第180話 等価交換

アスラの遺体は綺麗に回復されて傷は無かった。

だが、その意識が戻ることはない。


こいつは大勢の人を殺した、どうしようもない奴だ。

でも……。俺と同じ神の子でもある。人外の力を身につけた唯一の存在。

限界突破の俺に蹴られて、喜べるのはこいつくらいだろう。


「アスラの墓を作ってやろうか」


賢者ヤンディはコクンと無言で頷いた。

テラスネークはつまらなさそうにアスラを一瞥した。




「私の進退が気になるわね。どこかに監禁されるのかしら?」




確かに……。彼女は裏切り者だ。また、いつ俺たちを騙すかわからない。


僧侶リリーは難しい顔をする。その目にはうっすらと涙が浮かぶ。



「私は監禁すべきだと思います!! テラスネークは私達を騙しました!! な、仲間だと信じていたのに……」


「あはは! 蛇が人間の仲間になるだって? ふざけるんじゃないよ!! 蛇達は忌み嫌われ、食料にされているんだからね!! そこにいる美食ギルドのグウネルに聞いてみるがいいさ!! そいつは蛇の養殖場を作っているんだぞ!! そんな存在とどうやって理解し合えるのさ!!」



なるほど……。蛇の立場とは、中々理解し難いが、彼女からすれば蛇の境遇を変えることは、俺が人間を守ろうとしていたことと同じなのか。

なら──。





「テラスネーク。お前の国を作ってやろう」





蛇は面を食らったように目を丸くした。



「……ふは! 何を急に言い出すかと思ったら世迷言を……。お前がその野望を打ち砕いたんじゃないか!」


「お前の立場は人間の俺には理解し辛い。多少のすれ違いはあるさ」


「た、多少だと!? 貴様は人間を護るのだろう? 私とお前は敵同士じゃないか!!」


俺は笑った。








「今、少しだけ理解が深まったよ」








テラスネークは目を逸らした。なんだか少し顔を赤らめているようにも見える。

傷口が痛むのかもしれないな。



「ふ、ふざけるんじゃないよ! たかだか20年しか生きていない坊やの癖に!!」



テラスネークは1000年生きているんだったな。

確かに彼女にすれば俺は子供だ。しかしな。



「今の話に年齢は関係ないだろう?」



彼女は更に顔を赤らめた。



「か、揶揄うなって言いたいのよ!! 私とお前は敵同士だ!! 私の国なんか作れっこないわ!!」


「そうでもないさ」


「な、何を根拠に!?」



俺は少しだけ眉を上げた。



「俺がいるだろ?」


「お、お、お前がいて、なんになるのさ!?」


「国作りには城兵が必要じゃないか」


「どう言う意味よ?」



俺はテラスネークを真剣な眼差しで見つめた。信じて欲しいと願いを込めて。











「俺がお前の城兵になってやる」











蛇は目を見開いた。

直ぐには声が出ない。


「…………お、お前が私の…………城兵に?」


「そうだ。なってやる。お前の国造りに協力する」


「で、でも……。私の希望の国は、キングガーマを養殖して人間を餌にするのだぞ」


「いや、流石にそんな養殖場は認められないがな」


「なら、イケてる雄蛇が一杯いる城は作れるか?」


「ああ、それならなんとかな。作ってやるよ」


「じゃあじゃあ、蛇の逆ハーレムにしてくれる? 毎日イケてる雄蛇が踊ってて、私の周りを囲んでくれるのよ!!」


やれやれ。そんな夢があったのか。



「できる範囲で協力する」



テラスネークは理想の国を想像してほくそ笑んだ。



「イケ蛇が毎日……グフ……グフフフフ……」



ふふ……。なんだか普通の女に思えてきた。

こいつはこんな奴だったんだな。



テラスネークはアスラを見つめて呟いた。





「………………生き返る方法。無くはない」




俺は大きな声で聞き返した。




「なんだと!? アスラが生き返る方法があるのか!?」




テラスネークは空を見つめ目を細める。




「聖剣クサナギがあればな」




その武器は維持神ブラフーマ様が俺に授けようとしてくれた武器だ。

確か、その能力はどんなものでも斬り裂ける力。



「蘇生能力があるのか?」



蛇は更に目を細めた。



「そんな都合の良い能力はこの世にない」


「ならどうやって?」


「等価交換だ」



等価交換とは、同じ価値のある物を互いに交換するということだ。

つまり──。



「アスラと俺の命を交換するのか?」


「いや、正確には違う。聖剣クサナギで斬った物の存在価値が、アスラの命と同等なら、それを代償に命を復活させることができる。聖剣クサナギ第二の能力さ」



ブラフーマ様が言わなかった能力か。それだけ危険ということだろう。

命と同等の存在を等価交換。やれやれ、簡単なことではないな。

しかしな、やらない手はないんだ。




「アスラの命が助かるなら、聖剣クサナギを手に入れよう!」



蛇は鼻で笑う。



「ふ……。そう言うと思った。しかしな。入手方法はブラフーマから授かるしかないんだ」



うーーむ。俺はブラフーマ様から、クサナギの代わりに心の城ハートキャッスルを貰ってしまったからな。

ない物ねだりをしても仕方ないが、もう一度会ってお願いするしか方法はないな。

貰えなくてもいいんだ。一度だけ貸してくれたらいい。

さて、そうなってくるとブラフーマ様に会う方法だぞ。


俺は管理人ゼノに会う為、神速を使ってアリアーグへと向かった。

しかし、あの地下へと続く扉は固く閉ざされており開くことはなかった。


やれやれ、神の武器は3つ授かってしまったからな。

もう儀式は終わったからあの部屋には入れないのか。


俺は再びテラスネークの元へと戻った。



「どうやったら会えるだろうか?」


「そうね……。あと100年経てば、あの地下へも入れるでしょう。そうしたら管理人ゼノに会えるわね。それから試練を熟して、ブラフーマに会うことができる」



流石に100年は待てない。アスラを生き返す前に俺の命が尽きてしまう。



俺が考え込んでいると、転移魔法使いのユユが大きな法衣をバタつかせた。




「ねぇねぇタケルーー。ブラフーマ様ってどこにいると思う?」



考えたこともないな。


「そうだな。やはり、俺達とは次元の違う世界かな」


「つまり、亜空間? 心の城ハートキャッスルを収納している空間にさぁ〜〜。ブラフーマ様いるかなぁ〜〜?」


なるほど、その発想はなかった!


心の城ハートキャッスルを収納している亜空間がどんな場所なのかよくわからないが、何かを探すきっかけにはなるかもしれん」


俺はユユの頭を撫でた。


「えへへ……。もっと撫でてタケルゥウ」


よし、みんなを心の城ハートキャッスルに収納して亜空間に入り、ブラフー様を見つけよう。

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