第152話 資格

ゼノが両手を掲げると、地下から大きな石柱が1本現れた。幅は太く2メートルを超える。


『この石柱を破壊できる者に資格を授けよう』


アスラはつまらなさそうに小首を傾げた。


「くだらん余興だ。神のカリスマをさっさと測ればいいだろう」


『そうはいかん。ここに集まった者、全員が対象になるのだ』


くノ一の女が不敵な笑みを浮かべて前に出た。


「なら、あちきにも壊す権利があってもいいんどすえ?」


『勿論だ』


「アスラ様、石柱の破壊。あちきにやらせてもらってもいいでありんすか?」


「フン。勝手にしろ。俺の奴隷に破壊されるようなら大した試練ではない」


あのくノ一は確か……。


「ビビージョォオオオオ! 今日もべっぴんさんじゃのぉおお!!」


やれやれ、彼女が虎逢真の惚れた女か。

確かに奴が惚れそうな綺麗な見た目をしているな。


虎逢真が手を振ると、ビビージョは顔を真っ赤にした。


「バ、バカ! アンタなんか知らないでありんす!! あちきが神の武器を掴んだら真っ先にぶっ殺してやるでありんす!」


くノ一は詠唱とともに印を組んだ。


「破血! 鬼勇! 獣! 忍法 蜂獣鬼牙!!」


クナイを投げるとそれは大きな蜂と鬼、ライオンの姿になって石柱を攻撃した。



ドゴォオオオオオン!!



けたたましい接触音が辺りに響く。

しかし石柱には傷一つつかなかった。


虎逢真は腕をまくる。


「ビビージョがやったんじゃあ! ここはおいにもやらせて欲しいぜよ!」


両手を天に掲げると光が猫の形を作った。


獣罵倒ビーストスラング  熱虎火湧威ねこかわいい!!」


両手を振り下ろすと猫を模した炎のオーラが石柱を攻撃した。



バグゥウウウウウンッ!!



「なんちゃあ! 硬っい石柱ぜよ。震えるだけでびくともせん!」


「ハハハ! ざまぁみろでありんす! やはり石柱を壊すのはアスラ様しかいないでありんす!!」


「なんちゃあ! おいもおんしも石柱を壊せんかったんじゃあ。似た者同士ぜよ! やっぱり運命なんちゃねぇ!!」


「バ、バカ!! 何を嬉しそうに言うでありんすか!」


アスラは背負っていた杖を手に持った。それは昨日手に入れた神の武器。神の創時器デュオフーバだった。



ブォオン!



それは軽い一振り。

アスラの体も眉一つさえ動かない。

それでもその場の空間を割くような凄まじい斬撃波動が生まれ、石柱を襲った。



ガズゥウウウンッ!!



虎逢真やビビージョの攻撃にビクともしなかった石柱は大きな亀裂を出して崩れ落ちた。


「やれやれ。くだらん試練だ」


『アスラ・シュラガンを認めよう』


ゼノの言葉に、アスラ軍の兵士達が沸く。その声援は狂信的で、まるでコンサートに大好きな歌手が舞台に立ったような感じだった。


俺も挑戦したいが、石柱は壊れてしまったな。


「ゼノ、まさか俺の分が無いなんてことはないよな?」


『勿論ある。希望があれば石柱は何本でも出そう』


ゼノが片手を上げると、地下の入り口から石柱がもう一本現れた。


俺はすぐさま宙に上がり体を回転させる。



「スキル闘神化アレスマキナ神空脚!」



俺の蹴りは石柱に命中。

そのまま一気に破壊した。



バゴォオオオオオオオンッ!!



虎逢真は飛び散る破片に目を見張る。


「お、おいが潰せんかった石柱を軽々と……」


この程度の硬さなら限界突破を使わずとも破壊できるな。


ゼノは軽く頷いた。


『タケル・ゼウサードを認めよう』


俺とアスラの頭上には大きな数字が浮かび上がる。それは上空10メートル。数字の大きさは20メートル以上あるだろう。『0』と表示されていた。


昨日の表示より随分とデカいな。

集まった兵士達はアスラ軍も含めると100万人以上。表示を大きくするなんて、全員に目がつくように工夫したのかもしれんな。それに、ここで表示を出すということは、地下に降りなくとも、地上で神のカリスマを測るようだな。



ゼノが両手を天に掲げると、俺達は光りに包まれた。瞬く間に辺り一面が光り輝く空間へと変わった。


不思議な空間だ……。

地面も空も、全てが淡い光りに包まれている。もう空を飛んでるのか地面に立っているのか、それさえもわからんな。


「ゼノ、なんだここは?」


『ここは神の部屋。光りの力で構成された異次元空間だ。アリアーグから周囲5キロの人間を、この神の部屋へと移動させた。この範囲内にて神のカリスマを測る』


大きな表示といい、この部屋といい。まるでこうなることがわかっていたような対応だな。


「ククク……。楽しみだなタケル。俺とお前、どちらが、神の武器を持つのに相応しいか、これで勝負が決まる。数は圧倒的に俺の方が上! お前に勝ち目は無い!!」


アスラの言うとおりだ。集めた兵士の数では圧倒的にアスラの方が上だ。しかしな……。


「アスラよ。俺の演説はまだ終わりじゃないぞ」


「何ィイ!?」


俺は仲間達と事前に打ち合わせをしていた。


ママジャン王国の姫、マーリアは氷のスキルで空中に大きな氷の壁を作る。


そこに賢者シシルルアの魔力を使って俺の顔を投影。魔法使いレイーラの魔力を使って俺の声を増幅させた。



「アスラ軍の兵士達よ。本当にこのままでいいのか!? アスラを推せば奴隷世界が広がる。友人、家族、恋人。守れるのは自分だけだ! アスラと戦う勇気を持て!!」



俺の声はアリアーグに響いた。

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