第四章 旅立ちの日
四ノ一 騎煌戦士たち
煌獣――。
鉄の装甲を持ち機械仕掛けで動く、生物の形をした、直截に言えばロボットである。
かつては甲獣と書いたのが、金属の装甲が光を反射して輝くからか、駆動部がときたま光を発するからか、きらめくけもの、煌獣の字があてられるようになったと伝わる。
そしてその煌獣のなかで特殊な能力を秘めたものを慧煌獣という。
人型のものを慧煌兵と呼んだり鳥型のものを慧煌鳥などと呼んだりもするが、ひとまとめに慧煌獣と言われる場合が多いようだ。
慧とは、さとい、とか、賢い、くらいの意味である。
はるか昔、人はこの慧煌獣を何かしらの道具などに封印する技術を持っていた。
慧煌獣をとじこめた宝具を持ち、とじこめられた慧煌獣を召喚し操る者を、
騎煌戦士――。
と、ある種の畏怖と畏敬を持って人々は呼んだ。
その騎煌戦士が操る慧煌兵と慧煌獣が、広いまったいらな大地のうえで、時に組み合い、時に殴り、時に突進し、激しい攻防を続けていた。
全高十数メートルのふたつのその巨体が、くんずほぐれつ、轟音をもって地面に転がされ、転がし、足を踏み鳴らし、大地を揺さぶっていた。
白い装甲を持ち、頭には二本のツノと黄色く輝く関節を持った馬――バイコーン型慧煌獣のトーマが、銀色の和洋折衷の甲冑をまとった慧煌兵ヴァイアンに凄まじいスピードで突撃していった。
ヴァイアンは馬頭の二本のツノを両手でつかんだ。
「ちょ、ちょっと姫様、本気にならないでくださいよ!」
ヴァイアンのコックピットで銀髪のショートカットを揺らし丸い目を大きくひらいて、サクミ・サイゴウが叫ぶように言った。
慧煌兵や慧煌獣は、パイロットの動きをそのまま再現するモーショントレースシステムで操縦する。
つまり、としごろの十七歳の少女が人に見られたら羞恥の極み、サクミは腕を突き出し股を広げてふんばって、馬のツノを必死な形相でつかんでいるのであった。
「甘ったれんじゃないわよ!」
バイコーントーマの操縦席では、那の国の王女アスハ・イルマが叫んだ。
「練習で本気になれない者が、本番で本気になれるわけないでしょう、サクミっ。あなた、もっと本気でかかってきなさい!」
ポニーテールの髪が跳ね、切れ長の目をした美貌で叱咤する。
ちなみに、アスハ姫は二本足で走って四本足のトーマを操縦しているのだから、この馬型慧煌獣のもつ人工知能はなかなか高度なようで、パイロットの無茶な動きをうまくくみとって挙動に反映させている様子である。
「本気になったら、どちらかが怪我しちゃいますよっ」
そう、さきほどから一方的に転がされているのは、本気になれないサクミの搭乗するヴァイアンなのであった。
「慧煌獣に乗ってるんだから、そう簡単には怪我しやしないわよっ。殴られたって痛くもかゆくもないでしょっ。そら、もう運動場の端まで押してるわよ、なんとかなさいっ」
アスハの身勝手な、人を人とも思わぬ叱咤に、サクミはみぞおちのあたりにもやもやとした不快感が湧き出てくるのを感じた。
ひらたくいえばムカついた、猛烈に!
「こんにゃろめぇ!」
サクミはトーマの馬の
地響きを轟かせ、白馬がその巨体を転がした。
「そうよサクミっ。やればできるじゃない!」
随分高所からの褒め言葉である、のだがトーマが倒れた瞬間、痛っ、という姫の発したささやかな悲鳴を、サクミはたしかに耳にした。
トーマがもがきながら立ち上がった。
その時であった。
「コラ、お前たちっ、何やってんの!」
国立学問所
怒鳴り声に答えるように焦燥の叫び声をあげたのはアスハであった。
「うっ、魔王に見つかったの!?なんたるうかつ!」
さえぎるものとてない広大な校庭で、巨大なロボット二機が取っ組み合っていて、人目につかないわけがないのであるが……。
数秒後には、彼女の威圧によってふたりは地上に降りるを余儀なくされ、王女だろうと救世者であろうと
ヴァイアンとトーマが、所在なさげにその光景をみまもるその足もとで……。
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