第166話  破壊神シバの武器

宙に浮かんだ人型は次第に鮮明な姿を見せた。

腕は4本。釣り目は4つ。牙の生えた口。炎のような髪型をしていた。


人間とは明らかに違う風貌。荒ぶる神という印象。体長は30メートルを超える。近くにいるだけでビリビリと空気が震えるようだった。体に触れるだけで自分が消滅してしまう。そんなイメージが頭の中から離れなかった。

これが破壊神シバである。


『我の武器を手にするは大蛇か!』


腹の奥底から響くような低い声だった。


コイツが世界を破滅させようとしているのか! 力も価値観も、きっと常軌を逸しているだろう。俺がここで立ち向かったところで、何も解決はしない。だがしかし、せめて、あの空天秤を消して欲しい!!


俺の思惑を他所に、テラスネークはニヤリと笑った。


『人間達の命を、あなたに捧げましょう』


シバが口角を上げたかと思うと、凄まじい稲光りが轟音と共に発生した。



ドン! ゴロゴロ!!



それはテラスネークを包み込む。

稲光りは空気中の水分を全て蒸発させた。彼女の周囲を湯気が舞う。


その湯気が消えると同時に、辺りを覆っていた暗闇は晴れ、破壊神シバの姿は消えていた。日の光が差すいつものアリアーグの景観へと戻っている。

仲間達を見やると、それぞれを拘束していたテラスネークの分体は消えていた。


まずは一安心。しかし、人質をとらなくてもいいほどに、奴は自信があるのだ。


ゼノは地下へと戻りながら両手を天に掲げた。


『さぁ神の子らよ。生きる意味を求めて、戦え』


俺達の体は浮かび上がり、瞬時に他の場所へと転移した。



◇◇◇◇



ーーアリアーグ平原ーー


そこは、街から離れた草木が生い茂る平野。


アリアーグの街を破壊して欲しくない管理人ゼノの想いが、俺達をここへ移動させたのだろう。


眼前のテラスネークは禍々しいオーラを放つ。

俺とアスラは身構えた。

まずは俺達を心配する仲間達を心の城ハートキャッスルに収納しよう。


城の中に入った仲間達から応援の言葉がかけられる。僧侶リリーは目に涙を溜めた。


「タケルさん! 無理しないでくださいね!」


「ああ、大丈夫だ」


さて、アスラの仲間達も城に入れてあげようか。城を分けておかないと城内で戦い出すかもしれないからな。


賢者の女は泣いていた。


「アスラ様ぁあ! あんな蛇なんかぶっ殺してくださいぃいい!!」


「フン! 言われなくてもそうしてやる」


俺はそれぞれの仲間を城の中に収納すると、亜空間へと移動させた。


これで俺とアスラとテラスネークだけだ。


「仲間を人質にされることもないさ」


「フン! 俺は奴隷などどうなってもいいがな!」


やれやれ。素直じゃない奴。

テラスネークは鎌首をもたげて笑っていた。


『あらあら、スッキリしましたね。でもこれで気兼ねなく殺し合いができます』


「タケル! 奴のスキル蛇神化スネクマキナは俺の神の創時器デュオフーバで無効化してやる! 警戒するのは最後の武器だ!」


頼もしい言葉だな。

問題は、最後の武器、1つだけか。


「間違えて俺の闘神化アレスマキナを無効化するなよアスラ」


彼はムッとしたように眉を寄せる。


「俺はそんなヘマはしない」


「軽い冗談のつもりで言ったんだが……」


「こ、こんな時に! 馬鹿! 死ぬかもしれないんだぞ!!」


俺は笑う。そして大地を蹴って飛び出した。


「アスラ! お前がいるから心強い!」


「フン! 蛇を倒したら次はお前だ!!」


俺は手の平に力を集中させた。

その上方には大きな城が現れる。

そのまま、相手にボールを投げつけるように腕を振り下ろした。



心の城ハートキャッスル 攻撃アタック!!」



大きな城はテラスネークの巨体目掛けて飛来する。



ドシーーーーン!!



蛇はその巨体を高速で避ける。軽い枝を手で振り回したような速さ。それは質量を無視した不可思議な光景だった。


「テラスネークの神速か!」


『ホホホ。正確にはスキル蛇神化スネクマキナ蛇神速!』


だが、こちらにはアスラがいる!


神の創時器デュオフーバ! サック!!」


Tの字になった神の創時器デュオフーバの先端が光る。スキル蛇神化スネクマキナの力を吸い取ったのだ。


これでテラスネークはその巨体を通常の速度でしか動かせない!


再び俺は城を発生させた。



ぶつける。



心の城ハートキャッスル 攻撃アタック!!」



ドゴン!!



轟音と共に城はテラスネークの巨体に命中した。


「グェエエッ!!」


蛇は苦しさのあまり大きな口を開ける。

アスラは笑った。


「ハン! 案外大したことなかったのかもな!! 神の創時器デュオフーバ マーダー!!」


アスラが神の創時器デュオフーバを振り下ろすと、そこから斬撃波動が生まれた。波動はそのままテラスネークに命中する。



『ギャワァァアッ!!』



蛇の巨体は真っ二つに両断された。

大量の血が飛散し、その体は大地に伏せる。


「ハハハ! 見たかタケル! 俺達の力は最後の武器を上回っていたようだぞ! まるで赤子の手を捻るようだ!!」


いや、まだ武器の力を見ていない。

使っていたのはテラスネークのスキルだけだ。


刹那、空間に違和感。


「アスラ、後ろだぁあ!!」


アスラの後ろは何も無かった。

だが、空間が歪み、明らかにおかしい。

それは蛇神化スネクマキナ擬態によって姿を透明にしたテラスネークだった。


アスラが瞬時に神の創時器デュオフーバ サックで力を吸うと、テラスネークの透明化は解け、凶悪な顔面が浮き彫りになる。その大きな口は巨大な津波のようにアスラを飲み込もうとした。


「馬鹿な! 俺は殺したはずだぞ!」


俺もアスラも、テラスネークの死体を確認する。確かに、大きな肉塊から血を滲ませて倒れていた。


「避けろアスラァア!!」


「クソ! ダメだ間に合わない!!」



バグン!!



蛇はアスラを飲み込んだ。

俺は冷ややかに笑った。



「目測さえ立っていれば、問題はないんだ。心の城ハートキャッスル フォート!!」



テラスネークの口から大きな城が出現。城はアスラを包み込んだ。



  ド  パ  ン  ッ  !!



蛇の頭部は心の城ハートキャッスルによって破裂した。


蛇の首から流血が止まらない。


城を解除するとアスラがジト目でこちらを見つめていた。


「……礼なんか言わないぞ」


「いや、求めていない」


……こいつも分体じゃない、実体だ。

分体は生々しく血液を出したりはしない。どうして実体が2体も存在しているんだ?


俺達の周囲を透明の何かが囲う。

その殺気は、不気味な様相を掻き立たせ、俺達の鼓動を速くした。

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