一ノ二十 サクミとアスハ

「このこのこのぉ!」

 叫びながら、サクミはバクリュウの顔面にパンチの連打を食らわす。

 よろけるバクリュウ。

 ヴァイアンの脚が、すかさず敵の腹部にキックをいれる。

 空中に蹴り上げられた恐竜ロボットは、もんどりをうって地面に激突するかと思われたが、器用に空中で体勢を立てなおし、両足で着地した。

 バクリュウが吠える。

 直後、身体を横に回転させ、シッポでヴァイアンをなぎはらった。

 サクミは迫りくるシッポを、腹部でうまく受け止め、両腕でつかむと、そのままぐるりと身体をひねり、バクリュウを放りなげた。

 受け身もとらず、轟音とともに地面に激突する恐竜の機体からだ

「どうだ、まいったかっ!?」

 サクミはちょっと格好をつけて、構えのポーズをとってみた。


 アスハはその戦いぶりを、距離をとって観戦しつつ、

「なんだ、あの戦いかたは……」

 あきれて、溜め息まじりに言った。こめかみに青筋が立っていた。トーマの手綱をたたき、ヴァイアンに駆け寄って言う。

「サクミ・サイゴウ!」

 サクミは声のするほうへ、顔を向けた。その顔へ、

「あなた、なにやってるの、もっとまじめに戦いなさい!」アスハの叱責が飛ぶ。

「な、なに言ってるんですか、ちゃんとまじめにやってます!」

 ヴァイアンのスピーカーを使って、目上の人間あいてなのもかまわず、サクミは言い返す。戦場の空気がそうさせるのか、ヴァイアンの操縦席に搭乗したことによる高揚か、ともかく、サクミは完全にハイテンションモードに突入していた。

「どこがまじめよっ。そんな美しい機体にせっかく乗ってるんだから、美しく戦いなさいな!」

「そりゃあ、あなたは岡目八目で言いたいこと言えるでしょうけど、こっちは必死なんですから!」

「慧煌兵には、慧煌兵らしい戦いかたというものがあるでしょう、ちょっとは、足りない頭を使って考えたらどうなの!」

「だ、だれが、なにが足りないですって!?」

「あなたよ!あなたの、脳みそが足りないのよ!」

「な、この、性悪姫!」

「だれが、性悪ですって!?」

「あなたよ!あなたの、性格が最悪なのよ!」

「おのれ、サクミ・サイゴウ、言わせておけば、無礼きわまるその言動、ゆるさん!降りてこい!無礼打ちにしてくれる!」

「ああ、もう、うるさい!ちょっと黙っててくれませんか!」

「人が戦いかたを指南してやっているのに、うるさいとは、なんという言い草!」

「ああ、もうっ。ヴァイアン、スピーカーを切って!」

 …………。

 …………。

 …………。

「ふう、これで、いやらしいあげ足とりを聞かなくてすむわ」

 ほっと、安堵の表情を浮かべるサクミ。

「なんだと!?」

「ひっ?聞こえてたっ?」

「聞こえとるわっ!」

 ふたりの無益な言い争いの向こうで、ゆっくりと身体を起こすバクリュウ。

「ふざけるな、小娘っ!」

 恐竜の叫びにも似た野武士の大声は、その姿がみえなくても想像できるほど、怒りに満ちていた。

「刀よ!腰の刀は飾りじゃないのよ!刀を――、白月を使いなさい!」

 彼女の言うところの「戦いの指南」をしつつ、トーマの手綱をさばくと、アスハはその場からはなれていった。

「え、刀……?」

 思わず左の腰に手をあてる。

「そうだ、忘れてた」

 姫に叱責をされるのも当然なほど、やはり冷静さを失っていたようだ、とサクミはちょっと反省した。

 バクリュウが腰を落とし、次の攻撃のために全身に力を込めている。

 サクミは腰を落とし、ゆっくりと、白月を抜いた。

 ヴァイアンの腰からも、同じ形状の刀が抜き放たれる。

 周囲に、星が砕けたような、光の粒子が舞い散った。

 バクリュウが突進を開始した。

 大地を踏みならす轟音と、耳をつんざくような鳴き声が響く。

 サクミは、刀を肩の高さまで持ち上げると、踏みこみつつ振りおろした。

 だが、バクリュウの突進のほうがはやかった。

 恐竜の頭突きが腹部に入り、振りおろした刀は、柄頭を相手の首に打ちつけただけであった。

 そのまま、バクリュウはヴァイアンを押しつづける。

 サクミは踏ん張りつつ、柄頭で何度も敵の頭部を叩きつづけた。

 見ているアスハの顔が引きつった。

「刀の使い方もしらないの!?騎煌戦士が聞いてあきれるわ!」

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