三ノ十四 騎兵対竜騎兵

 トーマの体が腰を落として突撃体勢の構えをみせた。

「来るぞ!」

「わかってますって!」

 ナガトとメノウが言葉を交わした瞬間、トーマが射出される砲弾のような勢いで走りだした。

 地面を踏み鳴らして突進してくる白馬を、竜騎兵は横っ飛びにかわす。

 うなりをあげて通り過ぎるトーマ。

 バクリュウが体をまわす。

 トーマはスリップしながらとまり、とまった瞬間、跳ねるように突進してくる。

「はやい!」

 メノウは焦りつつも、その軌道からバクリュウをずらした。

 二騎がすれ違う瞬間、ナガトが呼応するように、大長刀をふる。

 サクミは、それをすんでのところでかわした。

 トーマとバクリュウの距離が遠のいた。


 脚をとめつつ、トーマが振り返る。

「ちょっと、サクミ、なにやってるのよ!」

「え?」

「え?じゃないわよ、攻撃しなさい!薙刀のほうが、向こうのよりも長いんだから、こっちが有利なのよ!」

「あ、そうね、そうします」

 サクミは、トーマの鞍上で頭をかいた。

 ちなみに、ヴァイアンのコクピットのサクミはトーマの姿に形成された、CGモデルのようなものにまたがっている。これは、バクリュウにまたがるアイゼンのナガトも同様であった。

「まったく、ボケてるんじゃないわよ。いい、いくわよ!」

 アスハはふたたびトーマを発進させる。


「メノウ、よけてばかりでは話にならん。こちらも突進しろ」

「え、そんなこと言ったって」

「いいから行け!」

「ちぇ、怒らないでよ」

 バクリュウが走りくるトーマに向けて走り始める。

 メノウは、アイゼンの長刀の長さを考慮し、トーマとの間合いをとったコースどりをした。

 猛進しながら、二騎がすれ違う。

 その間で、長刀と薙刀が打ち合った。

 ふたつの刃が重なり、ぎいぎいと音をならし、火花を散らしてこすれあう。

 遠のく二騎。

 双方とも、充分の間合いをとってから反転。

 そしてにらみ合う。

「ふふふ、いいぞ」ナガトが喜悦する。「決闘とはこうでなくてはな」

「もう、なに言ってんだか。速さも間合いも、向こうが有利になっちゃってるじゃない」

「いや、数合打ち合っただけだが、力ではこちらのほうが、ずっと分があるとみた。それにふところに入ってしまえば、薙刀はかえって不利になる。メノウ、ぶつかる気で行け」

「まったく、急にいきいきとしちゃってさ」


 双方、はかったように同時に走りはじめた。

 今回違うのは、お互いが同一線上を疾駆していることだった。

「ぎゃっ、ぶつかる!?」

 サクミが驚いて、萎縮するのへ、

「ひるまないで!正面から衝突してもこっちが優勢よ!」アスハが叱咤した。

「そうかなっ」

「だって、ツノがあるじゃないっ」

「ええ!?そんな理由!?」

 サクミが驚愕した瞬間、トーマとバクリュウの頭と頭が激突した。

 トーマの二本の角が、バクリュウの額に突き刺さった。

 ように見えた。

 だがしかし、メノウはその攻撃を予期しており、角をさけるようにバクリュウの身をかがめ、トーマはその鼻づらへ頭突きを食らわされたかたちになった。

「ぐあっ!」

 アスハの悲鳴とともにトーマがのけぞる。

 その隙を逃さず、アイゼンが長刀を振る。

 ヴァイアンも薙刀を振り下ろす。

 だが、薙刀の柄は敵の肩にあたって鎧にはじかれた。

 首もとめがけて向かってくる長刀を、無理矢理体をひねってサクミはかわした。

 切っ先が右肩を傷つけた。

「もうひとつ!」

 アスハが叫ぶ。

 トーマは数歩よろめくように後退したが、すぐに突進した。

 バクリュウは、紙一重でかわすと、かわしながらぐるりと身をひるがえして、その太く屈強な尻尾を横殴りに叩きつけてきた。

 側面を殴打されて、トーマがよろめく。

 だがアスハは脚をとめず、そのまま走り抜けた。


 バクリュウが走り去るトーマを追うように首をまわした。

 メノウは、恐竜の巨大な口を、裂けるほど大きく開いた。

 その開いた口内に黒い光が充満する。

「これでも喰らえ!」

 バクリュウの口から、黒い光の弾丸が、発射された。

 しかも、機関銃のように、間断なく連射される。


「飛び道具!?」

 アスハは黒い弾丸を目の端にとらえて、トーマを右へと急転換させた。

 白い馬を追って、黒い蛇のように残像を描いて光弾が襲いかかる。

 大地をけるトーマの蹄すれすれに、弾丸が着弾しつづける。

 トーマはバクリュウを中心に、円を描いて逃げる。

 一周、二周、三周……。

 アスハは焦慮しはじめていた。

 トーマを巨大化させるなど、初めてのことだし、今まで考えたことすらなかった。

 おそれるのは、ただ一つ。

 ――いつまで巨大化していられるかしら。

 このまま攻め続けられて、体力エネルギー勝負にもちこまれたら、まず勝ち目はないだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る