プロローグ 三

 サクミが身体をくるりとまわし、三機の恐竜慧煌獣たちに正対する。

「我、求む。大地に降り立ち、命を救え!」

 サクミは刀を抜きはなち、天空に向って突き上げる。

「いでよ、ヴァイアーンっ!」

 彼女の頭上はるか高く、凄まじい光が閃いた。

 そのまたたく光りのなかから、巨大な人型の慧煌兵が姿をあらわした。

 銀色の西洋甲冑をまとった巨人――。

 陽の光をうけて輝く、十三メートルほどの威容が、ふたりの前にそびえ立つ。

「ライド・オーン!」

 サクミとすぐ隣にいたマコモが光につつまれ、輝きがおさまると、ふたりは魔導力マドーりょくで形成された黒い土台の上にたっていた。周囲の景色は空に浮かんでいるように見える。慧煌兵のコクピットに入ったようだ。

 サクミは、いままでの白い着物ではなく、身体にぴったりと張りついた白銀のボディースーツを身にまとっていた。

「あれ、狐ちゃんも来ちゃったのね」

 サクミは言いつつ、腰を落として、刀を構えた。

 コクピットでの操縦者の動きが、そのまま慧煌兵の動きとなる仕組みのようだ。

 敵はすでに、目の前にいる。

「あぶないから、さがっていて」

 マコモに注意をうながして、刀を八双に構え、ふりおろす。

 一番先頭の肉食恐竜ロボット、ザンリュウの首すじに当たった刀は、金属と金属がこすれ合う嫌な音と、火花をまき散らしながら、ギリギリと敵の装甲を割っていく。

 ヴァイアンが刀を振り切ると、恐竜の首が切断され、赤黒い機体がたちまち黒い靄に変じて消滅していった。

「次っ!」

 サクミは右の恐竜ロボットに身体を向ける。

 彼女が土台いっぱいに動くせいで、狐はそれをよけると、台から落ちそうになる(じっさいは落ちないのだろうが)。

 マコモはもう、どこにいていいかわからず、思わずサクミの身体をかけのぼって、頭のうえにのっかった。

「わ、ちょっと、重いよ!」

 サクミの身体がかたむく。

 ヴァイアンもかたむく。

 それを隙とみた敵は、口を大きくひらいて、噛みつき攻撃をしかけてきた。

「こんなろめ!」

 サクミが振った右腕の、刀の柄頭が横顔に命中して敵がよろける。

 うしろから、もう一機の慧煌獣が襲いかかる。

 サクミはそれを予期していたように振り返り、振り返りつつ同時に剣をはらう。

 また、首が両断され、敵が消えていく。

 残った一機があきらかに尻ごみしている。

「もういいでしょうっ」

 サクミは、空を斬るように刀を振りおろして威嚇すると、恐竜はきびすをかえして、一目散に洞窟にむかって遁走していった。

「ふう」

 おおきな溜め息をつくサクミ。

「ふう、じゃない、追いかけなさい!」

 地上で戦いを観戦していたアスハの叱責が飛んだ。

 サクミは、肩をすぼめて、

「はあい」

 間のびした返事をして、追撃にはいった。

 そこへ、洞窟のある岡の上からだろう、黒い巨体が地響きとともに地上におりてきた。

 あわてて足をとめるヴァイアン。

 それは、こちらよりもひとまわり大きい、黒い鎧武者のような慧煌兵であったが、ヴァイアンが西洋的なのに対して、相手は和風で、全体的に直線的で角ばったデザインで、兜には日蝕を模した意匠の前立てをつけていた。その下のカラス天狗のような面頬めんぽおの隙間から、血ばしったような赤い眼がのぞいている。

「あれは、アイゼン!ナガトさんか!?」

「サクミ・サイゴウ、今日こそお前の命をもらうぞ」

 低い、大人の男の声が、黒い慧煌兵からとどろいた。その声には、憎悪を感じさせるものが含まれていて、どこか不快感をともなっていた。

「もう、いいかげんにしてください。私はあなたと戦いたくなんかないんです。私たちが戦う必然性なんて、どこにもないでしょう」

「お前にはなくとも、私にはある」

「そんなストーカー気質だと、女の子にもてませんよ」

「なんと!?私を愚弄するか、サクミ・サイゴウ」

「まったく、そんな陰湿な性格じゃ、せっかくの男前がだいなしなんだから!」

 とそこに、地上から会話に割って入る姫の声。

「こらっ、男前とか今はどうでもいいでしょうっ。さっさと、やっつけちゃいなさい!」

「もう、わかりましたよ、やればいいんでしょう、お姫さま!」

 投げやりに言い返すサクミに、

「な、なにその態度!覚えときなさいよ、サクミ!」

 すてゼリフのような言葉を残して、アスハがトーマの馬腹を蹴ってはなれていった。

「これで、最後ですからね、ナガトさん!」

「お前を打ち倒して最後にする、サクミ・サイゴウ」

「いつもいつも、フルネームで呼ぶの、やめてよね!」

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