一ノ十五 激闘

 ヒヨリとライマルの活躍は、目を見張るものがあった。

 しかしながら、彼女たちの戦闘力は凄まじいものがあったが、限定的だった。

 他の戦場では、百姓たちが完全に敗退していたし、ある程度戦況が終息した場所からは、ヒヨリたちにむけて、戦力が移動しはじめている。しかも、蜥蜴族はいつの間にかその数を増やしていた。いったいどこからあらわれたのか、すでに百人近くに膨張していた。

 じょじょに、ヒヨリたちは押されはじめた。

 ヒヨリが突入して二十分ほどもたつと、彼女と数人の百姓たちは、戦場のなかで完全に取り残されるようなってしまっていた。蜥蜴族に半円状に包囲された形であった。

 サクミは、退避してくる百姓たちの怪我の程度によって、重傷者はジョウンのいる場所へ、軽傷者は村の女房たちへとそれぞれ振り分けていった。

 作業の合間に、戦況を見守るが、しだいにヒヨリたちが押されているのがみてとれた。

 ――これは、まずい。

 サクミの背中に冷や汗が流れた時だった。

 まったくの視界のそとから、一条の流星のように、騎馬の集団が戦場へ突撃してきた。

 その先頭にいるのは、二本の角をもった白い慧煌獣。

 ――あれは、姫様?

 騎馬隊は、一直線に戦場を貫いていった。

 蜥蜴族たちは、馬の突進に跳ね飛ばされ、馬蹄にかけられ、東から西へとまっぷたつに分断されていった。

 八騎の騎馬武者たちは、蜥蜴族の群れを突き抜けると、速度をゆるめながらUターンする。

「突撃っ!」

 アスハの号令一下、馬速をあげ、ふたたび戦場へと突っ込んでいく。

「行けっ、突き進めっ!」

 叫びながら先頭のアスハが薙刀をふるい、続く四騎が槍でなぎ払っていく。後方の二騎は弓を速射して中、遠距離の敵を近づかせないようにしていたし、最後方の一騎は、なんと鉄砲を構え、敵を次々に撃ち抜いている。

 サクミは後に知ることになるが、この鉄砲は、日本の戦国時代に使われていた火縄銃とは違い、元込め式で、装弾数は一発ではあったものの薬莢式の弾丸をもちい、明治維新のころの銃と同程度の威力をもつものであった。これも、向こうの世界からもたらされたものであるらしい。こちらの工業力で再現可能な技術は、どんどん導入されているのである。

 完全に虚を突かれ、さらに立てなおす間もなく再突撃をされて、蜥蜴族たちは、動揺し、突き崩されていった。


 ――このまま、決着がついてくれたらいいのだけど。

 サクミは、怪我人の手当をしつつ、神に祈るような気持ちで戦況を見守っていた。その横では、

「ははは、お転婆姫さまのごさかんなことよ」

 戦場を観戦しながら、ジョウンが手を叩いて喜んでいる。

「おっしょさま、いってえよ、はやく手当してくれよ、死んじまうよ」

 門に寄りかかってすわっていた、けがを負った若い百姓が、痛みにたえかね文句をつけると、

「へっ、腕の骨が折れたくらいで、簡単に死ねるなら苦労はないわい」

 ジョウンは、百姓の折れた腕をぴしりと叩いた。


 騎馬隊が、ヒヨリ達と合流した。

「お前たち、ここはまかせろ。素人がいてもいくさの邪魔だ。いったんさがれっ」

 アスハが村人たちに権高に命令する。

 ヒヨリがむっとして言った。

「今さら御着陣とは、さすが姫様ほどのご身分ともなると、悠然としていらっしゃいますね」

「なんだと!?」

 ヒヨリはライマルとともにジャンプして、憤慨するアスハの直上を跳び越すと、そこにいた蜥蜴族を斬り伏せた。

「そこの忍、覚えておれ。戦闘が終わったら、私みずから手打ちにしてくれる」

 言いつつアスハは、ヒヨリを背後から襲おうとしていた蜥蜴族を斬り倒した。

「もうしわけありませんね。姫様ほどおつむの出来がよくありませんので、些細なことをいちいち覚えていないんですよ」

「ならば、私が覚えておこう。小憎たらしいその顔、しっかりと目に焼きつけておく」

 アスハは馬腹を蹴り、トーマを進ませる。

 騎馬隊は、そこを円形に囲んでいる蜥蜴族たちを、旋回するよう移動しながらなぎ倒していく。

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