三の十五 決着

 このまま相手の周りをぐるぐる回り続けてもらちがあかない。

 アスハはますます焦れてくる。

「姫様ぁ、目が回ってきましたよぉ」

 後頭部の方向から、サクミの嘆くような声がする。

「まったく、みじめったらしい声をださないの!いま打開策を考えてるんだから!」

「でもぉ~、このままじゃぁ~、バターになっちゃいますよぅ~」

「なによバターって!?わけわかんないこと口走るくらいなら黙りなさい!」

 だが、アスハは、はっとひらめいた。

「サクミ!」

「はいぃぃぃ」

 回転のせいで(?)間延びしたサクミの返事に苛立ちつつも、アスハは、

「あんた、あれやりなさい」

「あれって、なんですかぁ~?」

「あれよ、刀の残像を飛ばすやつ」

「ええ~?いきなり言われても~?薙刀でできるかな~?」

「つべこべ言ってる暇があるんなら、やってみなさい!」

「はぁい~」

 サクミは、回っている視界の、おそらくバクリュウ+アイゼンと思われる黒い塊にむけて、薙刀の巴をふった。

 残像が発射され、標的めがけて飛んでいく。

 しかし、無見当に放った斬撃は、竜騎兵のずっと手前の地面をえぐっただけだった。

 だが、この攻撃を予期していなかったメノウは、ぎょっとして、攻撃の手をとめてしまった。

 メノウは、しまった、と思った。

 同時に、アスハは、やった、と思った。

「今っ!」

 アスハはトーマを急停止させ、まだ遠心力のかかる機体を無理矢理に敵に向けて方向転換させた。

「サクミ、もう一度!斬烈閃!」

「はい!」

 ヴァイアンが横なぎに振った薙刀から、斬撃の一閃が放たれた。

 勝手にネーミングされた、斬烈閃の一撃は、だがしかし、バクリュウの足元の地面を切り裂いた。

 それでも、意外なほど効果があった。

 戦闘慣れしていないメノウは、ついさっきまで優位に立って攻撃していたのに、急な反撃をうけて、完全に動揺してしまっていた。

 トーマは、バクリュウに向けて、猛進してくる。

 メノウが、はっと気が付いた時には、白馬の二本の角がもう目の前にあった。

 余裕をなくしたメノウは、突飛な行動にでてしまった。

「こんにゃろう!」

 バクリュウの歯で、突っ込んで来る角を、噛んだ。

「なんと!?」

 意表をつかれたアスハだったが、勢いが味方していた。

 そのまま、突進しつづけた。

 角に噛みついたバクリュウはふんばる。

 だがしだいに押されていき、地面をえぐりつつ、後退していく。

「が、が、っが」

 まるで、自分が噛みついているかのように、メノウがうなる。

 動きがとまっているトーマの首をめがけ、アイゼンが長刀を振り下ろした。

 アスハはかまわずに、トーマの二本の角の間にエネルギーを集中させた。

「くらえ、轟火弾ごうかだん!」

 恐竜の口内に閃光が走る。

 エネルギーの溜めが少なかったせいで、ダメージはさほどではなかった。

 だが、口を裂けるほど大きく開いて、バクリュウは大きくのけぞった。

 アイゼンの振り下ろした刀が、空を斬った。

「もらった!」

 サクミが叫んで、薙刀をふるう。

「まずい!」

 とっさに敗北をさとったナガトは、バクリュウの背中から後方に飛び降りた。

「な!?ナガト!?」

 メノウの怨声が口からもれた瞬間、ヴァイアンの薙刀がバクリュウの首に食い込み、ガリガリと音を立てながら、切り裂いていく。

 バクリュウの首は、まさに首の皮一枚、といった状態でつながっていただけだった。

「ちくしょう!」

 メノウのののしりと、バクリュウの断末魔の悲鳴が重なって荒野に轟いた。

 バクリュウは、真っ黒に発光し、爆発するように霧散した。

 さきに退避したアイゼンは、その爆発に紛れるように姿を消す。

 メノウは、大地へと、飛び降りた。

 そのかたわらに、バクリュウを戻した野太刀が落ちてきた。

 彼はそれを拾い上げ、そうして、フードの中から鋭い、憎しみのにじんだ瞳で、トーマとそれにまたがるヴァイアンをにらんだ。

 そうしてしばらく見上げると、ふいに踵をかえして走り去っていったのだった。

 アスハは、その後ろ姿を目で追った。

 何かを推し量るように目をほそめ、遠ざかるその影をみつめていた。

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