プロローグ 四

 ヴァイアンが、正眼に構える。

 アイゼンは、背中に差した、立てたら肩ほどの長さもあるであろう大長刀を、――どういう構造なのか――するりと抜いた。

「こんのお!」

 サクミが斬りかかる。

 アイゼンが受ける。

 ふたつの刃が重なりあい、火花を散らす。

 そのまま鍔ぜりあいになり、巨大ロボットの押し合いがはじまった。

 背筋が寒くなるような、刃どうしがこすれあう音が、周囲に響きわたる。

 だが、力勝負なら、完全にサクミに分がない。

 ヴァイアンは押し飛ばされ、後ろさがりによろめく。

 そこへ、アイゼンの大長刀が振りおろされる。

 体をひらいて、すんでのところでサクミはかわした。

 直後に足をふみだしつつ、体勢の崩れたアイゼンに、横殴りの一撃を見舞う。

 だが、その一撃は、相手の肩装甲を傷つけただけだった。

「浅いか!?」サクミは歯がみした。

 アイゼンのパイロット、ナガト・ダイモンは、あきらかに玄人プロの武人だった。肩に攻撃をうけつつも、受け流すように身体をひねって損傷を最小限に押さえ、同時に体勢を立てなおし、次の攻撃にはいる。

 サクミも素早く刀を振り上げる。

 ふたつの刀が打ちあった。

 お互いはじかれて、また打ちあう。

 さらに、もう一度。

 打ちあうたびに、巨大な刃がぶつかる轟音が草原に響き渡った。

 アイゼンが間合いをとろうと、一歩あとじさる。

「今!」

 サクミがその隙を目ざとくみつけると、満身に力をため、叫ぶ。

「くらえっ、魔導マドー斬りっ!」

 ヴァイアンの袈裟がけの一撃が、アイゼンの左肩に打ち込まれ、胸まで斬りさげた。

「ぬかった!撤退だ!」

 嗟嘆してナガトはアイゼンを自らの意志で消滅させた。損傷が広がる前に、宝具である長刀「黒曜こくよう」に機体をもどしたのだ。

 黒い光とともに消えていくアイゼンから、黒い長髪をなびかせて、ナガトが放りだされた。が――。

「うわ!?」

 気配をさっしてサクミが驚きとともに身をひねると、後ろの洞窟から駆け出してきた恐竜慧煌獣が脇をかすめるように走り去った。

 ナガトはその後頭部におりたち、そのまま退却していった。

 サクミへの憎悪の視線を残して。


「ほほほ、また勝てなんだのう」

 慧煌竜ザンリュウからナガトに向けて女の声がする。乗っていたはずの野盗がどうなったかは、わからない。操縦していたのは、あの妖艶な女、アサシノであった。

「もういいかんげん、小娘への妄念なぞ捨てたらどうじゃ」

「勝ってこその武人だ。武人でない貴様などにはわかるまい」

「勝てねば、なにを言っても痴れ言にすぎぬであろうが」

「ふん」

「我らのこれまでの労苦も、さんざんぱら味わいつくした苦衷も、忘れたわけではあるまい」

「その苦衷を振り払うためにも、あやつは倒さねばならんのだ」

「我らがなしとげねばならぬ任務を忘れてもらっては困る、と言っておるのじゃ」

「ヴァイアンの打倒も任務のうちであろう」

「まったく」とアサシノはコクピットであきれる。「漸王は、おぬしに期待しておられる。それをよく心にとどめておくことじゃな」

「…………」

 ナガトは唇を噛んで、後ろに振り返った。

 視界の中心に、もう遠く遠ざかった白銀の騎士が、巨体に烈日をはじいて勇姿を示していた。

 恐竜ロボットは、風を切り、草原を駆けていく。

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