一ノ九 真惺寺

 サクミは、ジョウンの寺に起居させてもらうことにした。

 城下から三里――というから十二キロメートルほど歩く。

 道々、ジョウンとさまざまな会話をしたが、その言動から、やはりこの僧侶は信用していい、という確信が生まれてきた。

 その寺に到着した。

 寺は小さな村の山裾にあり、外見は日本の町にある、よくみかける寺とさほどかわりはなく、質素な藁葺き門の扁額には、「真惺寺しんせいじ」と寺の名が記されていた。

 砂利の敷かれた境内、古びてはいるが手入れのいきとどいた本堂、鐘楼にある青銅の梵鐘。

 ここ数日、和風の屋敷で寝泊まりしていたが、微妙にサクミの知っている和風様式と違っていて、そのわずかな違いがどこか落ち着かない気持ちにさせていた。たとえるなら、外国映画に登場する、外国人がデザインした微妙な日本の建築や街並み、と言ったところだろう。

 だが、この寺は、まったくと言っていいほど、日本的であった。

 境内に立って景色をみていると、ここが異世界だということを忘れてしまうほどであった。それはやはり、ジョウンの祖父が日本からやってきたことに起因しているのだろう。

 ここまでついてきたヒヨリに、屋敷への報告と、お別れを告げると、その必要はない、と言う。

 言葉の意味を解しかねていると、ヒヨリは懐から、紡錘形の鉄の塊をとりだし手のひらのうえにのせる。ちょうどその手と同じくらいの大きさの塊にむかって彼女が、

「コチ」

 と声をかけると、なんと、塊がふるえだし、翼がはえ、脚が飛び出し、目がひらき、鳩のようなロボットに変形したのだった。

 サクミは、びっくりして言葉がでない。

「ほう、煌獣鳥こうじゅうちょうか」

 とジョウンが物珍しそうに言ったが、さほど驚いたようすはない。

 ヒヨリはその鳥になにかをささやいて、空に放った。

 放たれたロボット鳥は、上空を二、三度旋回すると、道をみつけたように迷いなく城下へとむかって飛びさっていった。

「こちらに来た時に、お姫様がロボットの馬に乗ってたけど、あれとかその鳥とか、いったいなんなの?」

 サクミは驚きをそのまま口にだすようにして聞いた。

「おおそうか」とジョウンが笑いながら答える。「そういえば、あちらの世界には煌獣はおらんのだったのう」

「こうじゅう?」

「はい」と今度はヒヨリが解説をしてくれる。「煌獣は、鉄でできた生き物で、ごくまれにしかみかけませんが、山にも川にも、どこにでもいますよ」

 ヒヨリのまったく自然な言い方に、サクミはあっけにとられる思いだった。

「野生の、ロボット……」

「煌獣をつかまえて飼いならして、今の鳥――コチのように連絡に使ったりします」

「農作業につかったり、姫様の馬のように、騎乗用にしたりもするな。性能は使い手の持っている魔導力の多寡によるがな」

 とジョウンが言い、

「おそらく姫様の馬は、慧煌獣けいこうじゅうでしょう」

 とヒヨリが言う。

「今は失われてしまった魔導術なのですが、太古の人は、煌獣をなんらかの宝具に封じ込める技術を持っていました。そういう煌獣は慧煌獣と呼ばれ、通常の煌獣よりも強力な能力をもっています」

「うむ、サクミが王の御前で抜くように命じられた刀にも、慧煌獣、それも驚異的な力をもった慧煌獣が封じられているのだろうよ」

 サクミは唖然としてふたりの解説を聞いていた。

 ファンタジーもたいがいにしてもらいたい。

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