第193話 破壊神シバ

〜〜タケル視点〜〜



アスラはテラスネークの 超分裂スーパーディビジョンで無数に増えた。

その数は億を超える。

一国の兵士団すら凌駕する、空前絶後のアスラ達。

そんなアスラが一斉に神の創時器デュオフーバで黒い雲を吸い出したのだ。



拡大を続けていた暗黒の雲は次第に消滅。

大陸に日が射した。


「アスラ、やったな! 破滅の雨を消滅させたぞ!!」


その時、一斉に辺りは闇に包まれる。



なっ!? どうして!?

破滅の力は全て消滅したはず!?





「神の子らよ。どういうつもりだ?」




それは低い声だった。

腹の底にズシンと何かがのしかかるような重低音。


アスラは冷や汗を垂らす。



「デ……デカイ!! は、破壊神シバだ!!」



顔だけで50メートル以上はある。




「どうして我の力を消滅させたのだ?」




そんなのは単純だ。



「人類を破滅させるなんて許せないからだ」


「城兵よ。そんなことはお前が決めることではない。世界は我が作っているのだぞ」



アスラは不敵に笑う。


「へん! お前は壊し屋だろうが!!」


「掃除人よ。よく聞け。創造と破壊は表裏一体。生まれたものは壊れるものなのだ」


「ふん! だったら貴様を壊してやろうか?」


「……おろかな」


シバの力は未知数だ。

戦いを挑むなんて無謀すぎる。


「ブラフーマ様は俺達に希望をくれた。人が死ななくてもいい世界にしたいんだ」


「城兵よ。それは聞けぬ願いだ」


アスラは神の創時器デュオフーバを構えた。



「タケル! こんな奴ぶっ殺そうぜ!! 俺達は 規格外発火現象オーバーヒートだ! 負ける気がしない!!」



いや……。そんなことはできない。この方は神なんだ。人智を超えた最高神。

交渉でなんとか説得するんだ!



「人間が助かる方法はないのか?」



俺の問いかけを他所に、アスラは神樹箒ゴッドブルームを出していた。




「タケル! こんな奴は人間の敵だ!! ぶっ殺しちまえばいいんだよ!!」



「ま、待てアスラ!! ダメだそんなことをしては!!」 



「もう遅い!! 喰らえ! 地獄送迎斬!!」




無数のアスラが放つ斬撃。大空を稲光が覆う。

しかし、シバは人差し指を軽く動かすだけだった。




バチィイイイイイン!!




たったそれだけで斬撃は消滅。まるで蚊でも落とすように。

……いや、違う。跳ね返しているのか!



「アスラ危ない!! 神腕!!」



咄嗟にガネンジャ様よりもらい受けた右腕でガード。

神腕の力は数十倍にアップしているがあっけなく大破。



グワシャッ!!



「うぐッ!!」


「タケル!!」


「大丈夫だ! やられたのは右腕だけ」


「くっ……くそ!! 俺の地獄送迎斬が、あっけなく返された!」


闘神化アレスマキナの反転に似た技だ。

相手の技をそのまま返す。俺の場合。相手の力が大きすぎるとできないがな。



「城兵よ。これが人間なのだ」



どういう意味だ?


「強くなれば神を殺そうとする。さっきの掃除人のように、邪魔な存在を消そうとするのだ」


いや、しかしそれは……。


「待ってくれ。人間は神を敬うものだ。あんたが俺達を滅ぼそうとさえしなければ、攻撃なんてしない」


「城兵よ。小さな考えは捨てよ。創造と破壊は表裏一体なのだ。お前達の世界が存在するのは、以前の人間を消滅させたからなのだぞ」


なるほど……。そんな考え方があるのか……。

もしも、以前の世界が存続していれば俺達は存在していない。


シバは右手に無数の球体を浮かび上がらせた。

それは無数の空天秤だった。


あ、あんなにも空天秤を大量に!?

一個を作ってそれを写し鏡のように増やす。

あれはテラスネークの技だ。

そうか……。 真実の答えリアルアンサーはシバから譲り受けた神の武器。

そんなシバが 真実の答えリアルアンサーを使えない訳がない。



「今すぐにでも、この世界を滅亡させてやろう」



テラスネークは項垂れた。



「終わったわね……」



いや……。まだだ。

まだ諦めない!




