第194話 新しい世界


〜〜僧侶リリー視点〜〜


タケルさん達が空天秤を消滅させて数ヶ月が経ちました。

みんなはそれぞれ別れて自分の生活へと戻ります。


私達の生活はガラリと変わっててんやわんや。



「えいッ!!」



賢者シシルルアさんは擦り傷を治そうと、いつもの癖で回復魔法をかけようとしています。



「あのう……。もう使えませんよ」


「あ! あはは……。そうだったわね。いつもの癖でやっちゃうわ」



シシルルアさんだけじゃない。国中、いたるところでこの仕草が見受けられた。

みんな、体に染み付いた魔法のある生活から完全には抜け出せないでいたのだ。

代わりに薬草の需要が上がっている。これからは薬草の技術が発展するのだろう。





ーータケル邸ーー



今日はみんなを誘ってお茶会です。

アスラさんも賢者ヤンディさんと一緒に来ています。



「ヤンディが行きたいと言うからな。仕方なしに来てやった」



アスラさんは相変わらず素直じゃありません。

それでもタケルさんは嬉しそう。いつも通り、冷静で物静かだけれど、眉の上がり方がね、微妙に高いんです。

アスラさんはタケルさんをチラリと見るとそれ以上目を合わそうとしません。

ぱっと見は仲が悪そうに見える2人なのですが、妻の私達でさえ入れない厚い信頼が築かれているようです。


ヤンディさんは顔を赤らめてモジモジした。



「あ、あのね。みんなに報告があるんだ……」



みんなは注目する。



「あ、あの……できちゃったの……。赤ちゃん」



驚愕の事実。

詳細を聞こう。



「そ、それって……。ア、アスラさんの?」



ヤンディさんはコクリと無言で頷く。その顔は益々赤い。

その横でアスラさんは無愛想にミルフィーユをガツガツと食べていた。

しかし、そんなことは構わない。これはめでたいことなのです。



「おめでとうございますヤンディさん!!」



私の言葉と同時に、みんなから祝福の言葉が飛び交う。

タケルさんは自分のことのように喜んだ。



「お前達、籍は入れたのか?」



ヤンディさんは少し困った感じ。



「そ、そういうのはアスラ様が嫌がるかと思って……」



確かに。アスラさんが率先して籍を入れるなんて考えられないです。


タケルさんは難色を示す。



「アスラ。俺が立ち合い人になるから籍を入れろ」


「チッ! 面倒くせぇ」


「男の為じゃない。相手の為だ」


「なんだそりゃ? 理屈がわからんぞ」


「いいからやれ。結婚式は俺達で用意するから」


「け、結婚式だと!? んなもんなんで俺がやらねばならんのだ!!」


「だから男の為じゃない」


「ヤンディの為なのか? おいヤンディ! お前は結婚式したいのか?」


「え……。わ、私は……。その……。アスラ様の言うとおりにしたいです」


「ほら見ろ! ヤンディもこう言ってるぞ。結婚式なんか面倒だからやらん」



うわぁ、これはヤンディさん可哀想だ。

好きな人の前でウエディングドレスを着るのは女の幸せなんだから。


でも、そこは流石のタケルさん。

しっかりとフォローが入りました。



「結婚式はやるからな。全部用意するから、アスラは参加だけしろ」


「は!? 俺の意見は無視かよ!!」


「無視だ」


「てめぇ何様だ!?」


「俺は俺だ。お前の意見より、みんなでお前達の結婚を祝う方が大切だ」


「くっ!! し、親切の押し売りだ!!」


「それで結構。とにかくやるからな」


「っんぐ!! か、勝手にしろ!!」



ははは。アスラさん、タケルさんにかかったら形無しだ。


ヤンディさんはタケルさんに頭を下げる。



「タケル……。ありがとう」



一時は殺意まで抱いていた関係だったけど、もう結婚式を祝う仲にまでなっちゃった。

タケルさんの優しさが、アスラさんとヤンディさんを変えたんだ。

本当にタケルさんは凄いなぁ。妻として惚れなおしてしまいます。


カランカランと玄関のベルが鳴る。


お客さんかな?


タケルさんは知っていたようで、自ら迎えに行く。

暫くすると、その客人と一緒に私達の元へと来た。



「今日はな。アスラだけじゃないんだ」



タケルさんの後ろには虎逢真さんが立つ。


「みんな元気にしっとったかいのぉ!!」


わぁ、久しぶり!!

