家臣が飼っている煌獣犬をシオンが借りてきて、それを連れていった。
火薬は一昨日の浜辺での会議のとおり、どこからかヒヨリが調達してきて、それを三チームにわけて持っている。
しかし、これ以上校内をさがしても時間の無駄になりそうだ。
「うう……、どうしよう」
サクミ、決断力は、ない。
おとといの一件のあと、ユウリンはアスハに言ったのだ。
――話の流れに流されて言いそびれていましたが、爆弾を持ったネズミはあの一匹だけという可能性も、考慮されてはいかがでしょう。
もちろんその、話の流れ、で姫への助言をあたえすぎた自分の失態を打ち消し、アスハの意気ごみを緩和させる気があったのだが、それをアスハは、
――一匹だけという可能性もあれば、大量にいるという可能性もあるわ。たとえ徒労に終わっても探すだけは探しましょう。
そう言って、
――爆弾がどこにあるかもわからない町で暮らすのはたまらないでしょう、あなたは平気?
などとなにか含みのある不敵な笑みを浮かべたのだった。
――喰えないお人だ……。
ユウリンは、今、意気揚々と町奉行所の門をくぐるアスハの後ろ姿をみながら、奇妙な感情がわいているのに気づいた。以前、難民収容所での騒動のあとにも同じ感覚になったのだった。
この奇妙な感情がなんなのか、彼自身にも、まだわからない。
「あ、あの、姫様、なにをしておいでで?」
四つん這いになって縁の下に頭をつっこんでいるアスハに向かって、縁側に座った町奉行所の与力が問いかけた。
「あ、気にしないでちょうだい、あなたはお仕事を続けて」
「そういわれましても、大変気になりますので……」
困惑のていで言って、与力は煌獣犬を連れて庭に立っている少年に目を向けた。
それを受けてユウリンはにこりと微笑む。
「ああっ!」
「いかがなさいました!?」
すっとんきょうな姫の叫び声に、与力が頭をさかさまにして縁の下を覗き込んだ。
「本当にいたわっ!」
「なにがですか!?」
「爆弾ネズミ」
「爆弾!?」
アスハは庭にはいずって出てきて、指で尻尾をつまんだネズミを、ユウリンの差し出した金網の籠に慎重に入れ、そっとふたを閉じた。
「あ、気にしないでちょうだい」
「いえ、気にせざるをえないのですが……」与力の声は心なしか震えている。
隠密にことをはこぶべし、とアスハは隊員に命じておいた。
漸の間者がどこにひそんでいるかわからないし、おおごとにしてしまうと、探索に気がついた敵が爆弾を爆発させてしまうのを懸念してのことだった。
「ここはもういなさそうね」
膝についた土を払いつつアスハが言うのへ、ユウリンが、
「はい、一か所一匹と考えて問題なさそうです」
「その犬、不細工のわりにちゃんと働いてくれるわね」
ユウリンが綱を握る煌獣犬はブルドックタイプで、ブルドックなどはこの晶月には生息していないため、アスハからすれば奇妙な生き物にみえてしかたがないようだ。
「じゃあ、つぎは勘定奉行所にでもいきましょうか」
「かしこまりました」
「まったく、この国は国家機関をひとところにまとめて配置しすぎよ。反乱でもおこされたら、簡単に制圧されてしまうわ」
「那国は長年戦乱とは無縁でしたので」
「平和ボケもいいところね」
普段どおりといった調子で会話しつつ庭から出ていくアスハとユウリンを、与力はひきつった顔をして見送った。
「ば、爆弾って……?」
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