四ノ六 作戦会議
「敵の真意はともかく、爆弾を背負った物騒なネズミが存在しているのは、まごうかたなき事実だわ」
アスハが真剣なまなざしで、考え込むように波打ちぎわをみつめる。
「しかし」と懸念を口にするのはシオンであった。「この広い国都のどこに爆弾を持ったネズミの煌獣がいるのか、どうさがせばいいのか……」
ネズミ爆弾の数も多いか少ないか見当がつかないし、第一、ほんとうに敵がネズミ爆弾を使ってテロを計画しているのかさえ、まだ不明な段階であった。
「あのむっつり武芸者か破廉恥女を見つけるほうが、よっぽどてっとりばやそうね」
「そのふたりを捕縛したところで、どこに仕掛けたか、簡単に口を割るとは思えませんが」シオンが答えて言う。
「いざとなったら、拷問でも私刑でもやってやればよいのだわ」
「いや姫様、さすがにそれは……」
「じゃあなに、どこにいるかもわからないちっちゃなネズミを一匹ずつ、ちまちまとさがすとでも言うの?」
「ううむ」
と一同いっせいにうなり声をあげた。
「サクミ」
「はい」
「あなたのいた世界には、広範囲のなかから小さな物体を探す特別な方法とかなかったの?」
「え、ああそうですねえ」
サクミは突然のアスハの質問にたじろぎながらも考えをひねりだした。刑事ドラマなどでは、爆弾を探すエピソードが時折あったのだが。
「むこうでも、広い町のなかで手がかりもなく爆弾をさがすのはむずかしいですが、ある程度範囲がしぼれるなら、金属探知機とか特別な訓練をつんだ犬とか使いますけど」
「煌獣ネズミなんて普通のネズミにまぎれてその辺にいるのよ。そのなかで爆弾を持った煌獣ネズミ一匹を探さなくてはいけないのよ。金属なんとかは知らないけど、犬を使っても特定のネズミを見つけられるはずがないじゃない。もっと頭をひねりなさいよ」
「いえ、ですから、犬が臭いをたどるのはネズミではなくて爆弾の火薬の臭いですよ」
アスハは、はっとした表情でサクミに振り向いた。
「そうか、ネズミをさがすことばかりで頭がいっぱいだったけど、火薬を探せばいいのね。サクミ、あなた時々まれに、ごくたまにだけど妙に的確な発言をするのね。ちょっと感心するわ」
「それほめてます?」
「やってみなくてはわかりませんが」と話に割ってはいったのはヒヨリであった。「たしかにライマルもネズミにまぎれている煌獣ネズミをさがすのは不可能に近いですが、火薬の臭いならたどれるかもしれません。火薬なんてものは、この町においそれとあるものじゃないですから」
「けど、ライマルだけでは、いくら慧煌獣といっても、範囲が広すぎるわね。他に誰か、犬を飼っている人いないの?」
アスハの質問に、
「ううむ」
ふたたび一同いっせいにうなった。
が、そのなかで、不自然にそっぽをむいた少年を、アスハは見逃さなかった。
「マコモ!」
ぎくっとしてマコモが顔をもどした。
「あんた狐族でしょう、犬みたいなもんでしょう、人間よりは鼻もきくわよね、あなた、やりなさい」
「いやいやいやいや」マコモはなんどもかぶりを振った。「おいら犬とは違うからね。確かに鼻は人間よりもいいけれども、犬のマネはできませんからね、自尊心がゆるしませんからね」
「那の危機を前にすれば、あなたの自尊心など糸くずみたいなものよ、つべこべ言わずにやりなさい!」
「ええ~?」
「マコモちゃん、わたしからもお願い」とサクミが背中をおすように手をあわせてお願いした。
「ふん、じゃあ、しょうがないね。やるよ、やりますよ」
「ちょっと、なんで王女である私の言うことはきけなくて、サクミの言うことはきけるのよ」
「人柄の問題ですかね」シオンが苦笑していう。
「なんですって!?」
「あの、ひとつ肝心なことが」
「なに、ヒヨリ?」
「爆弾を探すには、同じ爆弾か火薬がまずひとつでもないと、ライマルにもマコモにも臭いを覚えさせられません」
「ううむ」
三度目のうなり声をみながいっせいにあげた。
「あの」
「なに、ユウリン」
「確実な話かはわからないのですが、もし、爆弾をしかけたのが漸の間者だとすれば、火薬の調合は忍の里の秘伝を使った可能性があるのではないでしょうか」
「たしかに、漸は何年か前に
「火薬の扱いは忍の専売特許みたいなものです。鵡国を比較的短期間で征服できたのは、忍の里から手に入れた秘伝の火薬を武器に応用したためであるという説もあります」
「ということは、ヒヨリ、忍のあなたならどうにかならない?」
アスハの呼びかけに、いぶかしげにユウリンをにらんでいたヒヨリがはっとして、
「そうですね、私は火薬の扱いはにがてですが、なんとかつてをたどってみます」
「よし、決まりね、急いでちょうだい」
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