第143話 タケルの試練
〜〜タケル・ゼウサード視点〜〜
教会の地下に降りるとそこは広い空間だった。5万人以上は入れるだろうか。壁は青白く光り、特殊な文様が装飾されている。
見渡すと先客がいた。
やはり生きていたか……。
アスラ・シュラガン。
やはり奴も……。
「お前も神の武器を求めていたのか」
アスラは鼻の上にシワを寄せた。
「あの大蛇の入れ知恵か。貴様がここに来るとはな」
アスラを観察する。
あの様子だとまだ武器は手にしてないようだな。
虎逢真は大きな声を上げた。
「ビビージョォオオオオ!! 会いたかったぞぉ!!」
くノ一のビビージョは真っ赤な顔になって叫んだ。
「お、お前なんか知らないでありんす!」
虎逢真は腕を上げてブンブン振る。
「ビビージョ、この戦いが終わったら2人で酒を飲み明かそうっちゃ!!」
「バ、バカ!! お前と酒なんか飲まないでありんす!!」
アスラの仲間には見覚えのある男が2人見えた。
太っている男は、確か……。美食ギルドのグウネル。キャビアやクジラを買ってくれた商人だ。
彼は俺と目が合うと気まずそうに目を逸らした。
そしてもう1人。
思わず瞬きして目を疑う。
見慣れない服装なのでしっくりこないが、間違いない。あの真っ赤な髪に鋭い目。
あいつは……。
「グレン様だぁーーーー!!」
俺が答えを出すより早く、僧侶リリーが大声を張り上げた。
「タケルさん、グレン様がいますよ!」
「ああ……」
あいつ……なんでアスラ側にいるんだ?
グレンは胸を張って前に出た。
「ナーーハッハッ! タケル! リリー! 久しぶりだなぁ!」
やれやれ。妙に威勢が良いな。
グレンは母国スタット王国から指名手配を受けている罪人である。罪状は勇者給料の横領。魔王討伐の旅をせずに王国から支給される公金を無駄使いしている罪である。
どの面下げて俺達に話しかけているんだろう?
「グレン……。お前、アスラの仲間になったのか?」
「カッカッカッ! そのとおり!! 時代はアスラ様がお造りになっているのだ!!」
呆れる。
ただ呆れる。ため息すら勿体ない。
「……お前、それでも勇者かよ」
「うるさいうるさぁあい! 俺はもう勇者じゃねぇ!! アスラ軍の参謀だぁ!!」
「本気か? お前は正義を誓った勇者だろう。今からでも遅くはない。罪を償ってやり直せ」
「バカが、誰が戻るかよ! 俺はスタット王国の衛兵達に追われて困窮してたんだ! ゴミの街ストラプスで生ゴミを漁って生活していた! それを助けてくれたのがアスラ様だぁ! 今じゃ参謀になって奴隷の女を抱き放題よ! こんな美味しい身分を手放せるかぁあ!!」
やれやれ。どうしようもない奴だな。
魔王討伐が始まった頃は、もう少しマシだったんだがなぁ。
アスラは俺を睨みながら、白髪の男に声をかけた。
「おい、次の試練を始めろ!」
「あの者達はお前の仲間か?」
「タケルが? あいつは俺の敵だ」
「ほう……。どちらにせよ確かめねばならん」
白髪の男は一瞬にして移動。俺の目の前に立った。
「私の名はゼノ。ここの管理人だ」
「俺はスタット王国の城兵、タケル・ゼウサード。あなたが神の武器を与えてくれるのですか?」
「そうだ……」
ゼノと名乗る男は無表情なまま俺を見つめ続けた。その瞳は渦を巻き、何か、特別は力を発動させているようだ。
しばらくして、ゼノは目を細めた。
「不合格だ」
何?
試練はもう始まっていたのか?
「どういう意味だ?」
「お前達は神の武器を持つ資格が無い」
「何が悪かったんだ? 何もせずに判断されては諦めがつかんぞ」
「神の武器は人類を弱体化させることが目的だ。お前達は人類を助けようとしている。そんな者に神の武器は渡せない」
テラスネークが言っていたとおりだな。
最上位の神が作った最強の武器。その目的は人類の弱体化だ。
とするならば、あそこにいるアスラの目的は人類の大量虐殺。人の数が減れば人間全体の力は落ちる。つまり弱体化と言っていい。
そうなると、アスラは初めの試練をクリアしたことになるな。
……どうすればこの試練をクリアできるのだろうか?
俺が眉間にシワを寄せていると、ゼノは俺に興味を失ったようにサラリと言った。
「10秒以内に立ち去るが良い。時間が過ぎれば石になるぞ」
「何!?」
辺りを見渡すと、そこかしこに石化した人間の部位が散らばっていた。
「タケルさん! 落ちているのは石化した人間です! このままだと私達全員が石になってしまいます!!」
「タケル! 帰るぜよ! 一旦引いて作戦を立てるんじゃあ!」
「いや、ここは絶対に引けない」
俺の言葉に場は騒然と化す。
口々に疑問の声を張り上げた。
「「「 どうして!? 」」」
俺は眉を寄せる。
「アスラはまだ神の武器を手していない。つまり試練の最中なんだ。今、このチャンスを逃すと奴が神の武器を手に入れてしまう」
テラスネークが言っていた。
神の武器は世界最強の武器。
そんな武器をアスラが手にしては人類が終わってしまう。
「しっかし、石化してしまっては元も子もないぜよ! ここは一旦引くんじゃタケル!!」
「タ、タケルさん! 足が石になってます!」
下に目ををやるとみんなの足元がゆっくりと石化し始めていた。
ユユは転移魔法陣を出現させて俺を誘う。
「タケルーー! 早く離れないとーー!」
俺は一歩も動かない。
「……みんなは逃げてくれ。俺はここに残る」
「バカチンがぁ! んなことできるわけないぜよぉ!! 早よぉせえタケルゥウウ!!」
神の武器がアスラの
アスラは立ち尽くす俺の姿を見て笑った。
「ハッハッハッーー!! 無様だなタケル!! 最上位の神達は俺の味方なのさ!! 逃げなければ石になってしまうぞ! アーーハッハッハッ!!」
俺の足元は灰色に変色。パキパキと音を立てて石化が始まっていた。
……落ちつけ。
まだ石化は足元だけ。
情報を整理するんだ。
アスラの言うとおり、最上位の神は人類の敵だ。味方じゃないのかもしれん。
俺の味方は虎逢真達……。
達……。
…………。
そうか!
「わかった! わかったぞ!!」
俺はゼノに呼びかけた。
石化は進む。
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