第153話 対決! 神のカリスマ戦!

アリアーグに集まった奴隷兵士達は目の前に現れた氷の壁に目が釘付けだった。それは宙に浮き、俺の顔を投影させる。


魔法使いレイーラの魔力によって俺の声は増幅され、アリアーグに轟く。



「闘え! 俺と共に! アスラを倒してこの世界を守るんだ!」



アスラは氷の壁を神樹槍にて破壊した。


「フン! くだらん小細工だ」


アスラ軍の先頭に立つ賢者の女は俺に怒号を飛ばす。


「てめぇ卑怯だぞタケル!! アスラ様と正々堂々と戦いやがれぇ!!」


「恐怖で相手を屈服させる方が汚いとは思うがな」


「ざけんな! それがアスラ様の魅力だぁあ!! アスラ様は強くて優しくて最高なんだよぉ!! 奴隷になりゃあ、みんなは幸せになれるんだぁあッ!!」


やれやれ、盲信的だな。

しかし、この女が言ってることは的を得てるのかもしれん。

確かにアスラは奴隷には優しく接している。歯向かう存在には容赦がないが、奴隷になった者には決して強く当たらない。その証拠に、あの元勇者グレンでさえ酒池肉林の好待遇だ。従来の支配者とは明らかに違う。どこか、親しみを感じる不思議な存在だ。

かといって、それだけで奴の全てを判断できない。奴隷にする手段は残虐な殺人だ。統率している力は恐怖。

だから、アスラ軍の兵士達には俺の声が響いたはずだ。中には家族や友人、恋人を殺された者達が大勢いる。そんな者が心の底からアスラを崇拝できる訳がない。俺の声がトリガーとなって、神のカリスマに影響を及ぼすはずだ。


ゼノは両手を天に掲げた。



『さぁ! 神のカリスマを測ろうか!』



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。


神の間に地震が起こる。

揺れが治ると、俺とアスラの頭上に表示されていた大きな数字が、けたたましくカチカチと音を出して上がり始めた。


10……100……1000……。


みるみる上がる。やがて万を超えて10万単位へと突入した。


アスラ軍の賢者の女は舌を出して大はしゃぎ。


「てめぇら、もっとアスラ様を応援しろぉ! 慕え、愛せ、命を捧げよぉおおおーーーー!!」


やがて数字は落ち着いて、目まぐるしく進んでいた数字もカチリカチリとゆっくり増えるようになった。


その数、アスラは40万126人。

俺は39万9574人だった。


アスラは顔をしかめた。


「どういうことだ! 俺の兵士達は100万人以上いるはずだぞ!! なのに半分も記録していない!」


俺の方は50万人だ。残り10万人の記録が無い。


ゼノは眉を上げた。


「人の心は複雑だ。それを神の力で数値化している。お前達を愛し信頼する者の数値はそれだけなのさ。いくら上部だけ応援していても内面で愛されていなければ計上はしない」


なるほど。

人に愛されることの難しさが身に染みてわかるな。

アスラ軍100万人に対して約40万人の記録。さっきやった俺の演説は、少なからず効果があったとみていいだろう。


上空の数値はゆっくりと上がり続けていた。

ゼノはそれを指差す。


「あの数値が止まった時、神のカリスマの持ち主が決定される」



俺とアスラの数値はゆっくりと上がっているものの、両者共に今にも止まりそうだった。


やれやれ。ここまで拮抗するとは思わなかったな。運命は皮肉にもアスラの方が多い。あの上昇が止まればおしまいだ。


俺の仲間達は50万の兵士達に声をかけた。


「みなさん! タケルさんを応援してください! 神の武器がアスラに渡れば世界は終わります!!」


「おまんらタケルを信頼するぜよ! 奴はまっこと強い男じゃあ! 必ずみんなを救ってくれるっちゃ!!」


「みんな師匠を応援するある!! みんなが幸せに暮らす為にも、絶対ここは勝たないといけないある!!」


最終数値が出る。


アスラ、40万233人。


タケル、39万9860人。


その差、373人。


俺の集めた兵士は50万人。

まだ10万人の中に支持者がいる可能性はある!

俺は大きな声を張り上げた。



「頼む!! 俺に力を貸してくれ!!」



しかし、その声は虚しく空に響くだけ。数値が変わることはなかった。


アスラは込み上げた笑いを堪え切れずにいた。


「フハッ!! やった! やったぞ! ギリギリだったがタケルに勝った!!」


ゼノが勝敗を告げるために、ゆっくりと息を吸い込んだその時。




カチカチカチカチカチ!!




俺の数値は上昇し40万人を超えた。


「……どうして!?」


後方から転移魔法使いユユの声が聞こえる。


「カザンガからアリアーグまで、疲れたぁ〜〜」


振り向くと、ユユの後ろには人集りが見える。その先頭に立つのはがたいの大きな男だった。

懐かしい声が聞こえる。





「タケルどん。世界の危機なら、おいどんにも手伝わせて欲しいでごんす」





そ、その声は──。


愛嬌のある懐かしい笑顔がそこにあった。温かくて仲間想いの男。






「ゴリゴス!!」






他の仲間達も驚きを隠せない。みな口々に再開した喜びの声を上げる。

ゴリゴスは部下を大勢連れて来ていた。

その1人が俺の方を見つめる。


「ゴリゴス社長。この方が創設者でしょうか?」


「そうでごんす! ゴリゴスカンパニーの創設者、タケル・ゼウサードでごんす!!」


俺が創設者?


「ゴリゴス、どういうことだ?」


「タケルどん。ゴリゴスカンパニーはタケルどんのおかげで創設できたでごんすよ。だからタケルどんの石碑や銅像を建てて祀っているでごんす! 社員達はタケルどんのことを神のように崇めているでごんす」


おいおい。石碑や銅像なんてやり過ぎだぞ……。

と言いたいところだが、今は助かるかもしれない。


ゴリゴスの社員達は転移魔法陣からゾロゾロと現れた。みな俺を見て膝を突き頭を下げる。


「貴方がタケル様ですか! お会いしたかったです!」

「貴方のおかげでゴリゴスカンパニーで働かせてもらっています!」


それにしても数が多い、百人どころじゃないぞ。


「ゴリゴス、一体何人の従業員がいるんだ?」


「まだまだ発展途中でごんすが、目一杯連れて来れるだけ来たでごんす。全員で千人でごんす」


そ、そんなに!?


「ゴリゴス、仕事は上手く行ったんだな」


「全部タケルどんのおかげでごんす」


「カザンガはアスラ軍に制圧状態と聞いていたが大丈夫だったのか?」


「ゴリゴスカンパニーの財力で地下に基地を作って隠れていたでごんす。そこに転移魔法陣が現れたから驚いたでごんすよ」


ユユががんばって調べてくれたんだな。

彼女は本当によく気が付く人材だ。


僧侶リリーは飛び上がった。


「タケルさん見てください! 数値が上がってます!!」


アスラ、40万233人。


タケル、40万860人。


ふぅ……。

みんなのおかげで、なんとか勝てたな。

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