エンディング
時は新世紀。
世は大異世界転生者時代を迎えていた――。
ブラック企業に勤めていたモモコも異世界へ転生していたのだが、そのチートとも言えるスキルはしかし、実用性のない趣味のためのスキルでしかなく。
モモコはそれを前世でのように心のよりどころにすることもなく、ほとんど利用することもなく、それでも平凡ながら充実した毎日を送っていた。
――というわけで。
最後にみなさんに、お話ししたいことがあります。
私のスキルについてです。
みなさんは私のスキルに気づいたでしょうか?
……って、気づくわけないよね。ごめんなさい。
でも、ちょっと言ってみたかったんです。
「転生者のスキルはその人の趣味嗜好に関連があることが多いみたい」って言ったのは、覚えているでしょうか?
「私のスキルもそうだ。だから、私のスキルは実用性皆無に等しいスキルなんだけど、なんだかんだ私は気に入ってたりもする」って、みなさんにお話させて貰ったのを、覚えているでしょうか?
あれはたしか、「#2 不器用な私がベリーソース作りに挑戦してみたら驚きの反応が!?」の回だったと思います。
あの回は忙しかった時の回で、「あまりみんなにこの世界の解説をしてる暇もないのだ」なんて言ってたっけなぁ……。
前世での私の趣味は。ブラック企業で性格の悪い上司たちと朝から晩まで働いていた私の、唯一の心の支えだったのは、ネット配信でした。
なんてことをお話したのは、最初の最初だったから、みなさん覚えてないかもしれないけど……。
毎日毎日サービス残業させられて、疲れて帰って来て、もうすぐにでも寝ちゃいたかったけど。メイクも落とさず寝ちゃった日もたくさんあったけど。体の疲れは、それで少しは取れても、心の疲れはとれなかった。
だから私は、きっとつらい毎日の中で、誰かと繋がりたかったんだと思う。近すぎず、遠すぎない、丁度いい距離の誰かと……。
前世からほとんど変わっていない、唯一あの頃から褒めて貰えていたこの声では、残念ながらみなさんにはお届けできていないんじゃないかなと思うんだけど……。
そうです。
もう、わかりましたか?
――“|the LINK transcend spacetime《いせかいはいしん》”。
それが私のスキルです。
そう。みなさんが今見てくれてるこれは、私の配信です。
いや、配信そのものじゃないのか。声って形では、届いてないと思うから。
ちょっと気づいて貰えないかなぁと思って、各回のタイトルをYouTuberっぽくしてみたりしたんだけど……。伝わったかなぁ?
私が前世でやってたのはYoutubeじゃないし、完全に偏見なんだけど……。
私がしてたのは、もっとなんか、素人がゆるーく雑談してるようなアプリでの配信で。全然注目とかされてなかったし、面白い話とかもできてなくて。ただちょっとお話させて貰って、コメントとかいただいたりして、優しいみんなにつきあっていただけてただけなんですけどね……。
それで、異世界に転生して、このスキルを授かって。
世界を越えた配信って想像できなかったし、今は毎日も充実してるから、ほとんどこのスキルを使うことはなかったんです。
でも、今回のバレンタインデーのことがあって。
久しぶりに、配信したくなったんです。単純にまた心がつらくなったから、ってのもあると思うけど。前世のことを、ちょうど配信してた時期のことをたくさん思い出したから、ってのもあるんだと思います。
もちろん、私の見聞きしていない部分は私にもわからないので、スキルの自動編集機能にまかせてあるから、ちょっとどうなってるかわからないし……。
私がやってたのはとりとめもない雑談配信だったから、こういう録り溜めたものをちょっと編集して上げるっていうのは初めてで、すっごく不安なんだけど……。
しかも、不慣れなスキルを使った配信だし、たぶんちゃんとした配信っていう形でみなさんまで届けることは出来ていないのかなって気もするし……。
スキルを使い慣れてなくて……、ごめんなさい。
でも、今回のことがあって、久しぶりに配信したいなぁって思ったんです。
録り始めたのは前世の時と同じで、つらかったからっていうのが大きかったんだと思います。本当に配信してなくても、そういうつもりで心の声を録ってるだけで、少し楽にもなってました。
でも。でも、今は違います。テオの言葉を聞いて、今回の事件があって、思ったんです。
見たこともない誰かを思って、見えない顔を思い浮かべて、あれこれ想像しながら配信をおくってみたいなぁって。
そういう部分もきっと、あの頃にだってゼロじゃなかったと思うし……。
だから、また配信したいなって思ったんです。録り溜めてたものを使って、スキルの色んな機能も使って、配信、って言えるのかな? をしてみました。
どうだったでしょうか?
何か少しでも楽しんで貰えていたらよかったです。
私が今回の一件で、ちょっと前向きになれたその幸せを、みなさんにおすそ分け出来ていたら嬉しいです。
ちょっと不安だけど。大丈夫かなぁ……。
コメントとかブックマーク? とかいただけるとうれしいです。なんて、配信っぽいこと言ってみたりして……。
ああ、でもどうだろう。私が別に活躍したわけじゃないし、むしろ勝手に攫われて助けて貰っただけの嫌な女みたいな感じになってないかな?
なのにいい感じに締めくくろうとして……。
大丈夫かな? ちょっと不安だけど。
まあ、それはそれでいっか……。
大切なみんなを紹介できたと思うし。みなさんに、少しでも何か楽しんで貰えていたならよかったんですが……。
――みなさんは。
みなさんは、どんなバレンタインデーを過ごしているんでしょう?
みなさんの顔は見えないけれど。知らないけれど。みなさんのことを思い浮かべて、義理チョコ代わりにこの配信をおくります。
みなさんが今、笑顔だといいな……。
それじゃあ、あんまり無駄なこと長々と喋ってしまってもあれなので。
このへんで。
聞いてくださった、じゃなくて読んでくださった? みなさん。
おつきあいいただき、ありがとうございました。
また機会があったら、よろしくお願いしますね。なんて。
じゃあ、さようなら。
お元気で――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます