二ノ三 友達(一)

「どういうことなのかしら」

 みなが食堂で食事をすませ、昼休みの残り時間を裏庭ですごす。

 いつもどおり、サクミはヒヨリとお喋りをしていると、アスハ姫があらわれて、あからさまな不機嫌な表情をして唐突につぶやいた。

 なぜ、ここに来たのだろうという不信感を持ちつつも、

「どういうこととは、どういうことでしょう?」

 言葉につられてサクミは問う。

 そこへさらに、

「やあ、皆さん、ごきげんよう」

 ほがらかな笑顔とともに、シオンが近づいてくる。

「シオン殿、学校で男女がみだりに会話するのは、校内法度に背くという事実をお忘れではないでしょうね」

 アスハが、冷たく歓待の言葉を述べた。

 シオンは、慣れっこの嫌みを聞き流して、サクミさん久しぶり、と挨拶をする。

「まあいいわ」とアスハが気持ちを切り替えるように「どうしてかしら、なぜ誰も、私の妙案に乗ってこないのかしら」

 妙案かどうかはともかく、自らの国は自らで守るのだ、などというアジテーションに心をゆさぶられる婦女子は、この学校には、まずいないであろう。あくまで、この学校の女子教育は、健全な婦女子を育成することにあるのだから。その方針にそって学園生活を送っている女生徒ばかりなのだから。

「あなたのほうはどうなの、シオン殿。ちゃんと勧誘をしてくれたんでしょうね」

「ええ、しましたよ。でも、こちらも誰も見向きもしてくれません」

「この間の七人は?」

「まあ、彼らも、一度かぎりのことでしたから、姫の誘いに乗ったわけですし、みんな、あの後屋敷に帰ってから、たっぷりとお灸をすえられたらしいですからね」

「まったく、親から叱責をうけたくらいで変節するなど、なげかわしい」

 アスハは腕を組んで、憤懣やるかたないといったていで、溜め息をつく。

「けっきょく、この顔ぶれになってしまうのね」

 サクミとヒヨリにしてみれば、聞き逃せないひとことが、さらりと溜め息とともに飛び出した。

「あの、姫様」

 サクミがなにか言おうとすると、横からヒヨリが、

「わたしたちを、勝手に仲間にしないでくださいませんか」

 と直截に否定をいれた。

「あら、あなたにこばむ権限はなくってよ、ヒヨリさん」

「どうしてですか」

「あなた、サクミさんの付き人でしょう。だったら、主人であるサクミさんがくみするというのですから、あなたも付き従うのが当然でしょうに」

「いや、ちょっと待ってください」

 すかさず、サクミが割ってはいった。

「私も、仲間に加わるなんて、ひとことも言っていません」

「あなたが断れると思っているの?」

「どういう意味ですか」

「白銀の炎の中心には、あなたの存在が不可欠なの。あなたとヴァイアンは隊の象徴なの。あなたがいるから、隊を結成しようという案が浮かんだわけ。だから、あなたははじめから、入隊しているのよ」

「あの、理屈がまったく通っていないと思うのですが」

「理屈などどうでもいいわ。私が決定したのだから、すでに決定事項なのよ」

 もう、わけがわからない。

 専制君主制度での姫とは、こういうものなのだろうか。

 サクミは身のうちに、ただただ怒りがこみあげてくるのを感じていたが、言い返す言葉を失って、形相に怒気をあらわすだけが精いっぱいであった。

 アスハは、三人を見下すように顎をあげて、

「まったく、私が言うことは、つねに、正しいの。あなたたちは、ついてくればいいのよ」

 じゃあ、勧誘をつづけてね、とシオンに命じ、アスハは教室へと戻っていった。

 姫は、すれ違う生徒たちにお辞儀をされると、ごきげんよう、などとにこやかにほほ笑んで歩いていく。

 いったい、いままでの不機嫌さはどこへいったのだろうか。

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