第179話 究極の必殺技

上空には無数の何かが浮かんでいた。

その数は1万以上。

テラスネーク達は空を見上げる。


「な、なんだあれは?」


賢者シシルルアが目を凝らした。



「鳥……? 風船……?」



僧侶リリーは大きな声を張り上げた。



「城です!! あれ全部タケルさんの心の城ハートキャッスル!! 小さな城が空中に浮かんでいるんです!!」



そう、それは全長5メートルくらいの城。そんな城を1万以上作って上空に浮かべた。





「テラスネークよ。俺の城は特殊な物体でな。神眼の視覚を共有できるんだ。だから、上空から貴様達の動きを全て把握できる──」




蛇は汗を飛散させた。




「──貴様の数が例え5000でも、それ以上であっても……。どこかの草陰や岩山の隙間に隠れようとしても、全て把握できる。今一番離れているのは3人。スタット王国に向かっているな」



テラスネークは信じられない光景にただつぶやく。




「そんな……」




俺は目を細めた。



「仲間を騙し、傷つけた。貴様の罪は重い」


「そんなことができるのか…………」


「貴様がしたことを悔い改めろ」


俺が振りかざした手を下ろそうとした時、テラスネークは汗を悲惨させた。




「ま、待て!!」




俺は更に目を細めた。




「チャンスは与えたはずだ」




蛇達は恐怖のあまり涙を流した。





「た……助けて」





俺は大きく息を吸い込んだ。








「  断  る  !!  」








同時に手を振り下ろす。








心の城ハートキャッスル 流星メテオ!!」







俺が浮かべた城は流星の如く飛来した。標的を合わせた全てのテラスネークに向かう。


その抗えない力に、絶望感が全身を支配する。テラスネークは断末魔の叫びをあげた。









「ギャァァァアアアアアア!!」








ドドドドォオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!



衝突音が僅かながら遅れるほどに、その流星群は速かった。5000人のテラスネークはその下敷きになる。


僧侶リリーはその光景に目を瞬かせた。



「す……凄い」



後に残ったのは無数のクレーター。

その中央には全長5メートルの城が逆さまになって地面に突き刺さっていた。


俺は安否を確認する。



「みんな無事か?」



仲間達は勝利を確信して喜んだ。



「やったぜタケル!! 化け蛇を倒しやがった!!」


「師匠凄かったある!! 超絶的勝利ね!!」


「タケル様! ご無事でなによりです!!」



みんなは無事、怪我はない。

まずは一安心だな。



俺はクレーターを見て回る。


「どうしたあるか師匠?」


「ちょっとな……」


確かこの辺だったはず……。


俺が立ち止まると、そのクレーターの中には飛来した城から顔を出して苦しむ1体のテラスネークがいた。

体は潰れ瀕死であるが、わずかながら息があった。


勇者グレンは腕をまくる。



「あ!! タケル! しくじりやがったな!! よーーし! この蛇は俺様がとどめを刺してやろう!!」


「待て……。違うんだこれは……」


俺の顔色を見て、みんなは察した。

我慢できなかったのはグレンである。


「タケルゥ!! お前、まさか……。わざと助けやがったのかぁああ!?」


「…………」


「このお人好しがぁぁあああああああああああああああ!!」


苦しむテラスネークは、人型から元の姿である蛇へと変わった。

力を使い果たしたのだろう。その大きさは人型と同程度だった。

首から下は城で押し潰されており、蛇の舌がダラリと垂れていた。



「あぐ…………あ、ああ…………」



言葉にならないうめき声をあげる。

虫の息といってもいい。


俺は眉を寄せた。


「シシルルア……リリー。それから……ヤンディも。お前たちは回復魔法が使えるだろ?」


仲間達に不穏な空気が流れる。



「ちょいちょい待てぇええええい!! まさか治すってんじゃねぇだろうな!! ありえねぇぞこら!! こいつは俺達の命を狙った人類の敵だぜ!! スタット王国まで滅ぼそうとしてたんだからな!!」


「私も反対です!! みんなを騙したこの蛇は許せません!!」



俺が困っていると、賢者シシルルアは眉を寄せて笑った。



「やるわ……。治してあげる」


「シシルルアさん!! わ、私は反対です!!」


シシルルアは俺を一瞥。


「治してあげたいんでしょ?」


「ああ、すまん」


「タケルの希望なんだもん。仕方ないわよね」


「ちょ、ちょっと! シシルルアさん!!」


シシルルアは蛇の傷口に手をかざした。

僧侶リリーは俺とシシルルアを交互に見る。



「んもう!! 私は反対なんですからね!!」



そう言って、シシルルアと共に回復魔法をかけ始めた。

賢者ヤンディは目をそらす。


「わ、私はやんないよ!! こいつはアスラ様を殺したんだ。だ、誰が治してなんかやるもんか!!」


そのとおりだな。

彼女に頼むのは酷だろう。



しばらくすると、テラスネークの出血は止まり、頭と首までしかなかったが、ある程度は話せるようになった。


蛇は目を細める。



「私を助けただと…………。どういうつもりだ? また貴様達を裏切って命を狙うかもしれないのだぞ」


「死にたいならそうしてやるさ。ただ、お前は助けを求めた。俺はその希望を叶えてやっただけさ」



テラスネークは俺から目を逸らすと、その瞳にはうっすらと涙が見せる。


死を直前にして怖かったのかもしれないな。安堵の涙だろう。


蛇はつぶやいた。




「断ったくせに……」




その言葉は男に振られた女のようだった。

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