彼と会うのは空天秤を消滅させた日以来です。

その横には綺麗な女性が立つ。あれれ、どこかで見覚えが……??


「みなさん、お久しぶりでありんす」


アスラさんは眉を上げる。


「よぉ、ビビージョ。久しぶりだな」


「これはアスラ様。お久しぶりでありんす」


そうだ。この人はアスラ軍のくノ一、ビビージョだ。

でも、なんで虎逢真さんと一緒にいるんだろう?


「グウネルの手伝いはしなかったのか?」


「もう国造りは辞めたでありんす。これからは女として生きてみようと思ったでありんすよ」


彼女は虎逢真さんを見つめた。その頬は赤い。

虎逢真さんはその視線に答えるように彼女の肩を抱き寄せた。



「おいは、ビビージョと結婚することに決めたぜよ」



うわ、びっくり!!

ここにも新婚さんが!!


またも、祝福の言葉が飛び交う。


今日のお茶は幸せ一杯です。



「ヤンディはんはアスラ様と結婚するんでありんすか!! 驚きでありんすね!!」


「ふふふ。恋の戦いに勝ったのは私だったようね!」


「いいんどす。あちきは素敵な旦那様を見つけたでありんすから」


「まぁ羨ましい。でも、私の旦那様の方が素敵かもね」


「そんなことありまへん。あちきの旦那様の方が素敵どすえ」


「なんだと!? 私の旦那様の方が素敵だ!!」


「あちきの旦那様どすえ!」


「「 ぐぬぬぬぬぅうう…… 」」



ははは……。女の醜い争いですね。

見なかったことにしよう。


タケルさんはパンと手を叩いた。



「そうだ。結婚式をまとめてやってしまってはどうだろうか?」



おお、ダブル結婚式!!

近年稀に見る珍しい結婚式ですね。



「俺も結婚するから、みんなで結婚式をしよう」



サラリと言ったこの言葉にアスラさんと虎逢真さんは目を見張る。



「タケル。お前は結婚してるじゃないのか?」


「また妻が増えるんかや? 相手は誰っちゃね??」



まぁ、驚くのも無理はない。

私達はもう知っていることだ。


私の隣りに座る、転移魔法使いの女の子。

オレンジジュースを飲むのをやめて、顔を真っ赤に染めていた。



「良かったねユユちゃん。結婚式してくれるんだって」


「う、うん……。でもいいのかな。私の結婚式なんて……」


「8人の妻の中に加わると言っても、結婚は結婚だからね。形だけの籍入れなんて、タケルさんはしないよ」


「うう……。わ、私、嬉しい……。嬉しいよぉおお! リリーィイイイ!!」


ユユちゃんは涙を流した。

私はその背中をさする。


「うんうん。妻達全員でお祝いするからね。きっと素敵なウエディング姿になるよ。楽しみだね」


「うう……リリー〜〜」


妻になるのがユユちゃんと聞いて、虎逢真さんが腰を抜かしたのは言うまでもありません。


結局トリプル結婚式になっちゃった。

毎回凄いことをするのがタケルさんなのです。

さぁ、忙しくなるぞぉ。


お茶会が終わって、みんなと別れると、早速、結婚式の打ち合わせが始まります。

タケルさんは、一番計算が得意な私に相談してきました。

式の日までは、タケルさんと2人きりで色んな話ができそう。ふふふ、計算が得意で良かった。役得役得。



「まずは日取りと、誰を呼ぶかだな」


「そうですね。ユユちゃんと虎逢真さんは巨獣ハンターギルドに所属してましたから──」


「……うん? なにか妙だな」


「どうかしたんですか?」


タケルさんは私を片手で抱っこすると空を飛んで外に出た。



「アスラの跡を誰かが付けている」


「え? なんでそんなことがわかるんです?? 打ち合わせの最中に闘神化アレスマキナ 神聴力を働かしていたんですか?」


「右腕がな……。感じるんだ」



破壊神シバからもらった右腕。普段は普通の腕だけど……その能力は未知数だ。

稲妻のタトゥーが一つだけ輝いて見える。

感知能力でもあるのかな? 


タケルさんは眉を寄せた。



「右腕が邪悪な気を感じとった。これは……殺意だ」



私達はアスラさんの元へと急いだ。

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