最低で最高なバレンタイン

れん

第1話最低で最高なバレンタイン

小、中学時代にいじめられ、高校時代に片思いした相手が出会い系サイトで知り合ったオッサンとホテルに行ったという話を笑顔でされた。


もとより目つきが悪いメガネなうえに、コミュニケーション能力が壊滅的に低く、武道系の部活に所属していたことから女子から避けられ、廊下で怖いと叫ばれて走って逃げられたこともある。


文化祭でのフォークダンスでは俺の前だけ列が止まって飛ばされるとか……ああ、今思い出すだけでも気分が悪い。


そんな暗黒時代を過ごしたせいで、大学は知り合いが誰もいない、地元から飛行機で1時間以上かかる地方の大学を選んだ。


まぁ、それだけ遠くの場所じゃないと希望する学科がなかったというのもある。


そんな場所で、俺は再スタートをするんだと、苦手な女性にも話しかけるようにがんばった。


1年のうちに必修科目を履修し、高校時代と同じサークルに入った。


遊ぶ場所はなかったが、友人もできたが、恋人はできなかった。


欲しいという思いはあったが、同時に怖かった。


片思いの相手は俺の前でだけ笑ってて、俺とだけ話すような人だったから、恋を自覚したときに想いを伝えようと思ったのに、実際は……。


そんな俺に転機が訪れたのは学園祭。


高校時代とは違い、サークルで屋台を出した。

高校時代はクラスの出し物のみだったし、怖がられた俺は教室でマンガを読んで時間を潰すだけだった。


だから、初めての屋台。

なれない接客と調理で忙しくしているところに、一人の女性が客として現れた。


黒くて長い髪を一つ括りにした紺色のジーンズにセーターを身に付けた、大人しそうなメガネの子。


授業で見かける子で、向こうもこちらを知っているとあとで聞いた。


共通の友人としゃべっているところを見かけたことから、危険人物ではないという認識だったとか……友人、ありがとう。


そんな彼女の対応をして話し込んでいたら、先輩から「ナンパは外でやれ!」とサークルテントから追い出された……女子と初の学祭だよこれと舞い上がって、がんばって話題を広げて連絡先を交換した。


それから2ヶ月半。バレンタインの3日前。

俺と彼女の交流は続いていた。


暇さえあれば連絡をとり、見かければ声をかけ、一緒に勉強して飯を食って仲を深めていった。


友人からは「付き合ってるの?」と聞かれ続けた俺は、周囲がバレンタインで浮かれる中、どうしても気になることがあって彼女を呼び出した。


「あのさ、周りから俺たち付き合ってるって思われてるみたいなんだけど……どう思う? もし、嫌だったら、俺はこのまま消えるし、声もかけなくするけど……」


俺の問いに、彼女は俯きながら、


「えっと、その……本当は、バレンタインに言おうと思ってたんだけど……その、嫌じゃ、ない……です」


「なら、付き合って、くれる?」

「は、ひ……」


俺との関係を肯定してくれ、俺に初めて彼女ができた。


事件が起きたのはその3日後。

バレンタイン当日。

彼女が大泣きしながら俺の部屋にきた。


宥めながら話を聞くと、知り合いが彼女の連絡先を出会い系で知り合った男に流したと。

年上の遊び人で「学生に貢ぐくらいの稼ぎはあるよ」とか、気持ち悪い文言を送りまくってきたとか。


実際に文面をみたが……まぁ、吐き気がするほど気持ち悪く、金をちらつかせれば性交できると考えているような頭の軽さがにじみ出た文章。


それをみた俺は頭に血が昇り、個人情報を流したそいつのもとへ殴り込みに行こうとし、彼女に止められた。


大事にしたくないと言われ、ぐっと堪えたのだが……腹の虫が治まらない……が、何度も謝る彼女を見たら、熱が冷めた。


「ごめん、なさい……バタバタ、してたら……チョコ、用意できなかった……」

「いや、それは……気にはなるけど……」


「初めての、バレンタイン……ちゃんとチョコ、渡したかったのに……好きって、ちゃんと……ごめん、ね」

「え、えっと……だったらさ、キス……してみたい」

「う、うん……初めてだから、緊張する」

「俺も」


彼女と正座で向かい合って、お互いにメガネを外して、目を閉じて、唇を重ねた。


「へへ、しちゃった、ね」


初キスの味は、緊張でわからなかった。

これが俺と彼女の初めてのバレンタイン。


それから何度もキスをして、遅くなったチョコをもらって、お互いの初めてをいっぱい捧げあって……喧嘩して、仲直りして、お互いの地元に帰って、遠距離になって……仕事ですれ違いながらも彼女のもとに通って、今。


彼女は俺と同じ名字を名乗って、今も傍にいます。

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