プロローグ 二

「ほう、これか」

 野盗のかしらとおぼしき男が、感極まるといったふうに、刀をながめる。

「そう、それをそなたらが使いこなせるならば、まずは合格と言ったところ」

 女がふたたび腕を組む。

「あとは、の各地で騒擾を起こし、民を不安におとしいれてもらえばよい」

「ははは、こいつで好き勝手暴れまわればいい、ってこったろう」

「そう、そして、ことがうまく運んだ暁には、そなたらを、我が正規軍の一員として、取り立ててやろう」

「その言葉に偽りはねえだろうな」

「もちろん、よろしゅう頼むぞ」

「まかしとけって」

 言って頭は、いやらしく笑った。

 女も上品に、しかし高らかに笑う。

 そして、マコモの耳元でも――。

 アスハ姫が立ちあがり、高慢な笑い声をはなつ。

「何者だ!」

 頭が叫んでこちらをにらみ、続けてそこにいる全員がこちらに顔をむける。

「貴様らの悪だくみ、この耳でしっかと聞いたぞ」

 アスハはこれも高慢に言い放った。

 野盗たちが動揺するなかで、女だけが、余裕をみせた。

「これはこれは、アスハ姫様。おいたがすぎると、父王様に叱られますぞ」

 サクミが、アスハの袖をひっぱる。

「ちょっと、なにやってるんですか、姫様。ヒヨリちゃんの陽動を待つ計画でしょ」

「そのヒヨリがいつまでたっても動かないから、私のほうが陽動にまわったのよ。黙ってらっしゃい」

 アスハは、サクミの手を振りはらい、顔を女と野盗たちに向ける。

「そこの女。おぬし、おおよそぜん間者かんじゃ(スパイ)であろう。内訌を生じさせ、混乱に乗じて我が那国を攻めとる算段であろうが」

「それは面白いご卓見」

 言った女の笑みを浮かべた口が、異様に大きくゆがむ。まるで勝利を確信しているような笑みだった。

「おぬしら、さっそくその力を使う時がきたぞ。あの小娘をひっとらえよ。さすれば、その時点で正規兵としてやろう」

「わはは、合点だ!」

 三人の野盗が、一斉に刀を抜く。そして、叫ぶ。

「きやがれ、ザンリュウ!」

 空洞の中空に、三つの黒い光があらわれ、なかから、巨大な影が出現した。

 その影は、血のような赤い色をした、十二、三メートルほどの肉食恐竜の形状をしたロボット――、慧煌獣けいこうじゅうだった。

 眼窩の上が隆起し、凶悪な印象をあたえ、アロサウルスを想起させるデザインをしている。

 黒い光につつまれて野盗たち三人が、恐竜ロボットに搭乗する。

 直後、マコモたちのいた足場に向けて一体の恐竜が飛びかかってきた。その巨大な顎に噛みつかれ、たちまち足場が粉砕された。

「トーマ!」

 アスハが叫ぶと、二本のツノをもった白馬の慧煌獣が現れ、アスハはそれにまたがると地面に着地する。

 サクミとマコモを助けるでもなく……。

 ふたりは、そのまま落下し、地面に叩きつけられるかと思われた瞬間――。

 黄色い影が走った。

 気がつくと、マコモはサクミの腕にいだかれ、黄色い、人よりも大きな犬の慧煌獣の背に乗っていた。

 慧煌犬は落下の勢いを殺すように壁を数メートル駆け、アスハのそばに着地する。

 どこからともなく、袖がなく裾の短い赤い着物を着た、小柄な女の子が現れた。

「もう、なにやってるんですか、姫。私が攪乱してから出てくる約束でしょう?」

 逆手に持った小刀を片手に、姫様あいてにものおじせずに言う忍者らしき少女。

「あんたが、もたもたしてるから私が動いたのよ」

「まったく、勝手なんだから」

 小柄な忍者少女がぷいとふくれた。

「ヒヨリちゃん、助かったわ」

 サクミが慧煌犬をおりて言った。

「ライマルも、ありがとね」

 と犬の頭をなでる。

「あんたもなにやってるのよ」

 アスハの叱責がサクミに向かう。

「はやくヴァイアンを出しなさい」

「そ、そんなこと言ったって」とサクミはふくれっ面をして、「もう恐竜ロボでこのなかはいっぱいなのに、ヴァイアンを出したら私たち、潰れちゃいますよ」

 三匹の恐竜慧煌獣を見ると、身体を洞窟の壁面にこすりつけながら、こちらに身体をむけてくる。

 そして、ひとこえ叫び声を発すると地響きをあげて進撃してきた。

「わっ!?逃げろお!」

 言うがはやいかサクミが駆けだす。

「サクミちゃん、こっちよ」

 ライマルの背にまたがったヒヨリが、先導するのに、サクミは方向転換する。マコモも走る。ふたりをアスハの慧煌馬が追い越していく。

「もう、姫様ずるいんだから!」

 サクミは文句を言いつつ、走る。

 ヒヨリは、おそらく出口にむかう通路に駆けていった。

 サクミとマコモがそこに飛びこむと、恐竜たちは、一体でもぎりぎりいっぱいの通路を、壁を破壊するように追ってくる。

 サクミとマコモは、必死に走った。形相も必死だ。

 やがて、光がみえた。

 恐竜ロボの口先が、もう背中に届きそうなほどに迫ってきていた。

 ふたりは外界へ飛び出す。

 そこは、隠れるところがなにひとつない、草原だった。

 これでは、かっこうの的になるだけだ、とマコモは狼狽した。

 ヒヨリがライマルとともに、恐竜の前を駆け抜け、反転して、また駆け抜ける。攪乱してくれているのだった。

「サクミ、はやくヴァイアンを呼びなさい。ぼさっとしない、さっさとする!」

 アスハが声高に命令した。

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