「破壊神 シバ!! 交渉させてくれ!!」




シバは首を傾げた。



「交渉? 人間が神と交渉するだと?」


「そうだ。俺達にチャンスをくれ」


「ほう……。返答しだいでは命はないぞ?」


シバの言葉は本当だろう。

一本の指を動かすだけで、俺の命など消滅するのだ。


だが、臆することはない。

俺には信念があるのだ。






「神と人間が共存する世界を創る!」






シバは黙った。

人間の提案に面食らったのかもしれない。

やがて、ニンマリと笑う。




「城兵よ。面白いことを言うな。その方法はなんだ?」




俺はその方法をシバに話した。

シバでさえ、その内容に目を見張る。

アスラもテラスネークもただ驚く。

しかし、この方法しか、俺達が助かる道はない。



「城兵よ。本当にそんなことができるのか?」


「やるしかないさ。あんたが認めてくれるならな」


「ふ……面白い。やってみるがいい」


俺はアスラとテラスネークに頼んだ。



「3人の力を合わせよう」



俺の 規格外発火現象オーバーヒートを2人に移す。

テラスネークは 規格外発火現象オーバーヒート 真実の答えリアルアンサーを発動。

アスラの数を限界まで増やした。


無数のアスラは地上に向けて神の創時器デュオフーバの穂先を向けた。



「タケル。本当にいいんだな? とんでもない世界になってしまうぞ?」


「ああ。それしか道はない。思い切りやってくれ」


「わかったよ、やってやる! 人間の魔力を吸い尽くしてやるよ!! 神の創時器デュオフーバ 究極吸アルティメット サック!!」






ドギュゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウン!!






凄まじい吸引の風が巻き起こる。


これしかない……。この方法しか……。

俺が出した答えは、人間の魔力をゼロにすること。






「全人類を弱体化させて、魔法を使えない世界にする!!」





大陸中から魔力の渦が巻き上がる。

海は荒れ、大地は揺れた。

魔力を持った者達は、その力が天空に向かって消えていくことに驚いた。


当然、地上にいる俺の妻達も例外ではない。

賢者シシルルア、僧侶リリーはもちろんのこと。

魔力を根源とする魔拳士アンロンでさえ、その力を奪われた。



「ま、魔力が抜けていくある!! ど、どうなってるね!? 雲の上では何が起こってるあるか!? し、師匠ぉおおおおおお!!」



すまない、みんな。この方法しか道はないんだ。

人間を弱体化すれば神を攻撃する意思は生まれない。



「城兵よ。こんなことは問題の先送りにすぎんぞ。人間は進化してまた魔力を得るだろう」



「……そうかもな。しかし、魔法の技術が発展するには数千年かかるんだ。それまでに打開策をみつけるさ」



「打開策だと?」



「神も人間も、全ての者が平和に暮らせる世界にする」



シバは笑った。




「フ…………。お前……。たしか、闘神アーレスディウスの子だったな。名をなんという?」



「タケル・ゼウサード」



「タケル。お前は神の子として生まれ、人間を超越した力を持っていた。人間を殺し、空天秤を浮かし続けて、自由に生きれたはずだ。なのに命をかけてまで、この世界を護ろうとする。なぜだ?」



どうしてだろう?

考えたことなんてなかったな。

気がつけば体が勝手に動いていた。




「そうだな…………。きっと、この世界が好きだからだ」




シバは眉を上げた。

そんな理由なのか? と拍子抜けした表情である。


俺はアスラとテラスネークに目をやった。



「俺はお茶が好きなんだ。だからさ。人間と蛇と一緒に飲むんだよ」


「人間と大蛇が茶を飲むのか? 100億年の歴史を見ても、そんなことは見たことも聞いたこともないぞ」


「あなたもどうです? 破壊神シバ」


「我を茶に誘うのか?」


「神と人間と大蛇でお茶をするんです。……きっと凄く楽しい」


「ハ……ハハハ!! 我は破壊神だぞ。人間の……いわば敵だ!! そんな存在を茶に誘うだと!?」


「人間からは俺が護りますよ」



その言葉にシバの笑いは止まった。



「……どういう意味だ?」


「人間に神を攻撃なんかさせない。神は俺が護る」


「な、何を言っているんだ? お前が護るのは人間だろう?」


「この世界は俺の城みたいなもんです。城兵の俺は、みんなを護るのが仕事なんです。人間も大蛇も……神も。みんなを護る」


シバは絶句した。そして、大声で笑う。





「ハッハッハッハッ!! タケル・ゼウサード!! 最高だ!! お前は最高の人間だ!!」





皮肉なのだろうか?



「俺は本気ですよ?」



「ハッハッハッハッハッ!! わかっておる! お前の気持ちに嘘はない。だから笑っておるのだよ」



シバの姿は薄らと消え始めた。



「タケル・ゼウサード。お前がいつの日か、我を茶に誘ってくれるのを楽しみにして待っていよう」


「ええ。必ず誘います」


「ふふふ……。気分がいい。こんな気持ちは何億年振りよ。よし、少しサービスしてやろう」


半身がズシリと重くなる。


なんだ!?


俺の右腕は生身のまま再生していた。



「鉄の腕じゃない!?」



等価交換の腕は再生できないはず!?




「これは一体!?」




破壊神シバの姿は消えていた。

重低音の笑い声だけが響く。



「ハハハ! タケル・ゼウサード!! また会おう!!」



右腕は今までと変わらない感覚だった。

見ると、あちこちに稲妻のタトゥーが入っている。



「シバの腕か……」



湧き上がる凄まじいパワー。

どうやらとんでもない腕になってしまったようだな。


アスラの究極吸アルティメット サックは、吸引を終えた。



新しい世界の始まりである。

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